消化器内科 発売日・バックナンバー

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特集●「胃炎の京都分類」と胃癌のスペクトラム
企画編集/鎌田智有(川崎医科大学健康管理学 教授/川崎医科大学総合医療センター 総合健診センター長)

<特集にあたって>

 本特集号のタイトルは“「胃炎の京都分類」と胃癌のスペクトラム”とさせていただきました.Helicobacter pylori(ピロリ菌)感染状態(未感染・現感染・既感染)により,発生する胃癌の臨床病理学的特徴が異なることがこれまでに報告されています.近年の,ピロリ菌感染率の低下および除菌治療の普及に伴い,現在はピロリ菌陰性時代とも言われています.よって,現感染粘膜から発生する胃癌のみならず,増加傾向にある除菌後粘膜から発生する胃癌も含め,内視鏡所見からみたそのリスクを熟知しておく必要があります.そこで「胃炎の京都分類」がそのバイブルになればと考えたことから,本特集号を作成させていただきました.
 ピロリ菌感染と胃癌との関連については古くから疫学的研究に始まり,スナネズミなどを用いた実験動物における胃癌の発生,ヒトにおけるピロリ菌感染群からの胃癌発生の前向き研究および除菌介入試験による胃癌発生の予防効果などの,多くの研究結果が報告されています.なかでも,本誌編集顧問の上村直実先生が2001年にThe New England Journal of Medicine誌に発表された前向き研究論文が,これ以降のピロリ菌感染と胃癌研究に大きなインパクトを与えたことは明白です.
 本号にご執筆をいただきました春間 賢先生監修のもと,2014年に発表された「胃炎の京都分類」は,ピロリ菌感染を未感染,現感染および既感染(除菌後を含む)に分類し,内視鏡診療にて経験する主な所見を総合的に考慮し,胃癌の発生リスクを評価する分類です.春間先生には「胃炎の京都分類」の作成までの経緯とこれからについて,多方面からご執筆いただきました.現在,「胃炎の京都分類」は大学病院,基幹病院やクリニック等における内視鏡診療のみならず,2016年度から全国の自治体で普及しつつある胃内視鏡検診の場においても広く用いられています.ご執筆の先生方にはそれぞれの立場からこの「胃炎の京都分類」を実際どのように運用・活用しているのか,その内視鏡診療の現況について読者の方々にも理解していただけるように取り上げてみました.
 現感染胃癌のリスクとして考えられる内視鏡所見は,分化型として萎縮性胃炎,腸上皮化生,黄色腫,そして未分化型として鳥肌胃炎および過形成性胃炎が挙げられています.総論として杉本光繁先生と豊島 治先生にはそれぞれ大学病院,内視鏡クリニックの立場から胃癌リスク評価などについて,各論として増山仁徳先生には萎縮性胃炎,川村昌司先生には腸上皮化生,北村晋志先生には黄色腫と分化型胃癌リスクについてご担当をいただき,最新知見も含めてわかりやくご解説をいただきました.西川 泉先生には鳥肌胃炎,渡邉実香先生には過形成性胃炎と未分化型胃癌リスクについて,自験データも交えてご解説をいただきました.現在,特に学会などにもよく取り上げられている除菌後胃癌のリスクについては平田喜裕先生と森畠康策先生にご解説いただきました.
 近年,内視鏡検査または胃がんリスク層別化検査を契機に増加傾向にある自己免疫性胃炎については,その胃癌リスクとこれに合併する胃癌の特徴などを原 裕一先生に多数例のご経験からご解説いただきました.最後に,近年では人工知能(AI)を用いた胃炎・胃癌診断の有用性が報告されており,その最新知見については並河 健先生にご解説いただきました.
 本特集号は,このように「胃炎の京都分類」からみた胃癌リスクを凝縮した1冊になります.公衆衛生学的な危機の直面にある現在ですが,多忙な実地医療の場においても「胃炎の京都分類」を是非ともご評価していただきたいと思います.

