大学では植物の研究を専攻していていました。鳥に関しては初心者だったので、入社したての頃は野鳥に関するルールを知らず、無理矢理取材をして怒られたりしたこともありましたね(笑)。でも余計な知識がなかったからこそ、色んなことに興味を持てたし、こんなことができるんじゃないかと考えられたと思います。僕の場合、生き物が特別好きというわけではなく、本作りそのものが大好きなんです。だから「バードウォッチング」は趣味というわけではない、趣味だったら飽きてしまって雑誌作りが嫌いになっていたかもしれないですね(笑)
もともと体を動かすことが好きで以前は海に潜るのが趣味だったが、趣味はけっこう変わるという。そんな中で雑誌作りは志水さんのライフワークといえる。
「雑誌のおもしろいところは毎号色んなことにトライできることですかね。もちろん失敗もあるけれど、単行本では味わえない実験的なことができるのは雑誌の醍醐味だと思います。
編集長になってからは、全体を意識するようになりました。雑誌作りはストーリーを組み立てていくのとよく似ているんです。雑誌全体の流れを1本のストーリーになるように考えて、次に細かい部分を考える。また全体をみて、ちょっとおかしいなと思えばそこで軌道修正する。スタッフ全員がその流れを把握できるように、毎号言葉とラフで説明するように心がけています」

『BIRDER』の編集に携わって8年、日常の中にもさまざまな気付きが生まれた。「その辺の道を歩いていても、上空を飛ぶ水鳥や、羽を休めている小鳥の姿に目がいくようになった」という。そんな志水さんのモットーは"まず作り手が楽しむ"こと。
「大事なことは雑誌を作っている人間がいかに楽しむかだと思います。そりゃあ企画を考えるのは毎回苦しいですよ。野鳥は季節によって見られる種類が決まっているから、何年も編集をやっているとどうしても『これは前にもやったな』というものが出てくる。そうするとやっぱり楽しみがなかなか沸いてこないんですよね。でも、その定番をうまく焼き直せば、おもしろいものは必ず生まれてくると思うんです。
◆イチオシの1冊◆
絵解きで野鳥が識別できる本(文一総合出版)

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絵解きで野鳥が識別できる本(文一総合出版)
僕は社内のブレストで盛り上がってそのまま企画にするということはほとんどなくて、もう一度ひとりになってじっくりと考える時間が必要なんですよ。少し時間をおいてからもう一度おもしろいと思えたら、そこで初めて採用しています」
バードウォッチングの楽しみ方はさまざまだが、『BIRDER』では楽しみ方のバリエーションを提案していきたいという。
「「望遠鏡で観察する人、写真を撮影する人、動画を撮る人そこは基本ですよね。僕らはもう少し違う視点を提案していきたいんです。たとえば水浴びや砂浴びをする鳥を観察してみようとか。見ている鳥は同じでも、見方のポイントを少し変えるだけで世界は広がっていく。僕自身が今興味があるのは鳥の個体差です。同じ種類の鳥でもシルエットや模様、見る角度によっては違うんですよ。そういう新しいことをどんどん試して、もっともっと楽しく鳥を見られるように提案していきたいですね」
(2009年8月)
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- 客観的に分析する冷静さを持ちながら、新しいことに挑戦する情熱を忘れない。この探究心こそが、志水さんの原動力となっているのだろう。
インタビュアー:小西克博
大学卒業後に渡欧し編集と広告を学ぶ。共同通信社を経て中央公論社で「GQ」日本版の創刊に参画。 「リクウ」、「カイラス」創刊編集長などを歴任し、富士山マガジンサービス顧問・編集長。著書に「遊覧の極地」など。
