HRの編集長インタビュー

編集長プロフィール

グラフィティマガジンズ
「HR」編集長 鈴木俊二さん

すずきしゅんじ 福島県出身。早稲田大学法学部卒業。サラリーマン時代を経て、2004年グラフィティマガジンズを設立し、雑誌「Tokyo graffiti」を創刊。2010年3月に、高校生参加型新雑誌「HR」を創刊。趣味はサーフィン、と書きたかったが3回で挫折。現在目黒区で、柴犬と1人+1匹暮らし。

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第29回 HR 編集長 鈴木俊二さん

高校生の等身大のリアリティを見てください。

―新創刊の「HR」についてお訊きする前に「g(Tokyo graffiti)」について教えてください。常々斬新な雑誌だと思っていました。

これが創刊号。かなり強気のデザインだ
これが創刊号。かなり強気のデザインだ

ありがとうございます。僕は出版社にいたわけでもないし、プロの編集者について何か勉強したわけでもありません。ですから、そんな素人っぽいつくりが、プロの方から見ると新鮮に見えてしまうのかもしれませんね。
創刊したのが2004年。本当に業界のことなんか何も知らず、一緒に立ち上げた仲間と、「こんな雑誌やる気なんですけど」って雑誌の取次会社に行ったんです。まったく相手にされませんでした。
困ったなと、書店の知り合いに相談したら「書籍コードで出せば本屋に並ぶよ」と教えられて、ああそんなやり方もあるのか、と(笑)。そんなレベルで始めたんですよ。
でも、この業界っていいな、と思ったのは、大手書店でも直に話を持っていけば、意外と店に並べてくれたりするんです。こっちは何の実績もないのに。懐が深い業界だなと思いましたね。

―そんな緩さ、参入障壁の低さが、この業界の良さでもあったわけですが、いまではそれがどちらかというと悪い意味に使われていますね。こんなもの誰でもできるじゃんと(笑)。でも、なぜ雑誌をつくろうと思われたのですか。

清志郎さんとエヴァンゲリオンを愛する編集長
清志郎さんとエヴァンゲリオンを愛する編集長

大学出ていわゆる普通の企業に就職するのもなんだなぁ、と思っててマスコミの入社試験を受けたのですが、全部落ちちゃって、それで某ファッションビル運営会社に入ったんです。
マスコミではないですが、いろいろ好きなことがやれそうでしたし、企業イメージもよかったので。そこでイベント考えたり、プロモーション考えたりしてました。そのとき若い人たちに向けての企画をいくつかやらせてもらって、若いターゲットっておもしろいなという手ごたえは感じていました。
在職中に熊本に転勤になって、そこでタウン誌っぽいローカル誌をつくりました。そのとき、自分がイメージしていることが形になっていくことのおもしろさに気づいたんです。小学生のときつくってた壁新聞を思い出して、あぁ、これって自分にあってると思ったんです。
そこでローカル誌編集を経て、東京に戻り、仲間とこの会社を立ち上げたんです。

―ミニコミづくりと若者イベントで体験的に学ばれたわけですね。最初から雑誌自体の評判はよかったのですか。

そうですね、僕自身もいけると思ってましたし、都心の店舗では評判がよかったです。4号目あたりからブレークし始めました。
ヴィレッジ・ヴァンガードの下北沢店から電話があって、「g」のバックナンバー展やりたいから100部ずつ納品しろと。へーって驚いて、見に行ったら「いま下北沢で一番売れている雑誌です」ってPOPが出てて、それからも追加がきて、あぁこれで続けていけるかなとほっとしたのをよく覚えています。

