MOTO NAVI(モトナビ) の編集長インタビュー

編集長プロフィール

ボイス・パブリケーション
「MOTO NAVI」編集長 河西啓介さん

かわにしけいすけ 1967年生まれ。早稲田大学を卒業後、広告代理店、編集プロダクション勤務を経て㈱二玄社に入社。「NAVI」編集部勤務。2001年「MOTONAVI」を創刊。2003年より自「BICYCLENAVI」編集長を兼務する。ライフスタイル感溢れる誌面作りが読者の支持を得て、2010年独立。代表取締役として㈱ボイス・パブリケーションを設立。プライベートでは「ダイナマイトポップス」なる歌謡曲バンドのボーカルをつとめている。

編集長写真

第42回 MOTO NAVI 編集長 河西啓介さん

コンパクトな組織でコストを考えたつくりにすれば雑誌は継続できるものです

―ユニークなオフィスですね。

車の修理工場跡に新編集部ができあがった
車の修理工場跡に新編集部ができあがった
改造前はこんな場所でした、と編集長
改造前はこんな場所でした、と編集

ええ。元は自動車修理工場だったところを改装したんです。建築家のアイディアでオレンジ色がアクセントになっています。

―へー、修理工場ですか、お洒落ですね。

やはり仕事柄駐車スペースがないとまずいんですね。以前勤めていた二玄社は自社ビルでしたからバイクや自転車の置き場には困らなかったのですが、いざ自分で借りるとなると大変で、本当にいい具合のところが見つかったと思っています。
最初は寂しい感じがしたんですよ。でもガレージ住宅に詳しい方に相談したら、ここありだよ、って推薦されて。大人の隠れ家っていうか、秘密基地みたいな感じで面白いでしょう。
やっぱり編集部は人が集まってきてくれてナンボというか、集まりやすい環境を用意することが大切だと思うんですよ。ここだと面白そうだからいろんな人が来てくれるんですよ。
下のフロアはちょっとしたイベント空間にもなりますし、実際、バイクなどを撮影するスタジオとして活躍しています(笑)。

―なるほど、いいスタジオになりそう。ますます進化しそうで楽しみな場所ですね。
「モトナビ」が二玄社で休刊になってから新会社で新創刊されるまでの経緯を簡単に教えていただけますか。

はい。昨年末に僕が編集長を務めていた「モトナビ」「バイシクルナビ」をはじめ、「NAVIシリーズ」の休刊を会社側(二玄社)から通告されました。われわれにとっては青天の霹靂でしたが、全体の部数減、広告減のなかで雑誌を維持していくのが難しいということだったのです。
さて、どうしようかといろいろ考えました。他社からは一部引き受けて出版しようかとの話もありましたが、僕ひとりだけ転職してもいままで通りやれるはずもなく、基本的には編集部が全員同じような体制でやれる方法を模索しました。
幸い協力者、出資者が現れて、何とか自分たちで会社をつくって出版を継続できることになったというのがことし1月~2月の動きです。考えてみたら1月5日に休刊の正式発表があって、1月末には新会社で継続しようと決めていましたからね。

―休刊号をつくっているときに、継続できるメドが立ったそうですね。

「モトナビ」「バイシクルナビ」ともに新・創刊
「モトナビ」「バイシクルナビ」ともに新・創刊
奇しくも同じタイトルになった創刊号と休刊号
奇しくも同じタイトルになった創刊号と休刊号

休刊号の校了近くになってです(笑)。ほんと土壇場の大逆転でした。ですから、休刊号は「さよならモトナビ」といったメッセージ満載なのですが、あとがきに僕が「継続できるようになりました」と書いてる(笑)。

―でも、それだけファンが多かったということですね。

いやぁ有難かったです。休刊発表が出たときから読者からいっぱい励ましのお便りをいただいてましたから、それに応えることができて本当にうれしかった。出資者も商売抜きで協力して下さる、広告クライアントもいままで通りお付き合いして下さる、そして読者は「われわれにできることは定期購読を予約することくらいですが・・・」と言って本を買って下さる。本当に編集者冥利につきるなと感動の数ヶ月でした。
でも、その後もハードルがあって、「NAVI」というタイトルを使うと商標権でひっかかってしまうことがわかったんです。そこで二玄社と粘り強く交渉して、その名前も使えるようにしたんです。
もうひとつラッキーだったのは、いままでは二玄社の別冊の形で出していた雑誌だったのですが、このたび正式に雑誌コードもとれまして、やっと一人前になれました(笑)。

