――中高年のオフタイムをテーマにした雑誌は多いですが、貴誌の立ち位置はどんなところにあるのでしょう?
同じようなテイストの雑誌は多いように思いますが、あまり競合とかの意識をしたことはありませんね。 この「一個人」は2000年4月の創刊なので、そろそろ10周年を迎えるのですが、この手のいわゆる中高年の趣味雑誌は、当時「サライ」(小学館)くらいしかなかったと思います。
われわれも「サライ」をひとつの目標として、そのマーケットに新しい世界を切り開いていこうとしたのです。 個人個人のプライベートな時間をどう充実していくか。これは成熟した世代には欠かせないテーマですからね。 結果は、まあまあ及第点です。幅広い読者の獲得に成功し、安定した部数を保ってきていると思います。
――やはり男性読者が中心なのでしょうか?
「一個人」からうまれた書籍の数々
いえ、それが、女性読者も多いのです。特集によって増減はありますが、40%が女性読者ということもありました。 年齢も、たとえば「落語」を特集すると50~60代の読者、ワインなら30代の読者といったふうに、大きな差が出ます。
最初から扱うテーマは趣味、食、旅が多かったですね。でも、専門誌とは違うので、それを初心者にもわかるような間口の広いつくりにして、同時に専門家が見てもおもしろいと思えるほどの深い内容も織り込んでいます。 だから一冊になるまでに、時間がかかるんですよ。通常、半年くらいかけて一冊つくっていきます。編集者もみな専門家ではありませんので、浅く広く理解しながら進めていきますから。
――編集長が毎回の特集テーマを決めるんですか?
そうです。うちは基本的には、みんなから企画を集めて特集にするということはしていません。編集長の独断です。
独断といっても、私も専門家ではないので、特集テーマに応じて、専門誌の編集者や評論家などに教えを請います。音楽なら音楽、食なら食、といった具合に、さまざまな専門の編集者、スタッフに会い、企画の方向性から相談し、取材先や著者を紹介してもらったりしています。そうでないと、なかなかこれだけ広範なテーマを扱いきれないのです。
それと、実用的に落とし込んでいるので、読者に親切ですね。どうすればその世界に入れるのか、やさしく解説しています。また商品や店情報などもカタログ的になるべく多くの情報を入れるようにしています。
――特集などでは編集長の個人的な趣味が生かされる場合が多いのでしょうか?
鉄道の旅が多い編集部では、時刻表が欠かせない
ワイン企画などはそうですね。私はソムリエの資格をとってしまうほどワイン好きですから。
でもすべてそういうわけにはいきません。むしろ新しい世界に挑戦していくことのほうが多いかもしれません。毎回創刊号をつくっているみたいですよ。 だから大変です。でもやりがいはありますよ。毎回売れ行きも違いますし、やるたびに蓄積されるものもありますので。
売れ行きのいい特集ですか? そうですね、鉄道系はわりとかたいですね。年1回は特集していると思います。ファンが安定しているし、季節などに応じていろんな切り口がありますからね。
――雑誌作りで気をつけておられることは何でしょう?
時代の流れを考えるということでしょうか。
いま、どういう時代なのか。 たとえば、最近では不況ということが深刻な問題です。われわれも雑誌が売れなくなると困るので真剣に考えます。一般読者はみな内向きになっている。では、自宅で楽しめるものは何か・・・と考えて去年の秋に男の料理特集をやってみた。すると売れたんですね。ちょうど「居酒屋おつまみ」(レタスクラブMOOK)という本も売れていたので、相乗効果もあったのでしょう。
――編集長のライフスタイルを教えてください。
いやぁ、私は仕事人間で、別にこれといって語れるようなライフスタイルはありません。
だいたい11時には寝て6時に起きる生活で、当然ですが人と会うことも多く、酒席も多いです。休日にゴルフなどもやっていたのですが、五十肩以降ダメです(笑)。 土、日も休めない場合が多いので、まあ あえていえば、ワインをゆっくり飲むのが楽しみでしょうか。
――編集部の構成はどうなっていますか?
編集部は6人構成。新しいビルの中にあり、とても静かだ
一個人の女性版「MELLOW」編集部も隣に
編集部は私をふくめ6人いて、男性が4人、女性が2人。20代から私のような50代までいます。
企画会議といったようなものはやらないのですが、広告タイアップ企画については、広告部主導と編集部主導の側面から考え、会議をしながら進めています。広告が厳しいから、編集者もどのくらいタイアップがとれたかグラフにしてるんですよ(笑)。
それと、自社サイトで、バナー広告と通販事業で収益増を考えているのですが、これはまだまだこれからです。年内にもっと充実させて、携帯へのコンテンツ展開も積極的にやっていきたいと思っています。
――これからの「一個人」がめざす方向を教えてください。
一人一人の生き方こそが主役である、といった「一個人」創刊当初の志を引き継ぎながら、その時代にあったテーマを、わかりやすく実用的に解説、提供していきたいですね。そして常にチャレンジ精神を持って進みたいです。
実は、新雑誌を発行します。「一個人」の女性版として出す「MELLOW」という女性誌です。「一個人」で扱ってきた世界を今度は女性視点から捉え直してみるとどんなものができあがるだろうか、といまから楽しみにしています。編集も動いているし、媒体資料も作っています。旅とカルチャーを中心に、他とは一味違う個性的な女性誌を成功させたいと意気込んでいます。
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1.ワイン王国(ワイン王国)
ワインが好きなので買ってしまう。特集テーマがいい。
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2.ダ・ヴィンチ(メディアファクトリー)
作家や作品の情報が豊富で、企画を立てる際の参考になる。
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3.BRUTUS(マガジンハウス)
毎回特集が幅広く新鮮。見習いたいところも多い。
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4.週刊東洋経済(東洋経済新報社)
世の中の流れに沿ったニーズの捉え方がうまい。
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5.AERA(朝日新聞出版)
小さな記事の扱いがうまい。つい読まされてしまう。
(2009年6月)