特集:『抗血栓療法 ―基礎知識から最新のエビデンスまでを徹底解説!―』
≪特集の目次≫
■特集にあたって(後藤 信哉)
■抗血栓薬(抗凝固薬,抗血小板薬),血栓溶解薬の違いと使い分け(後藤 信哉)
■日本における抗血栓療法の特徴―世界との比較―(戸田 恵理 ほか)
■抗凝固薬の現在および今後の課題(加藤 衣央 ほか)
■新規経口抗凝固薬:ワルファリンとの違い徹底比較!
・ダビガトラン(山下 武志)
・リバーロキサバン(堀 正二)
・アピキサバン(棚橋 紀夫)
・エドキサバン(西川 泰弘)
■ワルファリン不適応患者に対する抗血栓療法の治療戦略(橋本 洋一郎 ほか)
■透析患者における抗凝固療法の注意点(猪阪 善隆 ほか)
■アスピリンの一次・二次予防効果
・アスピリンの一次・二次予防効果のエビデンス(内山 真一郎)
・糖尿病(副島 弘文 ほか)
・慢性腎臓病(藤井 秀毅 ほか)
■抗血小板薬の役割:どれを選択? 単独か併用か?
・ 冠動脈ステント留置術後患者における抗血小板薬の役割(中川 義久)
・脳梗塞・一過性脳虚血発作患者(山崎 昌子)
■抗血小板薬不応症患者に対する治療戦略(横山 健次)
■抗凝固薬・抗血小板薬の出血リスクとその対応
・薬効・出血リスク評価と投与設計(徳永 敬介 ほか)
・周術期における抗血栓療法の継続・中止・再開の治療戦略(矢坂 正弘)
・抗血栓療法における消化器合併症とその予防対策(河合 隆 ほか)
■血栓溶解療法の治療戦略
・心筋梗塞(樋口 義治 ほか)
・脳梗塞(細見 直永 ほか)
・肺血栓塞栓症(中村 真潮)
■抗血栓療法における薬学管理のポイント―薬物相互作用を中心に―(和田 恭一)
■抗血栓療法における薬剤師の新たな試み(柴田 啓智 ほか)
■Exercise
≪TOPICS≫
・重症インフルエンザA(H1N1)pdm09患者に対してノイラミニダーゼ阻害薬は有用!?
・新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症の予防に対する新しいビタミンK投与法
・共同薬物治療管理の実践:フィジカルアセスメントを活用しよう!
・薬用吸着灰はCKDの進行を抑制できない?
・スタチン誘発性ミオパシーには遺伝子多型が関連する!
≪シリーズ≫
■目指せ感染症マスター! 抗菌薬処方支援の超実践アプローチ
抗菌薬使用2日目にも解熱しない腎盂腎炎
(山田 和範/岸田 直樹)
■徹底理解! 添付文書にある情報・ない情報
(堀 里子・三木 晶子・澤田 康文)
■Pharm.D.を取り巻く 医療環境レポート
・直接トロンビン阻害薬の入院患者における共同薬物療法マネジメント(CDTM)の安全性と効果
・非ステロイド性抗炎症薬によって誘発される胃疾患
(木村 利美 ほか)
■PCソフトウェアを用いた実践的TDM症例解析 第28回
抗菌薬TDMガイドラインに基づく塩酸バンコマイシンの投与設計〜バンコマイシン「MEEK」TDM解析ソフト Ver. 2.0 〜
(渋谷 正則 ほか)
■認定薬剤師研修の広場
患者さんの生活の質(QOL)を向上させるための薬剤ならびに処方の開発ー科学的な作用メカニズム解明とエビデンスに基づいた臨床研究を通してー
(上園 保仁)
≪座談会≫
■「治療」「薬局」「Rp.レシピ」合同座談会
・喘息管理における吸入療法の新たなステージ 第1回
喘息管理の重要性と吸入療法の位置付け
(井端 英憲 /新実 彰男/坂野 昌志)
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≪特集にあたって≫
生体を構成する分子の機能を直接阻害する薬剤として,複数の抗血栓薬が開発された.止血,血栓形成メカニズムは生体現象のなかでも複雑な現象であるため,分子機能を阻害する薬剤を開発してもその臨床効果を構成論的に予測することは困難であった.アスピリン,クロピドグレルなどの抗血小板薬が広く臨床応用された理由は,「明確な作用メカニズムの理解」ではなく,実臨床における経験の蓄積であった.経験を蓄積する経過において「クロピドグレルの薬効標的はP2Y12 ADP受容体である」などの作用メカニズムの理解も進んだ.今度は薬効標的の理解に基づいてプラスグレル,チカグレロールなどの新規抗血小板薬が開発されたが,すでに多くの国で特許を喪失して価格競争の時代に入ったクロピドグレルと競合できるであろうか? 優秀な科学者が多数集まる製薬会社が作成した演繹的理解のシナリオが,多くの医師の経験の結果からの帰納的使用を上回ることができるか? 現在の医学,医療における構成論的理解の質を評価するうえでも,これらの新薬の動向は見逃せない.
