Veggy(ベジィ)の編集長インタビュー

編集長プロフィール

キラジェンヌ
「ベジィ・ステディ・ゴー!」編集長 吉良さおりさん

きらさおり 1974年、大分県生まれ。イギリス、フランスへ留学し、帰国後はフリーライター、翻訳の仕事に携わる。結婚と同時に雑誌「ベジィ・ステディ・ゴー!」を創刊し、出版社「キラジェンヌ株式会社」を立ち上げ、現在に至る。クシマクロビオティックレベル1終了。フランスにてシヴァナンダヨガTTC終了。

編集長写真

第26回 ベジィ・ステディ・ゴー! 編集長 吉良さおりさん

ベジタリアンの基本Love & Peaceの精神でポジティブにいきます

―東京ベジフードフェスタに行ってきました。盛況でしたね。

2009年のべジフードフェスタでもポスターが大活躍
2009年のべジフードフェスタでもポスターが大活躍

私どももブースを出しましたが、お客さんは去年の倍の規模に成長してますね。こういうムーブメントってこれからますます大きくなっていくと思うんです。
やはり、食の安全についてこれだけ騒がれたり、流行の部分ではLOHASなどの影響もあるんだと思います。エコへの関心の高さもこの手のイベントには影響が大ですね。若い人たちの関心の高さが現状を物語っていると思います。

―私はベジタリアンではありませんが、菜食で過ごした経験はあります。そのとき確かに身体が綺麗になった気がするし、何より感度が高くなった覚えがあります。

確かにそうですね。アーティストや知的な仕事に従事されている方にベジタリアンが多いというのも、うなずけます。私の経験からいってもベジタリアンになって悪いことはひとつもないというか(笑)。
だからといってベジタリアンになれと強制するつもりはありません。みんながそれぞれに自分で考え行動していくなかでベジタリアンという道もあって、それはまた充分に自分にとっても社会にとっても役立つんだよ、と言いたいだけなんです。

―社会にとっても有益ですか。

ベジタリアンになると食にこだわりますから、よく食をチェックするようになります。そしてちゃんと考えて消費して余分なゴミを出さない方向へ向かいます。大げさかもしれませんが、物事を地球規模で考えることができるんです。
それが正しく行われれば、富が一部に集中することなく、まずしい人たちにもちゃんとモノが循環する社会になるのではないかと思っているんです。
楽観的だといわれるかもしれませんが、基本は「Love & Peace」の精神で、食生活と平和とが結びついているんです。 それを阻害というか見えなくしているのはマスコミの悪い部分。スポンサー企業に気を遣って真実を報道しないでいる場合も多いですよね。

―清濁併せ呑まないと人間としての幅が出ないとも言いますが。

いまは世の中が行くところまで行っちゃった感じがあって、物欲の限界をみんな知ってしまったと思うんです。だからモノよりもココロの豊かさのほうに重きを置くほうが幸せになれると気づいたんです。菜食生活をしているとそんな単純なことに気づかされるんです。
それは、世の中には清濁ありますから、綺麗ごとで単純にすまないことは多いと思います。
でもできる範囲でいいんです。その人のできる範囲で負担やストレスにならない程度で気持ちをシフトする。それだけで、少しずつ変わることってあると思うんです。その気持ちを持ちたい、分かちあいたいということが私のメッセージなんですね。

―吉良さんはどういう経緯でこの雑誌を出すようになったのですか。

本棚には洋書資料がいっぱいだ
本棚には洋書資料がいっぱいだ

私、もともと肉が苦手だったんです。それがイギリスに留学中に、そこは画家のおばあちゃんの家にお世話になったのですが、このひともベジタリアンで、非常に精神的に豊かな暮らしをしていたんです。これで私のベジタリアン人生は決定したんです(笑)。
それからフランスに留学したんですが、 最初、食事が変わると肌がひどく荒れ始めたんですね。たぶん乳製品の影響だと思うんですが。
それでマクロビオティックを扱う「ラルクアンシエル」という店を紹介されて、有機の野菜をとりはじめたらすっかり肌が治ったという経験があります。そこでやはり私にはベジタリアンがあっていると確信したんです。
日本に帰って翻訳やライターをしながらヨガを実践し、ベジタリアン・ライフの良さを人に説明する生活をしていました。結婚した夫がたまたま出版関係で、そんな私のやりたいことを理解してくれて、どうせならちゃんとやりなさいと私のメッセージの具現化への協力をしてくれたんです。
しっかり届くメッセージを出したかったので、フリーペーパーじゃなく、きっちりした雑誌にしようということで、こんな形になりました。
雑誌のタイトルである「Veggy Steady Go!」、ロンドンにいたころ「Timeout」にベジタリアンのレストランとかを紹介する同名のコーナーがあって、私はいつもそれを見ていたんです。いつか自分が雑誌をつくれたらこのタイトルにしたいなってずっと思ってたんですよ。

