目次
特集: 脳卒中の再発予防
-かかりつけ医にとって最重要テーマである「再発予防」に強くなる!-
≪巻頭語 ≫
脳卒中の多くは生活習慣病である.生活習慣病の進展は5段階に分けて考えられ,そのステージに応じて対策を講じなければならない.第1段階が不適切な食生活,運動不足,睡眠不足,ストレス過剰,大量飲酒,喫煙などの「不適切な生活習慣」,第2段階は肥満,血圧高値,血糖高値,脂質異常などの「境界領域」,第3段階は肥満症,高血圧症,糖尿病,脂質異常症などの「危険因子としての生活習慣病」のステージである.第4段階は脳卒中(脳出血や脳梗塞),心房細動,虚血性心疾患,大動脈瘤・大動脈解離,閉塞性動脈硬化症,糖尿病合併症(腎不全や失明)などの「疾病としての生活習慣病」である.心疾患が脳梗塞の原因となり得るので,脳卒中は第4.5段階とも考えられる.また,メタボリックシンドロームは第2.5段階,無症候性脳梗塞,無症候性脳血管病変,一過性脳虚血発作(TIA),眼虚血症候群(一過性黒内障や網膜動脈閉塞症など)は第3.5 段階と考えられる.生活習慣病の行き着くところは,半身麻痺(寝たきり)や認知症といった「要介護状態」の第5段階である.
脳卒中を発症したらすでに第4段階あるいは第4.5段階であり,リハビリテーションにより第5段階にならないようにするとともに,再発予防が必要となる.すなわち,脳卒中を発症してしまうと再発予防のための「治療の継続性」と「リハビリテーションの継続性」が地域全体で担保される必要がある.生活習慣の改善と危険因子対策を行うとともに,脳梗塞では抗血栓療法(抗血小板療法・抗凝固療法)を積極的に行い,一部の症例では血管内治や外科治療が必要となってくる.また,心疾患などの併存病の治療も必要である.
脳卒中診療は,①発症予防・再発予防を行うかかりつけ医,②超急性期や急性期医療を担う急性期病院,③ 回復期リハビリテーションを行うリハビリテーション専門病院,④維持期の病院・施設の4つのチームが連携して地域全体で行わなければならない.軽症脳卒中症例では急性期病院から直接自宅退院となり,その後の残った人生に対して再発予防が効果的で持続可能な治療を,かかりつけ医は提供しなければならない.
脳梗塞では抗血栓薬の長所と短所を熟知し,脳梗塞の臨床病型に応じて治療を展開しなければならないが,積極的に行えば行うほど頭蓋内出血や消化管出血などの副作用が宿命的に増加する.これらを起こさないようにしつつ十分な再発予防をすることが必要で,腕の見せ所である.出血リスクを高めず,脳卒中再発リスクをさらに低下させる方法として,危険因子の多角管理があげられる.多角管理とは高血圧症,脂質異常症,糖尿病,肥満,喫煙,多量飲酒,運動不足などの多岐にわたる危険因子を包括的に管理することで,相加・相乗的発症抑制を目指す戦略である.そのためにはまず個々の危険因子の把握と適切な生活指導,危険因子の治療を行いつつ抗血栓療法の効果を最大限に高めるこ
とが要求される.発症予防に比べ再発予防は治療必要数(number needed totreat:NNT)が少なく,治療効果が高いことがわかる.一度脳卒中をきたした場合には,治療はエンドレスで行っていかなければならないことを脳卒中患者に十分説明しなければならない.
なお,喫煙,飲酒,過体重・肥満,果物や野菜の低摂取などが最も重要ながんの要因であると報告されている2).とくに喫煙習慣は世界のがんの21%に寄与しているという.行動と環境に関する危険因子への曝露量を低減させることにより,がん死をかなりの割合で予防できるという.また,喫煙はアルツハイマー病発症を促進することがわかってきた3).一方,カルシウム拮抗薬などによる血圧管理でアルツハイマー病の発症抑制効果があるという.このように,悪性腫瘍やアルツハイマー病も広義の生活習慣病と考えられ,脳卒中の発症予防や再発予防が悪性腫瘍やアルツハイマー病の予防につながる.
本特集は,脳卒中再発予防の最前線で診療しているかかりつけ医にとって,すぐに役立つように脳卒中診療の第一線の先生に執筆いただいた.日常臨床において活用いただければ幸いである.
<編集>橋本洋一郎 熊本市民病院神経内科 部長
...............................................................
