— 創刊50周年ですね。おめでとうございます。
ありがとうございます。記念の特集として、4月号(3月1日発売)と5月号(4月1日発売)に、DVDの付録がつきます。スーパーカーと「カーグラフィック」の50年をしっかり特集します。50年前に創刊号でメルセデス・ベンツ300SLを特集して以来、いろんなクルマを特集してきました。その歴史を見ていただこうと思います。
— 二玄社から独立されて、変わったことはありますか。
前面ガラス貼りのお洒落な編集部
アウディのエンジンがオブジェで置かれている
われわれの新しい会社は株式会社カーグラフィックです。この会社は「カーグラフィック」をつくるための会社で、その意味では非常にスリムな形になりました。社員が11人で、うち編集が私を入れて7人の体制です。非常に効率よく動ける組織になっていると思います。
— 雑誌のスタイルは変わりましたか。
雑誌のコンセプト自体は昔のままを堅持しています。一方で、読者の求めるものが多様化していますので、それに対応する内容も常に意識しています。
新型車の試乗と紹介を中心に、その先端技術や、経済面、デザイン面など、現在の自動車業界を構成するものを多角的に紹介しながら、モータースポーツ、ヒストリックカーなどにも目を向けています。
ここまで幅広くやっている総合誌って世界に類を見ないと思いますよ。海外に持って行って見せると、「何だこの雑誌は」と驚かれる(笑)。
— 歴史の長い雑誌の宿命か、読者の高齢化ということがあるかと思うのですが、若い読者を取り込む対策などはされてますか。
若い読者が少ないと言われることはあるのですが、実際、アンケートなどを見ていると若い人からのものが少なくないし、中には小学生からのものもあったり(笑)。
われわれは、そういった新しい読者に対して「他誌より詳しく」をモットーにしています。ひとつの特集に集中して、ページもしっかり割いて、深く読めるものにします。そういった差異化が、「カーグラフィック」読者には受けていて、他では読めない詳しい記事を読みたい人はこの雑誌を見てくれるというわけです。
— 読者の平均年齢ってどれくらいですか。
最多層は50代の男性でしょうか。所得も高い人が多いです。家庭に複数のクルマを所有している人が7割いるというデータがあります。
— 若い人たちのクルマ離れは気になりませんか。
そうですね、若い人たちはあまりクルマに乗りませんね。折にふれてわれわれはメッセージをコラムなどで出してはいるんですが。でも、クルマ好きにはクルマ離れって実際は関係なくって、好きな人はいっぱいいますからね。
ですから、好きな人、分かる人が読んでくれたらいいと思っているんです。そういった人たちを満足させることがわれわれの仕事だと思います。クルマを楽しんでいる人が増えれば、若い人たちも影響を受けるはずですから。
— タイアップのようなことはやらないんですか。
打ち合わせをするスタッフの皆さん
編集者が運転するクルマのキー
基本的にタイアップはやりません。というより、われわれがハンドルを握って、その感想を書くものについては、一切タイアップの要素はありません。
メーカーさんからは、純広という形でお付き合いを願っています。
ただ、実際のところ、最近のクルマには弱点を指摘できないくらい、品質が高くて、乗り心地と運動性が高いものも多いですね。
— 編集部が原稿を書くというスタイルですか。
そうです。かなりの部分を社内でつくっています。
ロードインプレッションの評価を、自動車評論家に書いてもらうというのは、この雑誌にはそぐわない。読者にとっても、「カーグラフィック」は他の雑誌とは違うというところで評価をいただいてるわけですから。
— 読者からの声で多いのはどんなことですか。
特集でしっかりページを割いて詳しくやってるところがいいという評価と、ビジュアルが充実していて品質がいいとの評価、ですね。あと歴史ものにページを割いて欲しいという要望も多いです。
2010年7月号から編集体制を変更して以来、特集主義がより明確になっていると思います。
まあ、情報のスピード・量では、ネットに敵わないわけですから、われわれは「誰でも手に入る情報」ではなく、質の高いオリジナル記事で勝負だと思っています。
— 田中さんはこの雑誌をどのくらい編集されているのですか。
ゆったりとした編集長デスク
