―なんと言っても料理写真のインパクトがすごいですよね。すごく旨そうです。
ちょっと恥ずかしいくらい(笑)。でも、これは創刊時の編集長だった鈴木哲の思いなんですよ。彼は「大きいことはいいことだ」の人でしたから、何でもどーんと行けと、気取ってちゃいかん、と。画面いっぱいに旨いものの写真があると、そりゃインパクトありますよね。われわれだって校了してるときに掲載する料理の写真見てると本当に腹が減ってきちゃって目の毒ですよ(笑)。
そういう分かりやすい表現なんですよね。よく女性誌などで見られるような綺麗な体裁や空間を生かしたようなレイアウトは私自身も好きじゃない。どーんと大きく、ストレートに読者の本能に訴えるんです。
でも電車なんかで読んでるとやっぱり隣のひとの目線が気になります(笑)。
―いやぁ本当にお腹がすいてきちゃいます。

まだコンセプトが固まっていなかった創刊号

創刊2号めからはもう今の形に近い
この雑誌は、もともと「週刊現代」の増刊で出したんですよ。当時の鈴木哲編集長中心にグラビアの延長で何か別冊やってみようと。あのころの週刊誌はまだ余裕があったので、結構外部の人たちと毎日飲み歩いてたんです。で、いろいろ口が肥えたりしてたし、食がブームだったりで、そのあたりでやってみようかと。
創刊は2001年7月でしたが、創刊号はなんでもごちゃまぜで、「週刊現代」のグラビアの拡大に過ぎなかったんです。ですからあまり売れませんでした。
で、考えた。アンケートとってみると、やはり食のニーズが高いんですよ。
じゃあ、いっそ食を前面に出した構成にしてみようじゃないの、ということで2号目からは、いまと同じ路線になりました。表紙から寿司がどーん、です(笑)。月刊化して私が編集長になったのが2003年9月でした。
でも、会社の経費で飲み食いできる人はいいけど、普通はそうはいかないですよね。サラリーマンが自腹でいけるのはやはりひとり5000円くらいかなと。なのでお酒を飲んでもひとり7~8千円くらいで、そこそこいいと思える店を中心に紹介してみました。これはうけましたね。
―年齢はそこそこ高めですよね。

写真や資料はきっちり整理されている
45、6歳ですね。男性6割弱、女性4割強といったところでしょうか。女性のほうが読者は若いです。まあ経験値が高くて同時にいろんなものを客観視できる、いわゆるおとなですね。ちょうど「サライ」が注目されてもいたので、その辺りも目標に考えたりもしました。でも、基本は自腹で行けるということに主眼をおいてます。
―あとは覆面調査ですね。
はい、これも最初から守っているコンセプトです。正直に自分たちが感じたことをやろうと。ですから店の宣伝はやりません。まずは評判の店や自ら探した店などへうちの編集とライターがペアで食べに行きます。そして、 それが納得いくものであれば、そこで初めて取材許可をとって撮影、掲載となります。
もちろんなかには掲載不可の店もありますが、料理の写真や外観などは基本的に載せるようにしています。おいしい料理は公共の宝であると思っているからです。もちろん店側とは誠意を尽くして話した上でですが。
そんな掲載不可の店でよくあるのが、行列ができて近所に迷惑がかかるから止めろというものです。そんな場合は仕方ないので掲載しないのもありますが、基本は、いい店は掲載するというスタンスで望んでいます。
―なんで男女ペアで取材するんですか。
これは男の視点と女の視点が違うからなんです。男はどうしても食そのものやお酒などに目がいってしまいますが、女性は器だったりもてなしだったり店の雰囲気だったりで、ペアでいくとそのへんのバランスがうまくとれるんですね。そして2人の掛け合い漫才のような臨場感のある記事にもなりますし。むかしは覆面調査用の店の採点表とかもあったのですが、いまはもうみんなよくわかってきているので使ってないです。
―文字通り「おいしい」取材なので、うらやましがられませんか。
実際やってみると大変ですよ。焼き鳥屋だけで何十件食べ歩くとか(笑)。朝昼夜とすべて外食になるわけですし。幸いみんなたくましいので頑張って食べまくってますが、健康診断の数値とかは気になりますよ。
社内に食堂があるのですが、たまにそこで食べたりしてると、こいつ仕事してないって言われたり(笑)。
―食に関わるひとは体張らないとできないとよく言いますね。編集部は何人いらしゃるんですか。

