【特集】急性心筋梗塞に対するカテーテル治療
〈特集にあたって〉
急性心筋梗塞は,遷延する心筋虚血に起因する心筋細胞の壊死と定義され,死亡原因の第二位である心臓病の原因疾患の中で最も頻度が高いものである.
急性心筋梗塞の死亡率は,20年前の1995年当時我が国においては人口10万人あたり24.9人で米国の85.4人,オランダの101.5人に比し数分の一であった.しかし,その後米国やオランダではEBMに基づいた医療システムの整備,医療資源の投下,啓蒙活動などにより,2010年の米国の急性心筋梗塞の死亡率は人口10万人あたり米国40.6人,オランダ38.8人と,それぞれの国で1995年に比し,半分以下に減少しているのに対し,日本では,食生活の欧米化や,高齢化,相対的な循環器医師の不足になどにより33.6人と確実に増加しており,欧米との差は小さくなり,むしろ今後凌駕する可能性すらある.
急性心筋梗塞を含む急性冠症候群の原因は,近年の病理学的検討から,プラーク破綻(rupture)が全体の65~75 %を,プラークびらん(erosion)が25~35 %程度を,calcified noduleが残る数%を占めている.筆者らはOCTとangioscopyをgold standardとし,血栓はあるが破綻が認められずsmoothなculprit plaqueをIntact Fibrous Cap ACS(IFC-ACS)と2011年に世界で初めて定義し,これがplaque erosionに当たるという概念を提唱した.これに先立ち筆者らはCT上の陽性リモデリングやCT値が低いlow attenuation plaque(LAP)などの特徴が,将来のプラーク破綻(ruptured fibrous cap;RFC-ACS)を予見することを発表している.このIFC-ACS論文ではplaque erosionに当たるIFC-ACSを非侵襲的なCTによって診断できないかを検討した.結果はプラーク破綻(RFC-ACS)に認められるような陽性リモデリングやLAPなどの特徴はなく,安定病変との鑑別も困難であることが明らかとなった.
急性心筋梗塞の診断では,心筋虚血の存在を示唆する胸部症状や心電図変化の存在に加え,心筋壊死を示す生化学マーカーの一過性上昇(universal definitionに基づいた心筋特異性の高い心筋トロポニンが健常者の上限値の99 %値を超える一過性の上昇,下降を示す急性変化)を認めることが必須条件であり,心電図で持続的ST上昇を認めるST上昇型急性心筋梗塞(STEMI),そして持続的ST上昇を認めない非ST上昇型急性心筋梗塞(NSTEMI)に大別されているが、最近の石原らのJ-MINUET研究では、本邦ではSTEMIの頻度も高いことが報告されている。特にSTEMIにおいてはPCI治療の有効性が確立され,特にdoor to balloon time(DBT)を90分以内にすることが推奨されている.
一方,AMI時のPCI治療に関しては,血栓吸引やディスタール・プロテクションの実際と効果,DESをすべてのケースに使うべきか,スローフローの発生時の対応,AMI-PCI時にすべきことすべきでないこと,薬物療法,外科的機械的合併症発生時の対応,ガイドラインの応用と限界など,AMI-PCIの成功のためには数多くのアドバイスが必要な問題や注意点が存在する.今回のAMI-PCI特集にあたっては,これらの点を具体的に,かつ分かりやすく解説した.今回の特集が日常のAMI治療に貢献することを大いに期待したい.
〈目次〉
1. AMI ガイドラインの適応と限界
2. AMI-PCIにおけるディスタール・プロテクション・デバイスの役割
3. AMI-PCIにおける血栓吸引デバイスの効果
4. AMI-PCI:DESをすべてのケースに!
5. AMI-PCI:BMSが勧められるケース
6. AMI-PCIにおけるIVUSの活かし方
7. AMI-PCIにおけるOCTの役割
8. AMI-PCIにおけるノーフロー,スローフロー
9. AMI-PCIについて,すべきこと,すべきでないこと
”It should be done and should not be done in AMI-PCI”
10. 外科手術を要するAMIの機械的合併症
11. AMI発症後の薬物療法
臨床循環器 CIRCULATION の内容
- 出版社:医学出版
- 発行間隔:隔月刊
高血圧と循環器の臨床総合誌
心血管疾患について、その疫学・予防・病態・治療を考えるとき、”結果”としての心血管疾患のみならず、その”原因”となりうる基礎疾患もあわせて理解することはきわめて重要である。そこで本誌では、循環器疾患を理解する上で重要な分野、心不全・不整脈といった心血管疾患はもちろんのこと、高血圧など心血管疾患の危険因子となるような基礎疾患についても、毎号「特集」形式で採り上げていき、循環器専門医に広く包括的な知識をめぐらせる雑誌となることを目指す。
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