-食に関する本に携わっていらっしゃいますが、普段料理はしますか?
雑誌で紹介したものや撮影で気に入ったものを作ります。あとは誌面用に試作を兼ねて作ることも。誌面で取り上げるのは、昔、田舎のおばあちゃんが作っていたような料理なので、きちんとしたレシピがないんです。もとになっている『日本の食生活全集』という本はあるけれど、聞き書きで作っているので書いてあることが感覚的で、そのままでは今の人には伝わりづらいし。
-ほんとだ。「熱くした油の中へひとさじずつ落とし、少し気長に揚げる」って!
そうなんです(笑)。口伝えだから。本当はこういう料理ってお母さんやおばあちゃんに直接教わってもらいたいんですよね。最近はそれができないから『うかたま』が代わりにやってるんですが。だから、本の通りに作らなくてもいいんですよ。身近な人に教わってくれれば。
-『うかたま』の読者はどんな方ですか?
20~40代の女性で、結婚や出産を機に食べ物のことを考え始めたという方が多いです。50、60代の方もいらっしゃいます。仕事や子育てが落ち着いたから食生活について考えてみようって思うみたいですね。これは意外でした。世代を越えて親子で見たり、家族や親戚に勧めてくれたりする方も多いんですよ。
-確かに、身近な人に作って欲しい料理ですよね。これまでで印象に残っている料理や特集はありますか?
最近では「乾物エブリデー」かな。乾物っていつ料理するかを考えて水で戻すから、段取りを考えないと使いこなせない。乾物を使うことで食事作りのサイクルが変わるんですね。その前に取り上げた天然酵母のパンも同じ。酵母を仕込んで、食べられるのは1ヶ月後ですから。
中田さんが読んでいる1冊

中田さんが読んでいる1冊
-時間の感覚が変わるんですね。
そうなんです。「5分で」ではない。「手軽」とも違う。だから雑誌の企画も「来年の夏号に何をする」っていうスパンで考えないといけないんですが、これが難しい。夏に梅の特集をやろうと思ったら前の年に準備しないといけない。時期を外すと手に入らないんです。それがいつもジレンマですし、そういうものを相手にしているんだと実感しています。それに、ちょっと取材のタイミングを外すと、目をつけていたおばあちゃんも病気になったりして出てもらえなくなってしまうんです。だから常に「今やらないと」という感じ。1回1回全力でやらないと、おいしいものもステキなおばあちゃんも逃してしまうんです。
-なんだか雑誌のあるべき姿だという気がします。雑誌を作っていて嬉しいことは何ですか?
やっぱり、売れることです。いくら「やってほしい」って気持ちがあっても手にとってもらわないことには始まらない。でも売れるのが目的ではなくて、『うかたま』をきっかけにいろんな経験をして「そうだったんだ」って気づいてもらうことが大切なんです。たとえば、玄米って水でさっと洗うと籾が浮いてくるんですが、それを見て「玄米ってもともとは種なんだ、芽を出すものなんだ」って気づく。鍋で炊くときに「浸水時間は?」「火加減は?」って考えることで改めて「炊飯ってこういうものだった」って気づく。そういう体験ができたら米自体のおもしろさに気付けると思うんです。玄米を食べることを通じてお米のことを考えたり、ご飯を玄米に変えることで食卓が和風になったり、そういう風に食生活を変える一つのきっかけになったらいいなと思っています。
(2009年08月)