婦人公論の編集長インタビュー

編集長プロフィール

中央公論新社
「婦人公論」編集長 三木哲男さん

みきてつお 1958年兵庫県生まれ。東京学芸大学卒業。繊研新聞記者を経てフリーライターに。「中央公論」「週刊文春」「週刊宝石」「アエラ」等に執筆。2000年に中央公論新社入社。「中央公論」編集部を経て、2003年「婦人公論」副編集長、2006年から編集長

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第61回 婦人公論 編集長 三木哲男さん

女としての「私の人生」が大切なテーマです

―隔月刊にリニューアルしてからもうかなり時間がたちますが、内容は変わりましたか。

リニューアル創刊号(左)から外面は変わっていないが
リニューアル創刊号(左)から外面は変わっていないが

リニューアルが1998年で、もう13年たっています。雑誌の外面は変わってないのですが、そのころといまとでは読者の関心事が相当変わってきていますね。リニューアル当初は「家族」「嫁姑」「夫婦」「子育て」といったテーマが中心でした。コアな読者は主婦で、主婦として満たされているか、にスポットを当てた記事には人気がありました。ですから「家族の力を再生させる」とか「嫁姑の問題」などを様々なバリエーションで記事をつくって掲載していました。
それが2005年くらいから、これらのテーマが当たらなくなって、部数が伸び悩み、ついに赤字に転落してしまったのです。
読者が変化しているのに、それについていけてなかったんですね。そこで結構お金をかけて読者リサーチをしました。リサーチしてみた結果、見えてきた読者は「知的に学ぶ39歳の女性」だったんですよ。そこでそのターゲットに向けていろいろ手を変え品を変えトライをしたのですが、どういうわけか部数の落ち込みに拍車をかけるだけで、07年まで迷走が続くことになりました。

―読者についていけてないとは、苦しいですね。でもそういう自覚がないとまた変われないし。

そうなんです。「性の特集」「老後をひとりで生きる」「婚外恋愛」・・・あ、婚外恋愛って不倫のことですが(笑)、いろいろトライしました。でもそんななかで、ときどき売れるものが出てきたんです。

―希望の光が(笑)

ええ。「老後をひとりで生きる」「離婚しないでいる妻たちの本音」といったものが当たるようになりました。ぜんぜんダメなのが「いまから夫をいい男に変える」(笑)。

―なんとなくわかりますね(笑)

ですよね(笑)。妻は夫より通常長生きしますので、夫と共倒れするようなライフスタイルではなく、ひとりでもしっかり充実してやっていける女としての老後が大切であると。
以前のように、「主婦としての私の人生」というのはもう読者には刺さらない。主婦であろうが何であろうが、まずは「ひとりの女としての私の人生」なんですね。
「離婚しない妻たちの本音」なんかも、とてもリアルです。夫にはもう夢も希望もないのですが、離婚すると経済的に不利になる。だから離婚には踏み切らないけれど、あくまで主人公は自分ですよと(笑)。
こういうことが見えてくると手が打てるようになり、また部数が盛り返してきて09年、10年と黒字に戻せたんです。

―読者層には変化はありますか。

連載から生まれた単行本も豊富だ
連載から生まれた単行本も豊富だ

いまの読者層はだいたい40~50歳前半です。以前よりは若返っていますね。40代からの自分の人生といったことが主な関心事になってます。女性誌の多くが都市型なのにくらべて、「婦人公論」は全国区です。婦人公論の大きな特徴の1つが、愛読者グループが全国および海外に広がっていることです。しかし最近、高齢化してきました。ネット化して若い人たちに参入してもらえるようにしていきたいですが、まだ手がつけられていません。このへんはこれからですね。
雑誌では読者の年齢を若く保つために、タイトルに40歳という言葉を意識的に多用してみたんです。女性誌って5歳刻みでいろいろターゲットを決めることが多いようですが、それに当てはまるのか、35歳くらいから読んでいただけるようになっています。

―編集長のキャリアのせいなのか、他の女性誌とはかなりテイストが違います。


別冊にはベストセラーも多い
別冊にはベストセラーも多い

それは少しあるかもしれません。僕はもともと繊研新聞の記者がスタートで、それからフリーライターになり、「中央公論」にルポを書いたのがきっかけでこの会社に編集者として採用されました。まさか女性誌をやることになるとは思ってもみませんでしたので、確かに異色の編集長でしょうね(笑)。