抗凝固薬ヘパリンの作用メカニズムも複雑でその理解には長い期間を要した.結局ヘパリンそのものに抗凝固作用があるのではなくて,ヘパリンは内因性の抗凝固物質の活性を増加させる補助的な因子であった.低分子へパリン,フォンダパリヌクスも同様である.人体は複雑,整脈な調節系である.ヘパリンは,この調節系を疾病時に補完する.生体の調節系の理解がさらに進めば,ヘパリンでは全身的に行なっている調節を,体内局所にて行うことができるかも知れない.
経口抗凝固薬ワルファリンも自ら抗凝固作用をもつ薬剤ではない.ビタミンK依存性の凝固因子の機能的完成を阻害する間接的な抗凝固薬である.投与量と効果の関係には個人差があり,個人差を規定する主要因子は遺伝因子である.間接的に作用する薬剤であるゆえに,効果発現のメカニズムは複雑である.われわれは薬効発現メカニズムを完全には理解していない.PT-INRを抗血栓効果の指標としているが,PT-INRと血栓イベント発症予防効果の関連も正確には理解されていない.われわれは慣習的にPT-INRを計測し,時に安心し,時に心配しながら患者を見守っていくしかない.
ワルファリンの複雑さに比較すると,新規経口抗凝固薬は人工的かつ単純である.可溶性のフィブリノゲンをフィブリン血栓に転換する酵素はトロンビンである.戦後,荒廃した日本でも気力のある科学者が集まって,トロンビンの分子構造に注目して構成論的に抗トロンビン薬を作成した.それは経静脈的に使用するアルガトロバンである.新規経口抗凝固薬ダビガトランはアルガトロバンの特徴を継承している.アルガトロバンは,トロンビンへの結合部位が一ヵ所であったため可逆性が強い.血栓性の強い人工弁,急性冠症候群などではヘパリンに比較して十分な抗血栓効果を発揮できなかった.ダビガトランも同様である.ワルファリンに比較して心筋梗塞の発症数を増加させる懸念を有しながらも,非弁膜症性心房細動のように血栓性の弱い病態ではそこそこのイベント抑制効果を示した.新規経口抗Ⅹa薬は出血が少ないと期待されたが,期待は裏切られた.用量依存性に重篤な出血イベントは増加する.新規経口抗凝固薬とワルファリンの比較試験は,静脈血栓症,非弁膜症性心房細動などのきわめて限局された症例群において,「PT-INR 2〜3を仮に正しい値」と設定して比較試験が行われた.1万例を超える大規模臨床試験が複数施行され,いずれにおいても有効性は同程度,安全性は若干優ることが示された.安全性が優るのは「PT-INR 2〜3」を標的としたワルファリン治療であってワルファリン治療一般ではない.薬剤の価格が10倍以上しても新規経口抗凝固薬は広く使用されるだろうか?
抗血栓療法については,注意深く今後の進展を見守るポイントが多数ある.調剤薬局においても処方数の変化と,患者からの情報のフィードバックに注意する必要がある.
後藤 信哉
東海大学医学部内科学系循環器内科学 教授
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