―販売と広告の比率はどれくらいですか。

だいたい半々くらいです。僕以下7人のスタッフ(編集5人、営業2人)というコンパクトな組織でコストを抑えてやっているので十分ペイしますね。むしろいままでより広告も販売も微増してる現状です。出版社ではいろんなコストが上乗せされますから、なかなか維持が難しいものでも、身軽な組織で出してみると意外とうまくいくものですね。
それに広告のタイアップをつくる延長で、企業の広告制作も引き受けています。独自のスタジオだってあるわけですから(笑)。

―社名を「ボイス・パブリケーション」にした理由は何ですか。

僕は以前から「モトナビ」の巻頭で「VOIVE」というタイトルでコラムを書いていました。結構共鳴してくれて支持してくれる読者が多かったので、それが由来ですね。
ただ「VOICE」には声の他に、意見や主張といった意味もあります。やはりわれわれの仕事は読者にメッセージを伝えることだと思うんです。ですから、そんな意味も込めて「ボイス・パブリケーション」という名にしました。

―河西さんは最初から二玄社の編集者だったのですか。

空中スタジオのような編集部
空中スタジオのような編集部
編集部内は整然としていてお洒落だ
編集部内は整然としていてお洒落だ

いえ、僕は最初は広告代理店の営業マンでした。でもクルマ好きが高じて自動車雑誌の編集プロダクションに転職、そこで一通り勉強させてもらってから二玄社に入社しました。しかも二玄社の試験に落ちてる過去もあります(笑)。
「NAVI」はずっと読んでいて、こういうのやりたいなと憧れていたんです。
ようやく入れてもらった二玄社では憧れの「NAVI」の編集をやりました。そして2001年に「モトナビ」をつくるので編集長になりました。それから03年に「バイシクルナビ」の編集長も兼務するようになりました。
やっぱりクルマ好き世代というか、16歳になったらバイク、18歳になったらクルマの免許をとって乗り回すというのが当たり前といった世代だと思います。
アウトビアンキの中古を先輩から買って乗ったとき、初めて外車の面白さというものが分かった気がしましたね。
「NAVI」をやっているとバイクの取材もあるんですね。そこで大型免許持ってる僕の出番になる。モトグッチやハーレーに開眼したのもそんな経験をさせてもらったからですね。

―でも、河西さんの雑誌はマニアックなつくりではありませんね。

そうなんです。僕は実はメカ音痴だし、自転車のパンク修理もろくにできない(笑)。いわゆるマシン・オタク的なことは一切できないんです。こんな仕事をしているにもかかわらず、自分の知識の無さにコンプレックスを感じていたときもあったくらいなんですよ。
でも、ご覧いただいて分かるように、僕はマシン・オタクの本をつくっているのではなく、ライフスタイル誌をつくっているんです。ですから雑誌の中に人がいっぱい登場する。素敵なバイクや自転車のあるライフスタイルですね。

―趣味と仕事が一緒になっている感じですね。

そうです。僕はラッキーな編集者だと思います。自分の好きなことをやり続けられる仕事に出会うことができて。でも編集者は職人だと思うんです。そんな自分の思いやこだわりやスタイルを正確に伝えて読者に共感してもらえるワザを磨かなければならない。

―じゃあ24時間、仕事してる感じですか。

はい。10時頃から深夜まで仕事してます。休んでると落ち着かないタイプなんです。でもバンド活動もしてるんですよ。

―え?

「ダイナマイトポップス」っていうコミックバンドの司会兼ボーカルです。ユーチューブ見るといっぱい映像がアップされていますよ(笑)。
実はむかしは、真面目くさってつまんないバンドやってたんですよ。でも全然受けない。
こりゃあかんと。やっぱり人に楽しんでもらえないものは続かない。ということでコミックバンド(笑)。

―目立ちたがり屋(笑)。

ええ。やはり人に受けるってすごく刺激になるんですよ。リアルに目の前にいる人が反応することが面白いし、それを盛り上げている自分も面白い。一体感があるんです。
雑誌つくりもこんな一体感は必要なんだと思うんですが、読者との距離はありますよね。ライブでは瞬時ですから。でもその体験が雑誌上の読者とのコミュニケーションにも生きていると思っているんですよ。