≪今月の視点≫
-生活習慣病の5段階と多角管理-(橋本洋一郎)
■総 論
脳卒中の再発(鈴木一夫)
再発時の対処法(稲富雄一郎)
脳卒中地域連携パス(橋本洋一郎,他)
■再発予防のための危険因子対策
生活習慣(中島 誠)
高血圧症(棚橋紀夫)
糖尿病(八木田佳樹,他)
脂質異常症(田中耕太郎)
心房細動(矢坂正弘)
喫 煙(鈴木一夫)
■再発予防のための特殊療法
抗血小板療法(寺山靖夫)
抗凝固療法(松浦 豊)
抗血栓療法併用の功罪(豊田一則)
外科的治療(菊地隆幸,他)
血管内治療(今井啓輔,他)
■病型ごとの再発予防
一過性脳虚血発作(粕谷潤二)
ラクナ梗塞(北川泰久)
アテローム血栓性脳梗塞(古井英介)
心原性脳塞栓症(長谷川泰弘)
奇異性脳塞栓症(井口保之,他)
大動脈原性脳塞栓症(藤本 茂)
無症候性脳梗塞(安部哲史,他)
高血圧性脳出血(神谷信雄,他)
■Q&A
原因不明の脳梗塞患者の再発予防はどうするか?(伊藤康幸,他)
脳動脈解離による脳梗塞の再発予防はどうするか?(後藤 淳)
無症候性微小脳出血(microbleeds)を認めた脳梗塞の再発予防はどうするか?(大塚忠弘)
抜歯時の抗血栓療法はどうするか? (中地 亮他2691
消化器内視鏡下での生検・治療時の抗血栓薬の管理は? (岡野明浩)
抗血栓療法時の消化管出血回避のためにはどうしたらよいか?(山本文夫,他)
無症候性頸動脈病変はどうするか? (山上 宏)
Polypill strategyとは? (橋本洋一郎)
≪Series≫
Doctor’s career 医師の多様なキャリアを紹介!(3)(吉田英司)
よりよい医院経営(57)
在宅医療と死生観(川井 真)
再生医学のいま-基礎研究から臨床への展開に向けて-(31)
血管新生療法(小山博之)
医療事故に陥らないために-事例から学ぶ,より安全な医療への教訓-(20)
全事例のまとめと教訓(その1)(福山正紀)
ヒポクラテスが教える病名のない病理学(22)
予 言(中島旻保)
何が正解? 消化器治療EBMで検証(67)
大腸癌を予防しよう(part.1)(川名一朗,他)
-かかりつけ医にとって最重要テーマである「再発予防」に強くなる!-
≪巻頭語 ≫
脳卒中の多くは生活習慣病である.生活習慣病の進展は5段階に分けて考えられ,そのステージに応じて対策を講じなければならない.第1段階が不適切な食生活,運動不足,睡眠不足,ストレス過剰,大量飲酒,喫煙などの「不適切な生活習慣」,第2段階は肥満,血圧高値,血糖高値,脂質異常などの「境界領域」,第3段階は肥満症,高血圧症,糖尿病,脂質異常症などの「危険因子としての生活習慣病」のステージである.第4段階は脳卒中(脳出血や脳梗塞),心房細動,虚血性心疾患,大動脈瘤・大動脈解離,閉塞性動脈硬化症,糖尿病合併症(腎不全や失明)などの「疾病としての生活習慣病」である.心疾患が脳梗塞の原因となり得るので,脳卒中は第4.5段階とも考えられる.また,メタボリックシンドロームは第2.5段階,無症候性脳梗塞,無症候性脳血管病変,一過性脳虚血発作(TIA),眼虚血症候群(一過性黒内障や網膜動脈閉塞症など)は第3.5 段階と考えられる.生活習慣病の行き着くところは,半身麻痺(寝たきり)や認知症といった「要介護状態」の第5段階である.
脳卒中を発症したらすでに第4段階あるいは第4.5段階であり,リハビリテーションにより第5段階にならないようにするとともに,再発予防が必要となる.すなわち,脳卒中を発症してしまうと再発予防のための「治療の継続性」と「リハビリテーションの継続性」が地域全体で担保される必要がある.生活習慣の改善と危険因子対策を行うとともに,脳梗塞では抗血栓療法(抗血小板療法・抗凝固療法)を積極的に行い,一部の症例では血管内治や外科治療が必要となってくる.また,心疾患などの併存病の治療も必要である.
脳卒中診療は,①発症予防・再発予防を行うかかりつけ医,②超急性期や急性期医療を担う急性期病院,③ 回復期リハビリテーションを行うリハビリテーション専門病院,④維持期の病院・施設の4つのチームが連携して地域全体で行わなければならない.軽症脳卒中症例では急性期病院から直接自宅退院となり,その後の残った人生に対して再発予防が効果的で持続可能な治療を,かかりつけ医は提供しなければならない.
