目次
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ゲームが世界をのみ込む:
特集テーマは「GAMING THE MULTIVERSE」。いまやAIという”知性”を獲得したゲーム内世界は「リアルとは何か」の再考を人間に迫り、XRが3次元の制約を超えた没入体験を実現し、オープンワールドを埋め尽くす無限のストーリーがわたしたちの人生を紡いでいる。ゲームエンジンによって物理社会をもその領域に取り込み、マルチバース(多次元世界)へと拡張していくゲームのすべてを総力特集!
子どものころ、アリの隊列を眺めながら、この世界も空高くから眺める巨人の箱庭なのだろうかと空想を巡らせた経験は誰にでもあると思う。蝶になった夢から覚めて自分が本当は蝶なのか人間なのかと問うた荘子から、この世界が悪魔に惑わされた偽物ではないことの証明を求め続けたデカルトまで、ぼくたちはいつの時代も「現実(Reality)とは何か」を問い続けてきた。
その21世紀版が、デイヴィッド・チャーマーズの「マトリックス仮説」やニック・ボストロムの「シミュレーション仮説」だ。自分がいま、本当はバーチャルワールド(実質世界)の中にいるのではないかという問いに、哲学者であるふたりは真摯に思弁を重ねたうえでこう答える ─ それを完全に否定することはできない、と。
この仮説を支持するのは何もイーロン・マスクだけじゃない。早くも1995年の『WIRED』のインタビューで、ロボット工学者のハンス・モラヴェックは2040年までにロボット(AI)が人間と同等の知能をもつとしたうえでこう語っている。「実際のところ、ロボットが人間の世界を何度も何度も創造するようになったとすると、たとえオリジナル版の世界が存在したとしてもそれはそのなかのひとつに過ぎない。従って統計的に考えれば、自分たちがたまたまオリジナルに暮らしているよりも、無数に存在するシミュレーション世界のどれかに住んでいる可能性のほうがよっぽど高い」
この突飛な仮説に多くの科学者が反論する一方で、「It from bit(宇宙のすべては情報である)」という情報理論と量子物理学からの知見はますます無視できないものになっている。目の前の物理的現実が情報によって構成されているならば、スクリーンの中にデジタル情報として構成されたVRとの違いなんてどこにもない。新著『REALITY+』のなかでチャーマーズは、「VRとは真正のリアリティにほかならない」と明確に定義している。
それは思弁的なだけでなく確かな実感を伴うものだ。20世紀の複製技術時代において、生の音楽や舞台芸術の複製(コピー)を映画やCD、ストリーミングとして享受し、それに感動し、人生を決定づけたことが実質的な体験であったのと同じ意味で、バーチャル世界の中で起こることはいまもこれからも、あなたの心を揺さぶり、感動や悲しみを喚起し、大切な出会いをもたらし(それが人間であれAIであれ)、あなたの人生を決定づけるだろう。
いまやメタバースと呼ばれる没入型のバーチャル世界は、80年代のRPG『ウィザードリィ』から世界を席巻する『Minecraft』までを遊んだ世代の実感としては、文明の漸進的変化に過ぎない。オープンワールド型の、つまりプレイヤーが自由に行動できる世界をあなたがプレイしたことがなくても、あなたの周りの子どもたちは今日も食卓には目もくれずに夢中になっているはずだ。
この物理世界が制約とバグだらけのムリゲーに思えていく一方で、オープンワールドは「理想の現実」をつくり出す。努力と成果が明快に結びつき、成長が実感され、世界中の人々とつながり、冒険心や探求心を刺激され、予期せぬ戦争や社会不正やパンデミックによって理不尽にリセットされることがない世界に安心して自分の居場所を見いだすのは、逃避ではなく現代の積極的な生存戦略なのだ。
こうしてぼくたちはもはや、チャーマーズが言う「Its from bits」、つまり複数形の現実(Realities)を生きている。オープンワールドに飛び込み、あるいはインディーゲームのつくり手として、この世界のシミュレーションを、あるいはありえたかもしれない世界、今後起こりうる世界、この世界とは違う物理法則で動く世界のシミュレーションに加担し、ボードリヤールが定義するシミュラークル(オリジナルのないコピー)を生み出し続けているのだ。
