特集●肝疾患における画像診断の進歩 ―腹部超音波,CT,MRI―
企画編集/飯島尋子(兵庫医科大学 消化器内科学(肝胆膵内科) 教授/超音波センター長,肝疾患センター長,学長補佐)
<特集にあたって>
ウイルス肝炎は,約40年間で大きく変化し,非A非B肝炎はC型肝炎となった.近年は肝硬変であっても,ほぼ全員が治癒する時代になった.このウイルス肝炎は多くの肝発癌と関連したため,わが国では,CTをはじめとする多くの肝疾患の画像診断が進歩してきた.昭和から平成になり,肝特異性MRI造影剤gadoxetate(Gd-EOB-DTPA)が発売され,肝癌の検出に大きな貢献をした.さらに,発癌の背景などを考慮すると,肝線維化と関連していることは明らかであり,20年前にエラストグラフィが臨床応用される時期とも相まって,超音波やMRIでの肝線維化診断が発展してきた.エラストグラフィは,線維化診断にとどまらず,発癌リスクや門脈圧亢進症や食道静脈瘤破裂の予測など,患者の予後と直接関与する臨床とも直結している.近年は,疾患形態がウイルス肝炎から徐々に変化し,メタボリック症候群や糖尿病,脂肪性肝障害が増加し,肝線維化に加えて脂肪減衰法による肝脂肪化定量なども注目されている.
画像診断は,学問として軽視されがちであるが,実は単なる絵合わせ診断をしているわけではない.もちろん診療と密接に関係するため身近に存在する診断法であるが,病理や病態に迫る学問であり,このことが,画像診断を発展させてきた.あらゆる臓器でも同様であるが,特に肝臓では,肝機能診断へも発展した.造影剤の進歩もその役目は大きく,Gd-EOB-DTPA MRIや超音波造影剤は肝細胞や肝類洞壁細胞であるKupffer細胞と深く関係し,その細胞機能や,遺伝子学的背景にまで関連している.近年は分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬との関連などが論じられるようになり,腫瘍の個別化医療において重要な学問に発展している.つまり非侵襲的に治療やその効果予測などimaging biomarkerとして確立されようとしている.重要でない学問はないが,画像診断は形態,血流,機能診断,さらには治療法や予後まで評価できる優れた学問である.
本特集では,肝疾患診療に直結した画像診断の有用性やAIを含む最先端診断について,超音波,CT,MRIそれぞれのエキスパートの先生方にご執筆いただいた.明日からの診療に役立つ内容であるとともに,これからの学問の発展のきっかけとなると幸いである.貴重な論文を執筆いただいた先生方に心から感謝致し,「特集にあたって」とさせていただく.
飯島尋子
兵庫医科大学 消化器内科学(肝胆膵内科) 教授/超音波センター長,肝疾患センター長,学長補佐
<目次>
Ⅰ 超音波
1-1. びまん性肝疾患の超音波診断/杉本勝俊
1-2. 脂肪性肝障害の超音波診断/多田俊史,飯島尋子,小川定信,後藤竜也,熊田 卓
1-3. 肝細胞癌の超音波定量診断 ―組織学的分化度診断と分子標的治療薬の効果予測―/黒田英克,阿部珠美,松本主之
1-4. 肝内胆管癌・転移性肝癌の超音波診断/惠莊裕嗣
1-5. 良性肝腫瘍の超音波診断/西村貴士,飯島尋子
1-6. 人工知能を応用した超音波画像診断/西田直生志,工藤正俊
Ⅱ CT
2-1. 原発性肝細胞癌診断における肝造影CT ―低管電圧撮影・Dual-energy CTの有用性―/中村優子,檜垣 徹,近藤翔太,成田圭吾,粟井和夫
2-2. 肝細胞癌における治療前後のCT画像の役割 ―分化度診断と効果判定について―/鶴﨑正勝
2-3. CTを用いたびまん性肝疾患の診断と定量評価の可能性/祖父江慶太郎,村上卓道
Ⅲ MRI
3-1. 腫瘍描出と診断/市川新太郎,五島 聡
3-2. Gd-EOB-DTPA造影MRIによる肝細胞癌の分化度診断とそのイメージングバイオマーカーとしての可能性/米田憲秀,北尾 梓,松井 修,蒲田敏文
3-3. びまん性肝疾患の機能評価 ―PDFFやMR elastography―/鈴木雄一朗,榎本信幸
Ⅳ CT/MRI
4. 人工知能を応用した肝画像診断/八坂耕一郎
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