『ギターマガジン』では、ギタリストとギターのカッコよさを伝えることと、思わず弾いてみたくなるような記事作り、どんな音かを想像できるような機材の紹介を心がけています。編集長になってからずっと意識していることは"読んだ人がギターを弾きたくなる雑誌作りをしよう"ということですね。だいたい最初はみんな、誰かカッコいいと思うギタリストに憧れて始めるものなので、そのカッコよさを伝えたいんです。あとは洋楽邦楽問わず、演奏力が優れているギタリストであれば、ジャズでもヘビメタでもロックでも、幅広く取り上げているのが特徴ですね
ビートルズがきっかけで中学二年でギターを手にし、自身もギター歴は30年以上の野口さん。かつてプロを目指していた時代もあったとか。
「大学生の頃は本気でバンドで食っていきたいと思って、オーディションを受けたりデモテープを送ったりもしていましたよ。でもまったくダメで、そもそも自分の作ったオリジナル曲なんて誰も聞きたくないだろうなと思ったんです(笑)。それでギタリストの道は潔く諦めて、音楽に関わる仕事をしようとリットーミュージックに入社しました。プロのミュージシャンになる人っていうのは、自分の作った音楽が一番好きで、それをやるのが楽しいという人たちなんだと思います。僕の場合は誰かのコピーをやってる方が好きだった(笑)。去年の会社の忘年会では、奥田民生のコピーバンドでギターヴォーカルをやって楽しかったですね」
『ギタマガ』の担当になって十数年、国内外含め数多くのアーティストに取材をこなしてきた野口さんだが、超大物海外アーティストに、あるユニークな要求をされたことがあるという。その人物とは?
「これまでで一番緊張したのはBBキングの取材です。僕がまだ新人の頃、かなり緊張しながら取材をしたんですが、最後にいきなりBBキングから彼のギターを手渡され、「お前、今ここで弾いてみろ!」と言われたんです。緊張のあまり何を弾いたかはまったく覚えていませんが、がむしゃらに弾いて「Good!」みたいなことを言われたのは覚えています(笑)」

BBキングといえば、いわずと知れたブルース界の巨匠。羨ましいような恐れ多いような話である。さらに、憧れのギタリスト・大村憲司氏との出会いについてこう振り返る。
「尊敬するギタリストはたくさんいますが、あえてあげるとすれば、高校時代から大ファンだった大村憲司さんです。僕がちょうど『ギタマガ』編集部に戻ってきた97年に、大村さんのデビュー25周年記念の記事を担当することになったんです。そのインタビューをきっかけに、リハーサルに呼んでもらったり、『ギタマガ』に原稿を書いてもらったり、一緒に飲んだりするような親交が始まりました。僕にとっては長年の憧れの人でしたから、それはもう夢のようで嬉しかったですね。ところがその翌年の98年に、大村さんが急逝されてしまったんです。『ギタマガ』でも追悼特集を組み、大村さんと親交の深かった、細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏、山下達郎、矢野顕子といったそうそうたる人々にコメントをもらいました。それがきっかけで、その方々や大村さんのご家族と現在も付き合いが続いています。大村さんご本人とはたった1年ほどでしたが、そのタイミングで出会えたのはなにか不思議な縁を感じてしまいますね」
野口さんのイチオシ★
「Jazz Impression」渡辺香津美

野口さんのイチオシ★
「Jazz Impression」渡辺香津美
近年、国内では所謂ギターヒーローと言われるようなギタリストの登場はないが、若い世代の中にも"天才"と呼ばれるギタリストたちがいる。野口さんは、彼らにある共通点を感じるという。
「チャットモンチーの橋本絵莉子はデビュー当時から天才肌だなあと感じていました。ライブで見ただけだと天然系のかわいらしい印象だったんですが、実際会ってみると全然違って、竹を割ったような性格なんですよ。自分の中にハッキリとした理想の音があって、それを明確に言葉にするんです。あとはBUMP OF CHICKENの藤原君と、RADWIMPSの野田君。彼らも彼女と同様に、自分の音楽に自信を持っていて、ハッキリと言葉で説明することができるんです。昔はミュージシャンって寡黙だったり、音楽については感覚的に語る人が多かったんですが、これは今の世代の特徴なのかもしれません。インタビューのしがいはあります(笑)。自分の気になるミュージシャンは、実際に会って、どんなことを考えていてどんな人物なのか確かめてみたいって思いますね。それを誌面で読者にも伝えていければと思います」
(2009年08月)