ENGINE(エンジン)の編集長インタビュー

編集長プロフィール

新潮社
「エンジン」編集長 鈴木正文さん

すずきまさふみ 1949年東京生まれ。英字紙記者を経て、二玄社に入社。自動車雑誌「NAVI」の創刊に参画 し、89年に編集長就任。99年に独立し翌年から男性ライフスタイル月刊誌「エンジン」(新潮社)を創刊。著書には 「マルクス」「走れ!ヨコグルマ」など。

編集長写真

第9回 ENGINE(エンジン) 編集長 鈴木正文さん

エンジンのように先に進もうとする“意志”を常に持ち続ける

――かつては鈴木さんのような、カリスマ編集長というか、有名な編集長がたくさんいらして、それがまた業界全体の活力になっていたような気がしますが。

ひと昔前までは、よき編集者はよき書き手でもありました。記者上がりが雑誌の編集者をやるというようなケースが多かったんで す。下手するとその人はカメラマンまで兼ねていた。
いまのように、編集者がライターをつかって・・・という分業が生まれたのは比較的新しい出版の形のような気がします。 僕自身も元々英字紙の記者上がりです。つまり、書くし編む。欧米などではそういう編集者が多いはずです。そんな人たちが有名編集長になって、そのまわりに 人や情報が集まるといった状況があったように思います。
いまは人というより、会社とかマーケティング戦略に人があつまるようなシステムになってしまっているようですね。それではあまり 個性的なものはできないと思います。

――確かに。編集長が個性的であればあるほど、雑誌の個性も際立ちます。 好き嫌いもはっきりしますが、読む側としては個性的な雑誌のほうが魅力がありますね。


創刊号は鈴木編集長が自ら表紙を飾った
創刊号は鈴木編集長が自ら表紙を飾った

雑誌って本当はそうあったほうがいいんです。いま雑誌が置かれている状況は厳しく、紙かデジタルか、と雑誌の形が権力の二重構 造のように語られています。デジタルメディアへの過渡期だから仕方ないのでしょうが、雑誌の形はこのようなものだけではなくこれ からも併存していくものなのでしょう。
形はどうあれ雑誌が提供する情報は、基本的に他メディアによって代替できる情報だと価値がありません。情報はしっかり差別化し、 個性を際立たせないと、価値のないものになってしまいます。単なる情報は価値ゼロ円です。

――ウエブ・マガジン「OPENERS」など、デジタル雑誌の世界にも早くから参入されてますね。

「OPENERS」は編集や広告の新しいコラボレーションを模索しようと、坂本龍一さん、祐真朋樹さんらとお手伝いを始めたも のですが、僕は最初いろいろアイデアを出したりして協力したりしました。いまはあまりお手伝いできていません。
このような新しい試みがこれからどんどん出てくるんでしょうね。富士山マガジンサービスさんも、いろんなメディアとのコラボなど やってみたほうがいいですよ。

――車に乗らない人が増えましたが、「ENGINE」には影響がありますか?特に都市部の若い人たちはあまり車に乗らないようですが。

これはもうどうしようもないですね。強制できるものでもないし。
だから、車に乗らない人を相手にしていても僕としては仕方がない。 まあ、変な言い方だけど、車なんて世の中になくってもいいんですよ。いま急にそうなると不便ではありましょうが、車の文化などまだ歴史は浅く、それ以前に すでに人間は建築にしろ美術にしろ素晴らしい文化を創ってきたわけです。そのことを考えると車が特別偉いわけじゃないし、別 に人類に不可欠なものではないでしょう。
いまの若い人が車に乗らないのは、都市で乗るには、経済的なコストに加えて、心理的な負担がかかりすぎるからかもしれません ね。自分で車を運転するには道を覚えねばならないし、ルールなどの知識が必要です。自分でハンドルを握るわけですから、右か 左か瞬時に判断していかねばならないし、歩行者にも配慮しなければならない。責任が多すぎるんですね。 僕などは、自分の運命を人任せにしたくないし無責任でありたくないので、自分でハンドルを握らないと気がすまないのですが、いまの若い人たちは、移動にま で責任を持ちたくないと思うのかもしれません。生きるエネルギーが不足しているのかな。だから電車でいいや、バスでいいや、移動中くらいはのんびりさせてって。