―これだけの人を取材するのは大変だと思いますが、この雑誌のコンセプトは何ですか。

取材も撮影もデザインも、何役もこなす編集者
取材も撮影もデザインも、何役もこなす編集者

よくテレビで街頭インタビューとかやってますけど、あれ、面白いなと思って。テレビだと出演者のタレントなどがメインで、街頭で登場する一般人はサブ的な扱いじゃないですか。でもよく見てると、一般の人も結構面白いこと言ったりするんですよ。
僕はやはりリアルな現実のほうに興味があるので、タレントのようにつくられた世界の人たちの発言より、市井の人たちのリアルな発言に惹かれます。だからそちらをメインにしようと思ったわけです。これは「HR」にも引き継がれてます。
でも、匿名でやりたくない。匿名だと、ネットの誹謗中傷の世界に象徴されるように、ひどく荒れた世界になる。普通の人が等身大で自分自身の身を明かし、公明正大に自己責任で発言しなければ、ちゃんと伝わらない、そう思ったんです。
ネットの匿名の書き込みって本当に不愉快ですよね。ちょうど、イラクで日本人が人質になって、みなその人質をネットで中傷してるのを見て、うんざりしたことを覚えています。これじゃあ普通に暮らす人たちのリアルは見えてこない。やはり発言や露出は顔を出して身を明かしてなんぼだと。
こう発言したら何か言われるんじゃないか、とか、こう書いたらこんな攻撃受けるんじゃないかとか、そんな世界ではどうしようもないですよね。だいたい、自分を明かさないでする発言ってよくないものが多いんですよ。僕はあの匿名の気持ち悪い世界が大嫌い。

―スタッフの方もかなりいらっしゃるようですが、ビジネスとしてはいかがですか。

インターンの人たちの出勤表もユニークだ
インターンの人たちの出勤表もユニークだ
会議の議事録だぴょーん
会議の議事録だぴょーん

これからも雑誌の部数を伸ばしていくようなモデルは難しいですよね。でも、その周辺でうちのビジネスは伸びています。広告もメディアミックスのある部分を引き受けるという形でうまくまわっていますし、とにかく毎号1000人の素人の人間が登場するわけですから、広告的にはいろいろトライができるのだと思います。
われわれは「草の根リアリティ」などと呼んでいるのですが、一般人参加型の等身大キャンペーンなどには適しています。読者は10~20代の男女とざっく りですがわかっています。でもこの人たちが本当に幅広い志向性なんです。ですから広告も、化粧品のあとにサッカー協会が入って、そのあとは音響メーカーで農林水産省でと(笑)。こんな無茶な入り方する雑誌はないでしょうね。
編集も外注ではなくすべて社内でつくります。企画を立て、取材をし、原稿を書き、写真を撮り、デザインまでする場合もあります。ひとり何役もこなすんです。それに、学生インターンが多いときで4、50人います。彼らに街頭取材などをやってもらうことも多いです。彼らにしてみれば、仕事の勉強にもなるわけですから、結構はりきってやってますよ。

―素人の人たちをたくさん登場させて、いろんな切り口で見せるというのは、CGM(読者が媒体を生成する)的要素が不可欠なネット時代に非常に適した媒体だと思います。

そうですね。あまり意識はしていませんでしたが。でもこういうメディアはネットの世界との親和性が高いでしょうね。ただ、ビジネスを考えると、携帯もwebもあまりうまくいってませんね。紙の編集の世界とネットの世界がまだまだ乖離していると実感しています。

―で、そんな鈴木さんが、今度は高校生のマーケットに参入されると。「HR」ですね。

創刊前の「HR」。まだ出来は5合目くらい
創刊前の「HR」。まだ出来は5合目くらい

はい。「g」とコンセプトは一緒です。「高校生の“キモチ”発信マガジン」というキャッチコピーです。年が下がって高校生のリアルになっただけです。
いまお話したことの対象が高校生になったってことです。高校生って時代の変化を受けやすく、大学生より明らかにもろい。扱うのにはなかなか難しい対象かもしれません。
メディアに登場する高校生というのは、渋谷に生息するようなケバいギャルだったりしてちょっと極端な子たちが多い。それはつくり手も見るほうも分かりやすいから、ということなのでしょうが、それでは高校生のリアルを伝えてはいませんよね。
「東京ガールズコレクション」なども女子高生全員が見てると思われているようですが、調べてみるとクラスで数人いるくらい。ですからアベレージじゃないんです。われわれはあくまでアベレージ、いわゆる普通の、等身大の高校生像に迫りたいんです。

