――この5月号から書店売りを開始されましたが、反響はいかがですか?

書店売りも始まった「和樂」
実は2年前から、全国の100店舗の書店でのみ販売をしていたのですが、本格的に参入するのは2009年5月号からです。
定期購読誌として創刊して8年が経ちますが、購入方法がわからないという声や、もっと気軽に買いたいという声が多数寄せられていたため、全国のより多くの読者に知っていただきたいとの思いで、本格的な書店販売に踏み切りました。表紙を女性(檀れいさん)+日本美術に変えて、内容も一部見直しをしているため、現在、世代や男女の差でさまざまな声が寄せられているところです。
表紙が女性になったためか“私は読者ではなかったのですね”という男性からの声もありましたが、弊誌は回読率が高いことも特徴で、性別に関係なく楽しめる記事も多いため、引き続き男性にも読んでいただければと思います。
――テイストも女性誌っぽくなりました。

編集部では評判の特集を壁に張っている
弊社の女性誌局は「Oggi」や「Domani」などキャリア女性誌を他社に先駆けて形にしてきましたが、「和樂」も当時ではいちばん年上の女性誌であっ た「Domani」の卒業生を意識して創刊しました。表紙も女性(1年目は草刈民代さん、2年目は天海祐希さん)で、当時の女性誌としての存在感を、今一度取り戻 したいと思案中です。ここ数年の読んで役立つ“教養”重視のつくりから、読者の”共感”に主軸を戻し、「見たい、買いたい、行きたい、だれかに伝えたい」と読者に感じてもらうために実用誌としての基本に立ち返り、読者と雑誌が打てば響く関係をつくることを目ざします。
想定読者は「家庭画報」「ミセス」「婦人画報」を愛読している女性たちですが、後発の雑誌は真似をしたら生き残れませんので、3誌に比較されない雑誌にすることが目標です。年齢は50代がボリュームゾーンで、すでに豊かな体験を多数 お持ちの目の肥えた女性が多い層。これまで「和樂」がつくりあげてきた奥行きの深い「和」の世界から本物だけを取り上げ、木村裕治さんの美しいアートディレクショ ンで現代の風を誌面に吹かせ、自立した感性の高い女性たちに、新鮮な和の世界を伝えていきたいです。
――「家庭画報」が編集者としてのスタートでしたね。
ええ、「家庭画報」が大好きで世界文化社を受け、幸運にもその編集部に配属とな り、最初はきものと和が担当の編集者としてスタートし、その後ファッションページ なども経験しました。
退社後はフリー編集者として働き、海外ブランドの広報や海外モード誌の日本版編集者を経験した後、小学館に中途入社したのが32歳の時です。当時では初めてだった働く女性を ターゲットにした雑誌「Oggi」の創刊に携わり、その後、Oggiのお姉さん版となる「Domani」を立ち上げ、「和樂」の創刊編集長となりました。
――なぜ「和」の世界に入っていったのでしょう。
キャリア女性誌時代には、読者の憧れは海外にあり、パリ、ニューヨーク、ミラノの企画を毎月のように取り上げていました。
「Domani」も創刊はニューヨーク、2号目はパリのキャリア女性特集でしたが、創刊から数年経ったある時、亡くなられたばかりの白洲正子さんを特集してみたのです。ファッション誌でしたので、白洲さんがお持ちだったブランド品を切り口につくりましたが、その企画が読者アンケートの1位になったんですね。それから意識して京都や着物や職人の手わざなど和の企画を入れてみたのですが、そのどれもが人気の上位に入ったんです。
海外都市の観光地やお店のことには詳しくても、日本のことは意外にも知らず、伊勢神宮に行ったことのない読者も多かった。でも、和のことをもっと知りたいという願望は、読者の反応でとても強く伝わってきました。和の世界というと年齢を重ねた後に訪れるようなイメージがありましたが、世代を問わずもっともっと日常的に楽しむ提案ができるはずだし、それは海外ブランドの記事と矛盾するどころか、とても新鮮に映るはず。そんな思いが「和樂」創刊につながっていきました。
――編集部はどんな構成ですか。

編集部員は全部で10人

ラフスケッチと入校台割
現在は社員6名、契約社員4名の計10人の編成です。同ジャンルの他の雑誌の半分の人数でつくっていますので、とにかく日々めまぐるしいです。
「和」の世界は一見さんお断りの世界が多く、知識があった方がより楽しめるため、編集者はそれぞれ得意ジャンルがある程度決まっていますが、記事は常に初めてその世界に接した方たちにも理解していただけるように心がけています。
企画は発売月号の大体5か月前に会議を行った後に決め、担当者が作った切り口の違うコンテ2案を叩き台としながら、全体のバランスを考えて各テーマの構成を定め、何度も打ち合わせを重ねて丁寧につくっています。5月号でNHKの人気番組「美の壷」のDVDを付けましたが、今後もお互いの読者拡大という相乗効果が計れるのであれば、他媒体との連動や新メディアを駆使した仕掛けは積極的に行っていきたいです。
でも、やはりこだわりたいのは紙媒体の特徴をこんな時代だからこそどこまで追及できるかです。高感度な表現やクオリティの高い写真、紙の質感や紙をめくる楽しみは雑誌ならではのもの。人生の後半生を迎えている女性読者に、豊かなもうひとつの選択肢を発見していただけるような、そんな雑誌をめざしたいです。
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1.考える人(新潮社)
雨の降っている休日にゆっくり読みたくなる雑誌。静かな佇まいが好きです。
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2.Discover Japan(エイ出版社)
丁寧な取材と新鮮な切り口とたっぷりの情報量で、日本を楽しませてくれます。
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3.haru_mi(扶桑社)
『Martha Stewart Living』より実用的で親しみやすい。一人の女性の雑誌に読者も広告もついているすごさ。
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4.文藝春秋SPECIAL(文藝春秋社)
文藝春秋社ならではの豪華な執筆人による全篇書き下ろしが魅力。紙が厚いのでバスタイムの友。
(2009年5月)