―雑誌は不況産業ですが(笑)

ええ。でも、このテーマは絶対将来性があると思ったから立ち上げることにしました。 幸い協力してくれる人たちもいましたので。2008年6月に単行本扱いで創刊して09年1月には雑誌コードが取得できました。この辺は業界を知らないから変な先入観なしにやれて意外とうまくいったのかもしれません。
でも、私がいま立ち上がらなきゃ、といった気持ちは何より強かったです。私が立ってメッセージを出したら、同じような雑誌もできてくると思いましたが、残念ながら競合誌はまだ現れていません(笑)

―新しくものを生み出す人というのは形はどうあれ同じようなことをすると思いますよ。編集部はどんな構成ですか。

編集部の男性2人もヴェジタリアンだ
編集部の男性2人もヴェジタリアンだ

編集は私を入れて5人。広告・セールスが2人。うち男性が2人いますが、2人ともベジタリアン、流行の草食系です(笑)。 でも、草食系のほうが、動物をみてもそうなんですが、しっかりしているし体力もあるんです。肉食系は瞬発力はあるのですが、持続しない。 だからスポーツ選手のなかにも意外とベジタリアンって多いんですよ。
ベジタリアンではないスタッフもいますが、彼らもできる限りそういった生活を送ろうとしているようです。仕事の効率も上がるし。
私は子どもが小さいので、あまり遅くまで働けないし、校了だからといって徹夜したりはできないので、集中して効率よく仕事のスピードをあげるように常に心がけています。ですからうちの編集部も効率重視で、あまり遅くまで残って仕事をしてはいないですね。
編集会議は月曜にやってみんなで案出しをします。私は自分が案を出すというよりなるべく他人の声を聞くようにしています。トイレに案出し表が貼ってあったりするんですよ(笑)。

―ストイックに見えます。

ええ、そうかもしれませんが、そのほうが気持ちも効率もよいのであればそれでいいですよね。 でも、ストイックさを強要してはいけないんです。それがその人にとって負担になるようじゃ本末転倒ですよね。
雑誌のつくりもそうですが、なるべく間口を広げて、いろんな人に興味をもってもらえるように、やさしいベジィライフをめざすような感じでつくっているつもりです。
誰しも健康で美しくハッピーでありたいわけですよね。そのためには何が一番いいんだろうか。そこを考えていくとベジタリアンというのはひとつの有効な答えです。私はベジタリアンになって気持ちがポジティブになったと思っています。だからとくに女性には勧めていますが。
でも、会社勤めしている男性なんかは実行が難しい。そこは奥さんがうまくヘルプしてあげてほしい。おいしいベジィ弁当をつくってあげて、なるべく外食で余分なものを食べなくていいようにしてあげれば、夫婦関係もよくなるんじゃないかしら(笑)。
もちろん、付き合いや接待やでお酒を飲んだりいろいろあるのでしょうが、それを否定していたら何もできません。なるべくそれらが少なくて済むようにサポートしてあげれれば、夫婦はずっと健康でいい関係でいられるのではと思うんです。

―草食系という場合、これは男子の沽券にかかわるのか、ばかにする風潮がありますね。肉を食べないようじゃ弱々しいイメージがある。セックスへの不安もある。

実際、男子の精子の質が劣化しているとよく聞きますね。でもこれは肉や魚を食べる影響のほうが大きいと思います。動物は殺されるときにストレスホルモンを出しますし、いわゆる環境ホルモンの影響も大きいですよね。海が汚染されているので魚も危険な要素が多々ある。
これらから身を守るには、やはりできるだけナチュラルなものを摂取し、自然に沿った生活をしなければ、人間が根本的なところから壊れてしまうのではないでしょうか。