―いやむしろ、本来ジャーナリスティックな雑誌でしたので適任ですよ。後任は育ってますか。

編集長をやれるだけの力のある人は数人いますよ。でも女性が多い職場で、適齢期の女性が多いせいか出産、育児休暇と重なる部員が多くって、そこが仕事を回していく上で難しいところです。僕もいつまでも編集長ってわけにもいきませんからね。はやく力のある人が出て仕切っていってほしいと思っていますが。

―広告はどうですか。

いやこれはもう(笑)。最盛期の半分に落ちているというのが正直なところです。広告がしっかりつくはずのファッションが弱いせいもあって、そこは補強というか、見せ方を変えました。こういう人になりたい、こういう生き方をしたい、といったことをメインにして、そこに人を具体的に当てはめた形で見せています。
ファッションは阿川佐和子さん、ビューティは小林ひろ美さんです。お二人とも個性的で、読者世代の女性のあこがれの対象です。そういう人にモデルになってもらうことで、より分かりやすくしているつもりです。

―よく、競合誌がない、と言われました。個性的ということなんでしょうが、その分広告は難しいところですね。

そうですね。タイアップなども編集部が積極的につくってカバーしてはいますが。競合誌というか併読誌として「週刊文春」とか「暮らしの手帖」の名前があがる(笑)。あえて言えば「クロワッサン」が競合なのかと言えなくもないのでしょうが、やはりちょっと違いますよね。

―隔月刊の雑誌って忙しいといいますが、仕事はどんなペースなんですか。

編集部風景。ゆったりしたスペースに21人が働く
編集部風景。ゆったりしたスペースに21人が働く

半年に一度大雑把ですがテーマ会議をやるんです。部員にテーマを出してもらって僕とデスクで協議します。そして2ヶ月前から特集の企画会議に落とし込んで、特集については発売3週間前には校了します。
それ以外にニュースを扱っています。それは校了日ギリギリまで勝負です。
部員は僕を入れて21人ですから、その人数でやれることは全部やってるって感じです。

―webサイトもシンプルなりにしっかりつくられていますが、これも部内で制作しているのですか。

ええ、若い部員が交代でやってます。基本的にコンテンツを用意して、制作は外注しています。通販もやっています。これも実務は外注ですが。
でもこれからは、ネットコンテンツをビジネスとして強化していかねばと思います。会社でもデジタル研究会をつくって、積極的に事業展開を考えています。まだ儲かるレベルではありませんが、ここはいろいろ知恵を貸してくださいね。お願いします。

編集長の愛読誌

(2011年6月)

取材後記
骨太の女性誌です。どこかフランスの古い女性誌の趣もあります。知的で下世話。手ごわい相手です。
そもそも公論とは何なのでしょう。「万機公論に決すべし」。五箇条の御誓文のような大時代的響き。何かいまの時代にそぐわないですね。
でもそれが逆にいいじゃないですか。アナクロな私が言うのもなんですが、没個性な時代に競合誌がないって素晴らしいじゃないですか。雑誌ごとにカテゴリーを決めて相関図つくってなどというのはどこかの広告屋さんにおまかせしておきましょう。
私の知るかつての「婦人公論」の女性編集長は、デスクで缶ピース(両切りですよw)ふかしながら、イジワルなメガネで原稿を読む人でした。ゴダールの古い映画に出てきそうな感じ。これも大時代的ですかね。でもそんな風景があってもおかしくない数少ない貴重な雑誌なんです。
凛とした美しい顔で背筋伸ばしてドロドロの性愛を語りましょう。それがこの雑誌の個性だと思います。
編集長の三木さんと会って久々に一杯やったあと、銀座の雨に打たれながら「ジャスト・ライク・ア・ウーマン」を歌ってしまいました。

インタビュアー:小西克博

大学卒業後に渡欧し編集と広告を学ぶ。共同通信社を経て中央公論社で「GQ」日本版の創刊に参画。 「リクウ」、「カイラス」創刊編集長などを歴任し、富士山マガジンサービス顧問・編集長。著書に「遊覧の極地」など。

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