――最近の「SPA!」って、ちょっと変わってきた感じがするのですが。

編集部は新聞社のような趣だ

要塞さながらの編集長デスク
そうかもしれません。昔だったら絶対に第一特集に来ないようなものが来てますからね。「SPA!」って90年代はサブカルではちゃめちゃやってた感じで、それからサラリーマンのグチ雑誌みたいなテイストになって・・・いまは、レトリックとか見出しに伝統の影は見出せるのでしょうが、中味は変わってます。まぁ時代とともにしょっちゅうリニューアルしてるって感じでしょうか。
―読者層も上がってますか。
ええ、いまは35、6歳がコアな読者層です。昔は27、8歳でしたからかなり上がってきてますね。でも週刊誌としては最も若い読者層ですよ(笑)。いわゆる活版って、昔は読者の主流が40代でしたが、いまは60代。これも時代ですね。仕方ないと思います。
20代の人たちは、紙の雑誌よりもネットのほうに行っちゃってますね。
―勝谷誠彦さん、田中康夫さん、福田和也さん・・・錚々たる連載陣ですが、これらの方々の年齢も上がってますものね。
実際「週刊チキーーダ!」(飯田泰之&荻上チキ)といった若い人たちの連載もあるのですが。
でも、田中康夫さんにしろ、坪内祐三さんにしろ、福田和也さんにしろ、本当にこの雑誌の背骨をつくってもらってると思っています。これら知的な二階屋根部分をつくってもらってる方々もほとんど50代ですから、それは仕方ないのかもしれません。
―若い読者には「日刊SPA!」(http://nikkan-spa.jp/)ですね。
ええ、そうかもしれません。7月からこんなサイトにしたんです。本来は、若い書き手の発掘といった意味も持たせたかったのですが、まだまだ出来ていません。これが独自にお金を稼げるサイトに成長していけば、可能性は広がると思っています。
―これも編集部でつくっているのですか。
編集部総出でやってます(笑)。記事は「SPA!」本誌のコンテンツとオリジナルコンテンツが半々ですが、9割以上が編集者が書いています。月に何本書くとかは別に決めてなくて、「SPA!」本誌じゃ通らなかった企画をこっちに入れたり、実験的なネタをやってみたり。
お蔭様でPVは伸びていて、春には1000万PVに達する予定です。
広告主の方々からは高い評価をいただいてまして、いろんなトライを提案していただいてます。本誌と連動の広告などもやってます。
ま、息切れしないようにやんないと。これ、編集者の無償の残業みたいなもんですから(笑)。
―サイトが雑誌の実売に影響を与えたりはするのですか。
いや、それはまったく関係ないみたいですね。読者がやはり違うんだと思います。実際「SPA!」の記事をつかっていろいろやったりしてるんですが、影響は見えません。
ですからよくネットと共存とかいうじゃないですか。それはうちでは当てはまらないかもしれません。でも、それでいいんです。それぞれが別の可能性をもって自立していたほうがいいと思っています。
―週刊誌ですから、本当に忙しいと思いますが、どのくらいの人数で編集されているのですか。

初稿が上がってきた
僕を含めて31人ですね。それで雑誌を回し、webサイトを運営し、書籍も去年は70点くらい出しました(笑)。ここで3~4本ヒットを出さないと、なかなか利益が出ませんから。お蔭様で去年は「原発のウソ」(小出裕章著:扶桑社新書)などのヒットを出せました。書籍は雑誌とはまた関係のないルートから上がってきて、形になっていくものもあります。
―雑誌の特集が実用よりなのが最近の特徴でしょうか。
そうですね。第1特集、第2特集ともに、最低限の実用にひっかってない出しにくいですね。プラン会議で出てきたものを「SPA!」独自のレトリックでいじれ、遊びの要素がどのくらい入れていけるのか、がカギです。
―そのなかでも刺さるネタというと。
他誌もそうかもしれませんが、SEXでしょうか(笑)。あとは、同世代の女は何を考えているんだといったネタも刺さります。たとえば今号(2011年12月13日号)では、第1特集が「女が語る[人生最高/最低]のSEX」で、第2特集が「[職場のストレス]を消し去る技術」なんですが、こういうのは、バランスがいいと思います。
逆に、あまり刺さらなかったのが、その前の号でやった「嫌われる20代」。年下にむかつくってこと、ウチの読者にはありかなと思ってたけど、そうでもなかったです。こういうのはネット向きなんでしょうね。
―編集の独特のレトリックって難しいでしょうけど、編集長としては、どのへんに注意して雑誌つくりをされてますか。

「SPA!」からうまれたベストセラー
プラン会議でどうディレクションするかということと、あとはタイトルに気をつけてはいますが、あんまり細かいことは言いません。
それより、いまは名誉毀損の問題がやっかいで、これは裁判になってもメディア側が負けるケースが増えています。
―渡部さんは、どうして編集者になられたのですか。
僕は学生時代から「SPA!」を読んでて、本当に「SPA!」の編集者に憧れてたんです。それがかなったわけで、いまは雑誌を楽しんでつくってます。忙しいですけど、望みどおりの仕事が出来ているわけで、これに勝る喜びはありません。
雑誌って、人と企画の打ち合わせしているときが一番楽しいって思うんですよ。
―それは素晴らしいですね。どんなライフスタイルなんですか。

編集部には自販機もしっかり
いや、平凡です。午前中は新聞やワイドショーをチェックして、午後いちくらいで編集部に来て、後はずっと打ち合わせ。夕方から出てくるゲラを見て、水曜、金曜で校了する(笑)。土・日は基本、休めますが、土曜はけっこう自宅でゲラ読んだりしてますね。
―休日の楽しい過ごし方とかあるんですか。
山登りを最近また始めたんです。昔も一時やってたことがあるんですが、最近また別の友人に誘われて、登り始めました。奥多摩とか行ってます。ハードなことはしませんが、この春くらいから縦走始めようかと思っています。
(2011年12月)
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- 「SPA!」には私も少なからず縁があって、いまの形をつくった2代目編集長の渡邊直樹さんは、別の編集部で一時私の上司でもありましたし、福田和也さんの才能にいち早く注目し「en-taxi」を立ち上げた壱岐真也さんとは悪友関係でありました。
とにかくクセの強い、個性的な編集者が多い編集部という印象で、また登場する著者もツワモノぞろい。時は移れど、日本のサブカル・シーンにはいまも「SPA!」は君臨している気がします。しかし、これだけのコンテンツを巧みに扱う現編集長の渡部超さんは、さながら静かな猛獣使いかと思ってしまうのでした。
インタビュアー:小西克博
大学卒業後に渡欧し編集と広告を学ぶ。共同通信社を経て中央公論社で「GQ」日本版の創刊に参画。 「リクウ」、「カイラス」創刊編集長などを歴任し、富士山マガジンサービス顧問・編集長。著書に「遊覧の極地」など。