そして、文化とは「遊びのなかで遊びとして発展した」と書いたホイジンガに倣うならば、次の重要な文化的パラダイムシフトは、シミュレーションのなかでシミュレーションとして発展するだろう。Web3を牽引するa16zのマーク・アンドリーセンがかつて「ソフトウェアが世界をのみ込む」と正確に予見したように、いまやゲームが世界をのみ込んでいる。ミラーワールドやメタバース、クリプトエコノミーにNFT、AIやジェネラティブアートといった技術の実装はすべてゲームが先行し、そのなかに文化が生まれ、人生がそこに刻まれていくのだ。
そのプレイヤーであるぼくたち自身も誰かのシミュレーションなのかどうかは哲学的問いかもしれないけれど、もしそうだとしたら、パンデミックや気候危機、テロや戦争でこれだけ混沌とした世界を生み出しているのは、きっと全能の神というよりも、どこかの10代のゲーマーによるオープンワールドのシミュレーションゲームである可能性が高いだろう。ちょうど、いまもこの世界のあちこちで、誰かがプレイしているゲームのように。
『WIRED』日本版 編集長 松島倫明
特集テーマは「GAMING THE MULTIVERSE」。いまやAIという”知性”を獲得したゲーム内世界は「リアルとは何か」の再考を人間に迫り、XRが3次元の制約を超えた没入体験を実現し、オープンワールドを埋め尽くす無限のストーリーがわたしたちの人生を紡いでいる。ゲームエンジンによって物理社会をもその領域に取り込み、マルチバース(多次元世界)へと拡張していくゲームのすべてを総力特集!
子どものころ、アリの隊列を眺めながら、この世界も空高くから眺める巨人の箱庭なのだろうかと空想を巡らせた経験は誰にでもあると思う。蝶になった夢から覚めて自分が本当は蝶なのか人間なのかと問うた荘子から、この世界が悪魔に惑わされた偽物ではないことの証明を求め続けたデカルトまで、ぼくたちはいつの時代も「現実(Reality)とは何か」を問い続けてきた。
その21世紀版が、デイヴィッド・チャーマーズの「マトリックス仮説」やニック・ボストロムの「シミュレーション仮説」だ。自分がいま、本当はバーチャルワールド(実質世界)の中にいるのではないかという問いに、哲学者であるふたりは真摯に思弁を重ねたうえでこう答える ─ それを完全に否定することはできない、と。
この仮説を支持するのは何もイーロン・マスクだけじゃない。早くも1995年の『WIRED』のインタビューで、ロボット工学者のハンス・モラヴェックは2040年までにロボット(AI)が人間と同等の知能をもつとしたうえでこう語っている。「実際のところ、ロボットが人間の世界を何度も何度も創造するようになったとすると、たとえオリジナル版の世界が存在したとしてもそれはそのなかのひとつに過ぎない。従って統計的に考えれば、自分たちがたまたまオリジナルに暮らしているよりも、無数に存在するシミュレーション世界のどれかに住んでいる可能性のほうがよっぽど高い」
この突飛な仮説に多くの科学者が反論する一方で、「It from bit(宇宙のすべては情報である)」という情報理論と量子物理学からの知見はますます無視できないものになっている。目の前の物理的現実が情報によって構成されているならば、スクリーンの中にデジタル情報として構成されたVRとの違いなんてどこにもない。新著『REALITY+』のなかでチャーマーズは、「VRとは真正のリアリティにほかならない」と明確に定義している。
それは思弁的なだけでなく確かな実感を伴うものだ。20世紀の複製技術時代において、生の音楽や舞台芸術の複製(コピー)を映画やCD、ストリーミングとして享受し、それに感動し、人生を決定づけたことが実質的な体験であったのと同じ意味で、バーチャル世界の中で起こることはいまもこれからも、あなたの心を揺さぶり、感動や悲しみを喚起し、大切な出会いをもたらし(それが人間であれAIであれ)、あなたの人生を決定づけるだろう。
いまやメタバースと呼ばれる没入型のバーチャル世界は、80年代のRPG『ウィザードリィ』から世界を席巻する『Minecraft』までを遊んだ世代の実感としては、文明の漸進的変化に過ぎない。オープンワールド型の、つまりプレイヤーが自由に行動できる世界をあなたがプレイしたことがなくても、あなたの周りの子どもたちは今日も食卓には目もくれずに夢中になっているはずだ。