―「モトナビ」や「バイシクルナビ」読者の併読誌というと何になりますか。

「培倶人(バイクジン)」「自転車生活」(ともにエイ出版)といったゆるい系の専門誌でしょうかね。実際本屋さんでは「モトナビ」はクルマ雑誌のカテゴリー、「バイシクルナビ」はスポーツ誌として扱われます。
僕はこの「モトナビ」を始めるとき、この世界にもっとメジャーな感じを与えたかったんですよ。そのためには専門誌ではなく、やはり豊かなライフスタイルを送っていてバイク好きの人たちに出てもらうのが一番よかった。表紙を有名人で飾るのもそんななかから出てきた手法です。でもそれがよかった、ファンを広められるきっかけになったと思っています。
クルマの雑誌もそうですが、動くためのものという共通項があって、その周辺にできあがるライフスタイルを扱うテーマでやるなら、クルマ、バイク、自転車共通の企画というのも成立しますね。幸い僕はそれらの編集を経験させてもらっているので、乗り物系の合同企画といったものはイメージしやすいです。

―デジタル版も出されました。

ええ、Lite版ですが、価格も抑えて350円で展開していますが、お陰さまで好評をいただいてます。値段や読み方を考えると、デジタルとの親和性の高い部分だけを安い値段で読んでもらうほうがいいみたいです。

―そして「エル・ジャポン」とコラボした本も出されるんですよね。

「エル」とのコラボが決まった「バイシクルビューティ」
「エル」とのコラボが決まった「バイシクルビューティ」

10月に出版する予定で動いています。「バイシクル・ビューティ」といって、去年二玄社で1冊つくった別冊だったんですが、お洒落にかっこよく自転車に乗る女性がターゲットになっています。うちがつくるコンテンツと「エル・ジャポン」編集部さんがつくるファッションとが合体した、都市型のお洒落なマガジンになる予定です。
ぜひ、こんな新しい試みにも注目していただけたら幸いです。

編集長の愛読誌

  • 1.Free and Easy(イースト・コミュニケーションズ)

    編集者のキャラクターを前面に出した誌面づくり、流行りを追いかけない大特集主義に編集者として勇気づけられる。

  • 2.DIME(小学館)

    出張で新幹線や飛行機に乗るとき、駅や空港の売店でついつい手が伸びる。気軽に流行をウォッチできるので重宝。

  • 3.BRUTUS(マガジンハウス)

    毎号、まったく異なるジャンルのネタを掘り下げる特集主義の本づくりは、編集者にとって大いなる興味と尊敬の対象。

  • 4.Riders(アシェット・ライフスタイルメディア/伊)

    ファッションとモーターサイクルを融合させたイタリア版MOTO NAVI?(笑)ヨーロッパに行ったときは必ず購入。

  • 5.GQ JAPAN(コンデナスト・ジャパン)

    紙ではなくデジタル版を読んでいる。動画などのリッチコンテンツの組み合わせ方、今後の雑誌の行方を示唆している。

(2010年9月)

取材後記
河西さんの新しいオフィスは浅草橋にほど近いところにありました。一見出版社らしからぬ佇まいですが、なかなかセンス良く考えられ機能的につくりこまれたオフィスです。
編集の皆さんもいきいきとされていて、新しいオフィスで新しい仕事を立ち上げていくといった希望に満ちた表情なのが印象的でした。
会社名も「出版」ではなく「パブリケーション」。後者のほうがより広くユーザーとの接点を広げ、クリエーションをするんだといった志を感じます。
こうなりゃ皆さん、本気で頑張っていいものつくってって下さいね。こんな形で休刊誌が蘇るなんてそれだけでも奇跡ですもの。河西さんはラッキーボーイというか、本当に編集者冥利につきる方だと思います。
知らなかったのは河西さんが現役のバンドマン、名司会者(?)でもあるということでした。さっそくYouTubeでダイナマイトポップスを見てみると、なんとそのときのゲストに、いまや参議院議員になられた三原じゅん子センセイのお姿が。思わずタイマーズの「ギーンギーン」という名曲を歌いたくなってしまいましたとさ(古いかな、笑)。

インタビュアー:小西克博

大学卒業後に渡欧し編集と広告を学ぶ。共同通信社を経て中央公論社で「GQ」日本版の創刊に参画。 「リクウ」、「カイラス」創刊編集長などを歴任し、富士山マガジンサービス顧問・編集長。著書に「遊覧の極地」など。

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