―お父様が九州でスローライフをおくっておられるとか。

はい。故郷が大分なのですが、そこで父は自分で農業をしています。もともと会社を経営していたのですが、私の影響もあってか(笑)、無農薬栽培や自然農法を実践し、いまは一生懸命土いじりに勤しんでいるようです。
でも土に触れるというのは自然に触れるということで、とても大切なことですね。自分自身が浄化される感じ。子供が最初やる遊びのひとつに砂遊びってありますよね、あの気持ちですよ。自然の一部と接していると落ち着くし、楽しいし、健康的だし。
だから、都会に暮らす人たちも、マンションのベランダでちょっとしたものを植えるだけでいいから、まずやってみることをお勧めします。こころが落ち着くし、作物を育てることの素晴らしさから学ぶことってたくさんあると思うんですよね。

隔月間になり表紙も充実
隔月間になり表紙も充実
手書きの予定表などが壁にぎっしり
手書きの予定表などが壁にぎっしり

―今後の方針などを聞かせてください。

ベジタリアンのライフスタイルに付随することを雑誌以外でも積極的にやっていきたいです。webや携帯対応もしかりです。ラジオ出演の話もきていて、これを映像で撮ってネットで配信していくらしいです。私は社会との関わりに興味があるので、いろんな場で自分のメッセージを発信していきたいと思っています。また、共感できる人たちが集まれるようにしたいし、そんな人たちとの接点をさまざまに持てるようにしていきたいです。
また、雑誌では環境に優しいサステナブルなものをちゃんと紹介していきます。メッセージがラブ&ピースといったものも同様です。
広告をいただいたりすると、やはりその企業の批判ができなくなったりします。マスコミはそのために批判精神を失ってしまいました。この雑誌はマスではありませんので、そのへんの大企業への気遣いは必要ありません。読者に裏のない真実をちゃんと伝えたいと願っているし、またそれに同調してくれるクライアントがスポンサーになってくれるとありがたいですね。

編集長の愛読誌

(2009年10月)

取材後記
ベジタリアンの美人編集長に会いませんか、と誘われたのはいいけれど、「音楽家ロッシーニのように陽気に、作家谷崎潤一郎のように貪欲に食らう」をモットーとする肉食痛飲系の私としては、そのての健全な生活などおよそ考えられない。さあ大いに飲んで大いに食べましょう。マンジャーレ、カンターレ、アモーレ。食にはエロスがなければなりませぬ・・・と。そんなことばかり言ってるから、時代に逆行するバブル時代の生き残りのおやじと言われ、最近とっても肩身が狭いわけですが。
ただ、食べ物が人をつくるというのはそのとおりですね。肉も魚も野菜も、水でさえ危険な近頃ですから、なるべく不自然なものはからだに入れないことが大切です。なかでも吉良さんのようにちゃんとした考えのもとで、自分の生活、自分のリズムに合わせて食生活を改善していく、ということはいまとても重要視されていることです。その生活改善に菜食というのが効果的だという話もよく聞きますね。
かくいう私も実は禅寺で1週間、接心という修行をしたことがあるのです。野菜だけの精進料理と水で1週間暮らしてみると、からだが本当に軽くなり脳が冴えて、いろんないいヴィジョンが現れてきた記憶があります。その影響か、いまでも年に1度、2週間~3週間ほどの禁酒・精進食期間を設けています。エンジンオイルを入れ替えるクルマのように。でも、これが気持ちいいのです。だから、ベジタリアンの気分、気持ちのよさは体験的に知っているんですよ。
「ベジタリアンに悪いところはひとつもない、でも強要はしたくない。その人にあったかたちで上手に」と吉良さんは語ります。
その屈託のない美しい笑顔の前で、男子の沽券に関わるような質問をあえてしなきゃならないのも・・・因果な商売だなと思いました。

インタビュアー:小西克博

大学卒業後に渡欧し編集と広告を学ぶ。共同通信社を経て中央公論社で「GQ」日本版の創刊に参画。 「リクウ」、「カイラス」創刊編集長などを歴任し、富士山マガジンサービス顧問・編集長。著書に「遊覧の極地」など。

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