脳梗塞では抗血栓薬の長所と短所を熟知し,脳梗塞の臨床病型に応じて治療を展開しなければならないが,積極的に行えば行うほど頭蓋内出血や消化管出血などの副作用が宿命的に増加する.これらを起こさないようにしつつ十分な再発予防をすることが必要で,腕の見せ所である.出血リスクを高めず,脳卒中再発リスクをさらに低下させる方法として,危険因子の多角管理があげられる.多角管理とは高血圧症,脂質異常症,糖尿病,肥満,喫煙,多量飲酒,運動不足などの多岐にわたる危険因子を包括的に管理することで,相加・相乗的発症抑制を目指す戦略である.そのためにはまず個々の危険因子の把握と適切な生活指導,危険因子の治療を行いつつ抗血栓療法の効果を最大限に高めるこ
とが要求される.発症予防に比べ再発予防は治療必要数(number needed totreat:NNT)が少なく,治療効果が高いことがわかる.一度脳卒中をきたした場合には,治療はエンドレスで行っていかなければならないことを脳卒中患者に十分説明しなければならない.
なお,喫煙,飲酒,過体重・肥満,果物や野菜の低摂取などが最も重要ながんの要因であると報告されている2).とくに喫煙習慣は世界のがんの21%に寄与しているという.行動と環境に関する危険因子への曝露量を低減させることにより,がん死をかなりの割合で予防できるという.また,喫煙はアルツハイマー病発症を促進することがわかってきた3).一方,カルシウム拮抗薬などによる血圧管理でアルツハイマー病の発症抑制効果があるという.このように,悪性腫瘍やアルツハイマー病も広義の生活習慣病と考えられ,脳卒中の発症予防や再発予防が悪性腫瘍やアルツハイマー病の予防につながる.
本特集は,脳卒中再発予防の最前線で診療しているかかりつけ医にとって,すぐに役立つように脳卒中診療の第一線の先生に執筆いただいた.日常臨床において活用いただければ幸いである.
<編集>橋本洋一郎 熊本市民病院神経内科 部長
...............................................................
≪今月の視点≫
-生活習慣病の5段階と多角管理-(橋本洋一郎)
■総 論
脳卒中の再発(鈴木一夫)
再発時の対処法(稲富雄一郎)
脳卒中地域連携パス(橋本洋一郎,他)
■再発予防のための危険因子対策
生活習慣(中島 誠)
高血圧症(棚橋紀夫)
糖尿病(八木田佳樹,他)
脂質異常症(田中耕太郎)
心房細動(矢坂正弘)
喫 煙(鈴木一夫)
■再発予防のための特殊療法
抗血小板療法(寺山靖夫)
抗凝固療法(松浦 豊)
抗血栓療法併用の功罪(豊田一則)
外科的治療(菊地隆幸,他)
血管内治療(今井啓輔,他)
■病型ごとの再発予防
一過性脳虚血発作(粕谷潤二)
ラクナ梗塞(北川泰久)
アテローム血栓性脳梗塞(古井英介)
心原性脳塞栓症(長谷川泰弘)
奇異性脳塞栓症(井口保之,他)
大動脈原性脳塞栓症(藤本 茂)
無症候性脳梗塞(安部哲史,他)
高血圧性脳出血(神谷信雄,他)
■Q&A
原因不明の脳梗塞患者の再発予防はどうするか?(伊藤康幸,他)
脳動脈解離による脳梗塞の再発予防はどうするか?(後藤 淳)
無症候性微小脳出血(microbleeds)を認めた脳梗塞の再発予防はどうするか?(大塚忠弘)
抜歯時の抗血栓療法はどうするか? (中地 亮他2691
消化器内視鏡下での生検・治療時の抗血栓薬の管理は? (岡野明浩)
抗血栓療法時の消化管出血回避のためにはどうしたらよいか?(山本文夫,他)
無症候性頸動脈病変はどうするか? (山上 宏)
Polypill strategyとは? (橋本洋一郎)
≪Series≫
Doctor’s career 医師の多様なキャリアを紹介!(3)(吉田英司)
よりよい医院経営(57)
在宅医療と死生観(川井 真)
再生医学のいま-基礎研究から臨床への展開に向けて-(31)
血管新生療法(小山博之)
医療事故に陥らないために-事例から学ぶ,より安全な医療への教訓-(20)
全事例のまとめと教訓(その1)(福山正紀)
ヒポクラテスが教える病名のない病理学(22)
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