かれこれ13年になります。私は工学部の出で、最初はエンジニアになろうと思っていたのですが、自動車会社に就職するとそこのクルマだけになってしまうじゃないですか。私は学生時代からクルマが大好きで何台も乗り回していましたから、いろんなクルマに接することができる職業をということで、二玄社に就職したんです。
編集スタッフはテスト車に乗れるし、長期テスト用に会社が購入してくれたクルマで通勤していました。試乗をするときは、広くバランスよく乗るようにして、一方で「ポルシェなら彼」というように各自が自分が強い領域を深めていくことが理想ですね。
残念なのは、飲酒運転するわけにはいかないので、飲み会が少なくなったような気がしますね(笑)。でも、まあ、われわれの取材は泊まりが多いので、仕事を終えて宿屋で一杯、といったケースがいまは多いかな。
— 「カーグラフィック」は自動車雑誌の王者というか、50年の歴史と伝統に裏づけされたブランド価値があるので、いろんな展開が考えられますね。
そうですね。まだまだこれからですが、オリジナルグッズの制作・販売をしています。クルマのメーカー以外のスポンサーにも興味をもってもらえるので、カメラメーカー、ハイファッションなどもうまく取り込めるようにと思って営業を強化しています。
5月号ではクルマ以外のこだわりを紹介するブック・イン・ブックを付録します。
— CGクラブとはどういう組織ですか。
「カーグラフィック」愛読者の集まりで、基本は自主運営ですが、最近になって、弊社がより主体的にコミットするようになってきています。やはりここに集まる方はみなさん「カーグラフィック」の超ロイヤルユーザーなので、その人たちにもっといろいろ還元できるように体制作りをしているところなんです。
— 田中さんは普段どういうライフスタイルなんですか。
本棚には洋書がぎっしり
最近、生活リズムを変えて朝方にしたら、痩せたんですよ(笑)。3ヶ月で16キロも痩せて、どうしたんだと言われました。食事と運動でダイエットしたんですが、人には社長が厳しくて、と言ってます(笑)。
むかしは編集部が夜型だったんですが、いまは社長が朝早い人なので、編集部もだんだん朝型になってきています。私自身はだいたい10時頃来て9時頃帰るパターンですね。
海外出張が多いんですよ。月に1度は1週間くらい出てますから、土日が休めなかったりもします。でも、趣味が旅と酒とランニングなので、いまのこの生活には満足しています。
クルマを走らせることは楽しいけど、シメキリに追われて原稿を書くのは厳しい(笑)。そんな生活ですね。
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1.文藝春秋(文藝春秋)
自分の父親が読んでいるから。
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2.週刊新潮(新潮社)
出張で読む。飛行機内の友です。
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3.ナンバー(文藝春秋)
古くからの読者です。
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4.GetNavi(学研マーケティング)
ガジェットもろもろチェックするとき読みます。
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5.世界の腕時計(ワールドフォトプレス)
趣味と実益を兼ねて買います。
(2012年1月)
- ガラス張りのお洒落なオフィスにお邪魔しました。編集部というより、デザイン・オフィスといった感じです。応接間にはアウディのエンジンがドンと置かれ、ゆったりとした場所で、みなさんそれぞれ楽しそうに仕事をされています。
めいめいがクルマでこんな素敵な職場に通勤するライフスタイルは、普通の編集部ではちょっと見られない光景で、羨ましくもなりました。
編集部も、そのつくる内容で、職場環境がここまで違うんだなということに改めて驚いたわけです。まあ、あたりまえのことなのですがね。
インタビュアー:小西克博
大学卒業後に渡欧し編集と広告を学ぶ。共同通信社を経て中央公論社で「GQ」日本版の創刊に参画。 「リクウ」、「カイラス」創刊編集長などを歴任し、富士山マガジンサービス顧問・編集長。著書に「遊覧の極地」など。