―「HR」の企画を拝見しました。カップルのメール公開があったり、日常のスナップがあったり、写真日記があったり、確かにリアルですが、高校生ということで、プライバシーの問題が気になりますね。

まずは本人に露出の仕方を説明し了解をもらってサインもしてもらいます。その段階で問題があるようなら掲載はしません。保護者や学校に問題があるようなら、連絡をもらって掲載しないようにはしています。学校や親から見て決してまゆをひそめるような内容ではないし、できれば親子で楽しめるようなものにしたいと思っています。でも教育テレビのような内容にはなりません(笑)。
個人情報についてわれわれは若干過敏になりすぎているような気もしています。行き過ぎるとメディア自体が成立しなくなってしまいます。われわれの媒体では、基本、すべて本人が了解し、顔も名前も明かした上での登場になりますので、その問題はないと思っています。
いままでも、たとえばマイノリティの人たち、ゲイやレズのカップルなどに登場してもらったりもしていますが、何もトラブルになったりしていません。

―都市型マガジンになるのですか。

いや、むしろ「g」より全国色を強めようと思っているんです。ですから、創刊号から大阪や札幌や福岡やらの高校生が誌面に登場します。「g」の売れ行きを見ると確かに首都圏が一番売れるのですが、このコンセプトは全国に通用すると思うので。

―いまの高校生ってむかしと比べてどうですか。

高校生たちにオフィスに来てもらっていろいろ話をしていますが、大人っぽいし現実的ですね。荒唐無稽な夢は語らない。自己実現の可能性の範囲を理解していて、それをわきまえている。いまの時代っぽいですよね。
でもやたら「夢」を語るのはどうでしょうね。そのほうが嘘臭いし、語られる側には負担だったりしますよね。
「夢」を持たねばならない脅迫観念から、間違った行動をとってしまったり。僕は普通に勉強して、まじめに働いて、といった生活でいいと思うんですよ。それが何よりリアルなんですから。そんな視点から高校生の等身大の姿を見せていけたらいいなと思っているんです。

編集長の愛読誌

(2010年2月)

取材後記
「HR」「g」を発行するオフィスはapbankがプロデュースしたクルックキッチンの前だということで、原宿駅から竹下通りを抜けて行きました。平日の昼間でも賑わっていますね、竹下通りもクルックも。そんな若者文化を象徴するような場所に編集部はありました。編集部も若い人たちでごったがえしている印象です。この活気が、熱気が、ぶつかりあうことで、新しいものはできていくのでしょうね。
鈴木さんのつくる雑誌は、いまの若者文化の重要なエッセンスをうまく掬っています。毎回リアルに1000人の一般人を誌面に載せる、確かにそれだけで、ある世代の縮図が成立します。1000人もいれば必ず自分に似たタイプの人がいて、そこに共感が生まれたりもします。それに普通の人へのアプローチがうまい。普通の人に深く入り込むことで見えてくる世界の広がりが随所に用意されていて、これはマスではなく、個々人に刺さる次世代メディアを考える人たちにとっては大いに示唆に富んでいると思いました。
うちの息子も高校生なので「HR」の企画について聞いてみました。パラパラとページをめくりながら彼は「おもしろいんじゃない。でもオレ雑誌読まないからなあ」と言って、また携帯の画面に目をおとします。これもリアルです。君の父がその“読まない”という雑誌業界で四半世紀以上働いてきて、それによって君がスクスク育ったにもかかわらず、な。

インタビュアー:小西克博

大学卒業後に渡欧し編集と広告を学ぶ。共同通信社を経て中央公論社で「GQ」日本版の創刊に参画。 「リクウ」、「カイラス」創刊編集長などを歴任し、富士山マガジンサービス顧問・編集長。著書に「遊覧の極地」など。

小西克博写真

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