―― 一時「ナンバー」の編集に憧れて文藝春秋に入社するんだ、という人が多くいましたが、鳥山さんもそうでしたか?
いえ、私は必ずしもそうではなかったです。91年入社ですが、ジャー ナリズムに興味があったし、とにかく雑誌をつくりたい、 編集者になりたいという希望が強かったん です。 文藝春秋では、広告部と「週刊文春」編集部とこの「ナンバー」編集部を経験しました。
――来年創刊30周年ですが、編集方針などで大きく変わったことはありますか?

過去の写真にはいろんなドラマがつまっている
時代とともに見え方とか作業の技術的なものは変わってきていると思います。でも、編集の基本は変わっていないと思います。スポーツのドラマやアスリートの日常を深く掘り下げる。そして、それを文章と写真の力で美しく感動的に見せる。これが、この雑誌の基本だと思っています。
――スポーツの感動的な読み物といえば、どうしても創刊号の「江夏の21球」を思い出してしまいます。
そうですね。山際淳司さん、沢木耕太郎さん、金子達仁さん、といった優れたノンフィクション作家の方々が活躍されてきました。また、そういった方々に憧れて、この世界に入ってくるライターさんも多くいます。だんだん書き手の層も厚くなってきていると思います。
スポーツを描く方法論とでも言いますか、書き方が洗練されてきていると思います。たとえば、サッカーなどは、あの動きの中で描かれることが少なかった。やはり、金子達仁さんがエポックメイキングだったと思いますが、まだまだ進化の途上にあると思います。もっといろんな表現が出てくるはずです。それをわれわれはもっと発掘していかねば。
――読者層に変化はありますか?
当初は、大学生~30代の男性が中心でした。いまは、その人たちの成長とともに、もう少し上の層までカバーできていますね。
F1ブームや93年のJリーグ開幕、NBAそれからワールドカップと、90年代はスポーツの新しい動きが増えました。そのために、そこに新しい読者、書き手も現れました。書き手の洗練の背景には、読者が成熟してきたことも多いに関係しています。
スポーツジャーナリズムを取り巻く環境は、書き手と読者ともに成熟してきたといっていいのでしょう。
――ライバル誌を挙げるとすれば何になるのでしょう?
あえて挙げれば「Sportiva」(集英社)さんでしょうか。 でもあちらは月刊、うちは隔週なので違うかもしれませんね。
90年代に後発のスポーツ雑誌がいくつか立ち上がってきましたが、われわれは独自の土俵を創刊以来つくってきたので、この分野では誰にも負けないといった気持ちはあります。
――海外モノの記事の扱いはどうされていますか?
創刊当初、アメリカの「スポーツイラストレイテッド」と契約していましたので、 そこから記事の転載もしていましたが、いまは、基本的にオリジナルしか載せていません。
現地の外国人のライターさんに原稿をお願いすることも多いのですが、たいていはインタビューやコラムのお願いで、日本のライターさんと組んで特集で動くような頼み方はしていません。
――忙しそうですが、どんなペースで仕事をされていますか?

録画を見ながら記事をチェック

新聞社のような編集部
2週間に一度、会議をやります。2~3ヶ月先の特集について全員企画書を出し、精査して取材に入ります。特集は4班に別れ、各デスクを中心に動きます。ですから1班ごとに、2ヶ月に1本、特集をつくる、といった感じです。私は週刊誌も経験しましたが、それとはちょっと違いますね。隔週の雑誌は、こういう動き方が多いのではないでしょうか。私はまとまった休みが取りにくくて苦労しますが(笑)
企画を立ち上げ、取材をするわけですが、その際、何を伝えたいのかを明確にするということですね。単に話題だからやる、じゃ、この雑誌でやる意味がありません。
また、グラフィックに力を入れていますので、企画の最初からADとともにビジュアルイメージを構築しながら進めていくというのも多いです。
――最近のヒットは何でしょう?
昨年秋の「野茂英雄特集」ですね。 野茂選手とは、近鉄時代からずっと付き合いがあったんです。 もう引退してるし、どうかという意見もあったのですが、 偉大な業績を残した人の内部を深く掘り下げる、というのは ウチじゃなきゃできないということでやってみた。 大反響がありました。
同じように、オシム監督の世界にも深く掘く入っていきました。 これらの号は完売するほど評判がよかったです。これも読者が成熟してきた証なんだと思います。 キラーコンテンツといったらちょっと違うかもしれませんが、オシムや野村克也さんのような、いまは現役の選手ではないが、その世界を深く経験をされたうえで自分の言葉をもって語れる人というのは人の心を動かすと思います。われわれが大事にしたいところです。

話題の人物に深くアプローチした特集の数々
――「Number」から生まれた作品を教えてください。
さっき言われた「江夏の21球」(山際淳司)、「28年目のハーフタイム」(金子達仁)、ナンバーノンフィクション新人賞を取った「果てなき渇望」(増田晶文)、「頂上の記憶」(阿部珠樹)・・・。それと、ワンテーマを深く掘り下げた別冊「Number plus」も出しています。
――webをリニューアルされましたね。王(貞治)さん長嶋(茂雄)さんもコメントを寄せておられます。
ネットの世界との上手な共存関係を模索しています。
弊社では、webは別に編集部があって、そこが担当しています。もちろん紙の編集部といろいろ連携とりあって進めていますが、webオリジナルといった記事も結構つくっています。webの特徴をいかして、速報性の高いニュースを扱ったり、新しい書き手を起用してみたりと、いろんな試みをしています。
――編集長自身、スポーツはされますか?
私は観るほう専門です(笑)。
とくに欧州のサッカーがダイナミックなので好きです。「ナンバー」は「する」いわゆる「Do」の雑誌ではないので、私がサッカーをしなくてもいいのでは、と思います。
でも、いまは編集者もいろんなスポーツをしていますね。昔みたいに、する人と観る人が分かれているということではなくなっています。市民ランナーがトップアスリートの記事を読んで、自らより高みを目指す、みたいな現象も起きています。これもスポーツをとりまく世界が成熟している証だと思います。
――最後に「ナンバーMVP賞」について教えて下さい。
これは、1982年から始めているのですが、毎年、スポーツ界で最も印象的だった人に贈る賞です。初めての受賞者は広岡達朗さん。中田英寿さんのときは、社に来てもらったら、みんなの注目の的になりました。
基本的に編集部の任意で選んでおりまして、選考委員とかはいません。毎年12月~翌年の1月にかけて選ぶのですが、さあて、今年は誰になるんでしょうね。
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1.文藝春秋(文藝春秋)
読めば読むほど勉強になる雑誌。
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2.COURRiER Japon(講談社)
うまく時代の空気を取り込んでいると感じてます。
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3.BRUTUS(マガジンハウス)
特集の切り口が昔から好きです。
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4.Tarzan(マガジンハウス)
特に最近の表紙や特集テーマが気になります
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5.SPA!(扶桑社)
いかにも雑多なところに勢いを感じます。
(2009年5月)