この物理世界が制約とバグだらけのムリゲーに思えていく一方で、オープンワールドは「理想の現実」をつくり出す。努力と成果が明快に結びつき、成長が実感され、世界中の人々とつながり、冒険心や探求心を刺激され、予期せぬ戦争や社会不正やパンデミックによって理不尽にリセットされることがない世界に安心して自分の居場所を見いだすのは、逃避ではなく現代の積極的な生存戦略なのだ。
こうしてぼくたちはもはや、チャーマーズが言う「Its from bits」、つまり複数形の現実(Realities)を生きている。オープンワールドに飛び込み、あるいはインディーゲームのつくり手として、この世界のシミュレーションを、あるいはありえたかもしれない世界、今後起こりうる世界、この世界とは違う物理法則で動く世界のシミュレーションに加担し、ボードリヤールが定義するシミュラークル(オリジナルのないコピー)を生み出し続けているのだ。
そして、文化とは「遊びのなかで遊びとして発展した」と書いたホイジンガに倣うならば、次の重要な文化的パラダイムシフトは、シミュレーションのなかでシミュレーションとして発展するだろう。Web3を牽引するa16zのマーク・アンドリーセンがかつて「ソフトウェアが世界をのみ込む」と正確に予見したように、いまやゲームが世界をのみ込んでいる。ミラーワールドやメタバース、クリプトエコノミーにNFT、AIやジェネラティブアートといった技術の実装はすべてゲームが先行し、そのなかに文化が生まれ、人生がそこに刻まれていくのだ。
そのプレイヤーであるぼくたち自身も誰かのシミュレーションなのかどうかは哲学的問いかもしれないけれど、もしそうだとしたら、パンデミックや気候危機、テロや戦争でこれだけ混沌とした世界を生み出しているのは、きっと全能の神というよりも、どこかの10代のゲーマーによるオープンワールドのシミュレーションゲームである可能性が高いだろう。ちょうど、いまもこの世界のあちこちで、誰かがプレイしているゲームのように。
『WIRED』日本版 編集長 松島倫明
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Editor’s Letter
NRI 野村総合研究所
Contents
SONOS
Contents
拡張するゲームと世界
ゲームは四角いスクリーンを飛び出しいよいよ空間に溶けていく
わたしたちがゲームをつくる理由
「プレイして稼ぐ」の経済圏
かくしてゲーム音楽はポピュラーミュージックになった
ゲームをつくらないゲームエンジン
【AD】WIRED CONFERENCE
ヴィデオゲームの物語論
「一緒に遊ぶ」の現代史
任天堂と5つの視点
ゲームAIが都市(≒環境)に溶け出すとき
GAMING STUFF
天駆せよ法勝寺 for PrayStation VR3、ただしメタバース死にゲー 八島游舷
【AD】SZ MEMBERSHIP
eスポーツコーチの孤独と挑戦
WIRED PROMOTION ファッションの変革はいかにして可能か
水野祐が考える新しい社会契約〔あるいはそれに代わる何か〕 第11回 アヴァターと相互運用性
すすめ!! VIRTUAL CITIES Inc.(仮) 豊田啓介 × 倉田哲郎 第9回 ルールを制定するのは誰?
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WIRED INSIDER
川田十夢の「とっくの未来」 第23回 プロンプトエンジニアリングと『智恵子抄』
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ヘルス/環境/交通/政治
ビジネス/カルチャー/セキュリティ
2023年の重要キーワードを『WIRED』が総力を挙げて特集
未来を予測する最も確実な方法ーーそれは未来を自ら発明することだ。
あまりにも有名なこの一節を体現する世界中のヴィジョナリー やイノヴェイターをフィーチャーし、2023年の決定的なトピックスやパラダイムシフトに迫った『WIRED』の人気特集「THE WORLD IN 〜」が今年も登場 !
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商品情報・内容
- 出版社:コンデナスト・ジャパン
- 発行間隔:不定期
- 発売日:不定期
- サイズ:B5変型
■ 1993年に米国で創刊、世界で最も影響力のあるテクノロジーメディア『WIRED』の日本版
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