――いわゆる「エコ」は車をとりまく環境に大きな影響を与えています。


車のキーが入り口にかかっているのも特徴だ
車のキーが入り口にかかっているのも特徴だ

しばらくはハイブリッド・カー全盛というか、トヨタの独壇場みたいですが、もっとマイルドなハイブリッド・カーも普及して くるでしょう。僕はHONDAのインサイトなんかは好きですよ。ちゃんとエンジンがかかるし(笑)。
世の中の流れはそうですが、エコカーってもっとバリエーションが欲しいですね。プリウスはいいけど、それ以外にももっと多様 なものが出てこないと、人民服が街にあふれ出したみたいで・・・(笑)。
車って、純粋な遊び道具として使うという側面と、社会的なプロダクトである側面とがあります。後者は社会的なデザインとか フィロソフィーとかが大きな問題になります。このレベルの高さが実は重要で、この部分を忘れないで開発を進めてもらいたいで す。 極端なことをいうと、日本が車をつくらなくても世界は困らないですよ。それは本当の意味でのすごいっていう車を日本はつくってこなかったからです。エコの フィールドでそれをやれればいいですが。

――お洒落なライフスタイルのなかに車が入ってこなくなっていませんか?

もはや車はお洒落で知的なライフスタイルの一部ではないかもしれませんね。むしろ社会的バカが乗るものといった風潮すら感 じる。洋服、家具、なんでもそうですが、ものを選ぶセンスはその人の知的表現です。車もそうですね。
でも、かつてのかっこいい車はいまではゴージャスな服みたい。いわゆるセレブといわれる人たちが持つ一部かもしれないけど、 知的ではないし、かっこよくもない。 昔はかっこいい車というのはヒーローの乗り物だったんです。ところがいわゆるセレブの所有物になった時から高価だけど普通のもの になり、これが金融不況以降よけいにダメになった。

――そうなると車雑誌や「エンジン」のようなライフスタイル誌の立ち位置も難しいと思いますが、雑誌づくりで常に気をつけておられることは何でしょう。

意見を出し合う編集部風景
意見を出し合う編集部風景

ライフスタイル誌である以上、やはり自分がいいというものを取り上げたいんです。もっとおもしろく、もっと知的にしたい。 これは自分自身が常にチャレンジしなければ仕方ないんです。
長いこと編集者をやっているとそれの答えが分かるようなことも多々あるんですが、答えが分かっていてそれに合わせてつくるので は、やはりつまらない。マーケティングからものをつくるのではなく、知るための努力のプロセスがプロダクトにならないと。 「エンジン」というタイトルには、先に進もうとする意志、という意味を持たせてあるんです。常にその意志を持ち続けたい。そうでないと出す意味がありませ ん。

――女性の目線も気にしてませんね(笑)。

気にしません(笑)。
「エンジン」は読者に女性を想定していないんです。もちろん読んでくれるなということではないですよ。アンケートをとると1割く らいの女性読者はいます。男性と一緒に読んでいる方が多いようです。 読者の平均年齢が46歳。車情報にありがちな、女性にもてるワザといった類のものも一切ありません。頑なです。編集部には7,8人記者がいますが、皆男性 です。僕は、女性のことは仕事にしてはいけないのでは、とどこかで思っているんでしょうか。

――“スタイル”ということを本当に大切にされているようですね。そんな鈴木さん自身のライフスタイルというか日常生活を教えてくださいますか。

編集部の片隅には自転車も
編集部の片隅には自転車も

仕事してるだけですよ(笑)。
僕は7時頃起きてゆっくりお風呂に入り、車で昼頃出社です。それからずっと仕事。夜はお付き合いが多いので、酒を飲むことが多い ですが、シャンペンとワインしか飲まないんです。もちろん飲むときは乗りません。愛車ですか?92年型の911カレラカブリオ レ。中古で350万ほどで買ったものです。
毎週2,3日はジムに行って鍛えています。体型を崩したくないし、健康維持のためにも。 土日はジムに行って、買い物に行くことが多いかな。ブルックス・ブラザーズやラルフローレン、プラダなどがお気に入りのブランドですね。
この頃、自分がかなり健康的な暮らしをしているので、今後はこれを雑誌にも生かそうと思っているんです。自転車などが車とうまく 共存していけばいいな。

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(2009年7月)

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