【特集】
高血圧薬物療法を見直す-降圧薬の単剤,併用,配合剤-
企画編集/河野雄平
〈特集にあたって〉
高血圧の治療に降圧薬が用いられるようになってまだ60年ほどしか経っていないが,その影響はきわめて大きかったと考えられる.降圧薬による治療が高血圧患者の心血管予後および生命予後を改善することは明らかで,日本においても薬物療法の導入後に国民の血圧値は低下し,脳卒中とくに脳出血による死亡は激減した.また,薬物療法の予後改善効果は主に降圧の程度によるものであり,降圧薬の種類による差は比較的小さいことが示されている.非薬物療法(生活習慣の修正)との比較においても,薬物療法は血圧への効果と治療への遵守性の点ではるかに優れている.
降圧薬には多くの種類があるが,いくつかのクラスに分けられ,それぞれのクラスに複数の薬剤がある.はじめに開発された交感神経遮断薬や中枢性交感神経抑制薬レセルピンは,副作用の面から使用されなくなった.血管拡張薬のヒドララジンや,αメチルドパのような中枢性交感神経抑制薬も,その使用は限られている.現在日本では,カルシウム(Ca)拮抗薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)やアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬といったレニン・アンジオテンシン系阻害薬が最も多く用いられており,利尿薬やβ遮断薬,α遮断薬といった交感神経系抑制薬がそれらに次いでいる.高血圧の治療においては,患者の病態や合併症による降圧薬の選択もまた重要である.
降圧薬は単剤で奏功する場合も少なくないが,多くの高血圧患者は単剤では血圧コントロールが不十分で,降圧薬の併用を要する.作用機序の異なる降圧薬の併用は,血圧を効果的に下げ,副作用はそれほど増やさない.最近ではARBとCa拮抗薬あるいは利尿薬との配合剤も多く開発され,患者のアドヒアランスや医療費についての利点が示されている.降圧薬の多剤併用については,少量併用では確実な降圧で副作用は少なく,高用量の併用では強力な降圧効果が得られるであろう.また,複数の降圧薬にスタチンやアスピリンなどを加えたポリピルは,理論上はきわめて大きな心血管疾患の予防効果が期待でき,いくつかの臨床試験が行われている.
降圧薬をいつ服用するかも重要な問題であろう.多くの研究で夜間高血圧や早朝高血圧の危険性が示されている.現在使用される降圧薬の多くは長時間作用性であるが,薬効が24時間持続しないものも少なくない.最近,降圧薬を夜に服用した群が朝だけの服用群より心血管イベントが少ないとの報告があり,「薬は朝1回」の慣習が変わるかもしれない.多剤併用でも血圧がコントロールされない治療抵抗性高血圧も,臨床高血圧の重要な課題の1つである.
本特集号では,高血圧の薬物療法のすすめ方をはじめとして,それぞれの降圧薬のエビデンスや併用療法,配合錠,ポリピル,時間治療,治療抵抗性高血圧について,エキスパートの先生方に解説をお願いした.日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインは最近5年ぶりに改訂され,JSH2014が発行された.薬物療法についても,第1選択薬や適応など,かなりの改訂がなされている.本特集号の執筆者はいずれも新しいガイドラインの作成委員であり,それぞれの解説は読者の参考になること大であろうと期待している.
河野雄平
国立循環器病研究センター 高血圧・腎臓科 部長,生活習慣病部門 部門長
〈目次〉
1. 高血圧薬物療法のすすめ方
2. 降圧薬のエビデンス:カルシウム拮抗薬
3. 降圧薬のエビデンス:ARBとACE阻害薬
4. 降圧薬のエビデンス:利尿薬とアルドステロン拮抗薬
5. 降圧薬のエビデンス:β遮断薬とα遮断薬
6. 降圧薬併用療法のエビデンス
7. ARBと利尿薬の配合剤~その開発の経緯と高血圧治療における現在の位置づけ~
8. ARBとカルシウム拮抗薬の配合剤
9. 降圧薬は単剤併用か配合剤か
10. 降圧薬の多剤併用とポリピル
11. 高血圧の時間治療
12. 治療抵抗性高血圧への対処
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