開放感のある作業室

編集部も広くてゆったりしている
私を入れて5人です。あとは外部のライターが12、3人です。編集は女性がひとりですが、ライターはほとんどが女性ですね。まあ食の取材って、判断が基本的に主観的なものなので、評価が難しいところはありますが、長いことやってると客観的に見えるようになってきますね。ペアで動いていると特にそうですよね。
―編集会議とかはどんな感じなんですか。
いわゆる会議みたいなのは月1でやります。みんなから企画を出してもらって、それを私が判断してゴーサイン出す形です。覆面取材で上がってきたものは一通り私がチェックして、全体のバランスを見ながら構成していきます。とくに紹介する店の場所のバランスには気を配っています。
いわゆるB級グルメものも流行ってます。これは経費が抑えられていいということでやったこともあるのですが、逆に売り上げが落ちちゃって(笑)。やはりこの雑誌の読者には、外食というちょっとした非日常の部分に少し夢がないといけないんでしょうね。
―広告部からタイアップを頼まれたりしませんか。
それはありますよ。編集部がつくったほうがクライアントにとっては魅力的ですからね。年に一度くらいやりますが、これも基本的には、よいしょ記事ではなく、いい悪いは編集的判断でいいというもののみです。でないと読者の信用を失ってしまいますから。 ですから広告、宣伝がらみのページは基本的には広告部がつくっています。
女子スイーツ部といった企画もありますが、これは女性編集者がひとり入ってきたからこそできたページで、女性が入ると記事の幅が広がるいい例かもしれませんね。
お取り寄せページなどもつくっていますが、これはよく売れています。楽天に店を出したりしています。
ですからデジタル対応などももっと積極的にやらねばならないのでしょうが、まだまだこれからですね。
―今後もこの方向を維持していかれますか。

雑誌から生まれる書籍も多い
そうですね、基本は食なのですが、「食を愛する 街を楽しむ 旅に恋する」といったキャッチコピーのように、もう少し街や旅についてのページを増やしていこうと思っています。
私自身、街を歩くのが大好きなんですよ。暇さえあれば裏路地を散策したりしてる。もちろん健康への配慮もありますけどね。でも、会社のある文京区音羽から銀座まで歩いていって飲むなんてのも、いろんな発見があっていいものですよ。
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1.週刊現代(講談社)
古巣ですし、編集長の切り口が面白い。
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2.dancyu(プレジデント社)
仕事柄読んでますが、さすがですね。
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3.モーニング(講談社)
やはり「クッキングパパ」は読みますね。
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4.COURRiER Japon(講談社)
弊社のものが多くて恐縮ですが、これも面白いです。
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5.Hanako(マガジンハウス)
旅の参考になるし、女性の視点もよくわかります。
(2010年10月)
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- 表紙からいきなりどーんと旨そうな料理。ページをめくればそれらのオンパレード。いやぁこれには誰もがやられてしまいます。理屈ぬきに本能に直接訴えてくるものがあります。
しかし、こういう取材こそ文字通り自分の体を張ってやらなければならないものなので、実は結構大変です。
むかしは「すし」を取り上げると常に評判がよかったそうですが、最近はそうでもなくなってきたようです。食のバラエティも広がりましたし、何より景気がよろしくない。創刊当初はひとり5000円という設定が、いまでは4000円くらいになってきているというのも頷けます。
だからといって、激安居酒屋をやるわけにもいかないでしょうし、なかなか舵取りも難しいところです。ただ食に関して、読者のレベルは相当なものだと思われます。だからこそ正直にやらないといけないでしょうし、店側も客商売の原点をつねに考えて経営をしていかないと、すぐに見放されてしまう厳しい現実がありますね。
でも週末のプチ非日常のちょっとした贅沢には、いろんなバリエーションがありそうで、取材テーマには事欠かない気がします。 講談社の社食も、私から見たらプチ贅沢な非日常ですから、どうかみなさん、編集部の人がいても大目にみてあげてください。
インタビュアー:小西克博
大学卒業後に渡欧し編集と広告を学ぶ。共同通信社を経て中央公論社で「GQ」日本版の創刊に参画。 「リクウ」、「カイラス」創刊編集長などを歴任し、富士山マガジンサービス顧問・編集長。著書に「遊覧の極地」など。