鎌田智有
川崎医科大学健康管理学 教授/川崎医科大学総合医療センター 総合健診センター長


<目次>

1. 「胃炎の京都分類」作成の経緯とこれから/春間 賢
2-1. 「胃炎の京都分類」による胃癌リスク評価とその有用性―大学病院の立場から―/杉本光繁,永田尚義,岩田英里,河合 隆
2-2. 「胃炎の京都分類」による胃癌リスク評価とその有用性―内視鏡クリニックの立場から―/豊島 治,西澤俊宏,吉田俊太郎,鈴木秀和
3. 胃粘膜萎縮と胃癌リスクは正の相関関係にある.早期十二指腸癌の背景胃粘膜萎縮は?/増山仁徳,郷田憲一,中村哲也,富永圭一,倉科憲太郎,砂田圭二郞,増山胃腸科クリニック
4. 腸上皮化生と胃癌リスク/川村昌司
5. 黄色腫と胃癌リスク/北村晋志
6. 鳥肌胃炎と胃癌リスク/西川 泉,寺杣智志,玉置秀彦,松谷泰好,深海三恵,東 克彦
7. 皺襞腫大型胃炎と胃癌リスク/渡邉実香,前北隆雄,一瀬雅夫,北野雅之
8-1. 除菌後胃癌のリスク因子―萎縮・腸上皮化生―/平田喜裕
8-2. 除菌後胃癌のリスク―地図状発赤―/森畠康策
9. 自己免疫性胃炎と胃癌リスク,合併胃癌の臨床病理学的特徴/原 裕一,蔵原晃一,大城由美,池上幸治
10. 胃癌診断における人工知能(AI)の有用性/並河 健,平澤俊明
4,400円
特集●C型肝疾患の今後の課題 ―肝炎,肝硬変,肝癌―
企画編集/榎本信幸(山梨大学医学部 内科学講座第一教室 教授)

<特集にあたって>

 抗ウイルス薬の劇的な進歩により,C型肝炎ウイルスの排除は適切な診断と治療を行えば高率に可能になった.しかしながら依然としてC型肝炎ウイルスに関連した肝硬変,肝癌で重篤な状態となる患者は後を絶たない.この原因は,未診断・未治療の感染者の存在,ウイルス排除後の肝硬変,肝癌の持続・悪化,さらにはそこに脂肪肝炎など新たな病態が加わることによる.したがって,C型肝炎ウイルス感染に起因するこれらの肝疾患,「C型肝疾患」を制御するためには,肝臓病の医学・医療全般にわたる総合的な知識と実践が不可欠となっている.
 本特集では,基礎から臨床そして社会的対応に至るまで,幅広い角度からトップクラスの専門家にこれらの問題を解説していただいた.
 まず,C型肝炎のウイルス学と病態,C型肝疾患の疫学,C型肝炎の診断と標準治療について最新の知見をご提示いただいた.次に,Special Populationの治療,小児のC型肝炎治療,DAA耐性変異,C型肝硬変の治療,SVR後門脈圧亢進症などの特殊病態について解説いただいた.さらに,今後の課題であるC型肝疾患の免疫病態,C型肝癌とDAA治療,C型肝疾患とMAFLDについてまとめ,最後にC型肝疾患の行政対策を概説いただいた.
 本特集が,C型肝疾患の根絶にいささかなりとも役立てば幸いである.

榎本信幸
山梨大学医学部 第一内科 教授


<目次>

1. C型肝炎のウイルス学と病態/青柳東代,村松正道,脇田隆字,相崎英樹
2. C型肝疾患の疫学/田中純子,秋田智之
3. C型肝炎の診断と標準治療/朝比奈靖浩
4. Special Populationの治療/須田剛生,坂本直哉
5. 小児のC型肝炎治療/田尻 仁,別所一彦
6. DAA耐性変異/黒崎雅之,板倉 潤,泉 並木
7. C型非代償性肝硬変の治療/竹原徹郎
8. SVR後に門脈圧亢進症は改善するのか?/持田 智
9. C型肝疾患の免疫病態/平松活志,中本安成
10. C型肝癌とDAA治療/豊田秀徳
11. C型肝疾患とMAFLD/鈴木雄一朗,榎本信幸
12. C型肝疾患の行政対策/瀬戸山博子,考藤達哉
4,400円
特集●Barrett食道・Barrett腺癌の病態と臨床
企画編集/飯島克則(秋田大学大学院医学系研究科 消化器内科・神経内科学講座 教授)

<特集にあたって>

 Barrett腺癌は,欧米では1960~1970年代に急速に増加し,その前癌状態としてのBarrett食道とともに広く注目されてきた.Barrett食道は,胃酸,胆汁酸など食道内逆流によって繰り返し生じる食道粘膜傷害(びらん性逆流性食道炎)からの治癒過程で形成されると考えられている.
 日本では,従来,食道腺癌の発生は極めてまれであった.しかし,1990年ごろから逆流性食道炎の増加が指摘され,そして,最近の研究では,2010年ごろから日本においてもBarrett腺癌の着実な増加が始まったことが相次いで報告されている.今後,欧米でみられたように,日本においてもBarrett腺癌はさらに増加していくことが予想される.そうした状況で,今回の企画では,Barrett食道,Barrett腺癌の病態と臨床に関するトピックスを紹介する.
 Barrett食道,腺癌増加の世界的な背景として,Helicobacter pylori(ピロリ菌)感染率の低下,肥満の増加が考えられており,また,この病態には性差が存在し,圧倒的に男性優位である.そこで,本企画では,まず,Barrett食道発生機序に関する最新のトピックス,Barrett食道・腺癌の病態,および,世界的な増加の背景について概説する.
 次に,Barrett食道の診療上の問題点として,この定義が組織学的腸上皮化生の確認の必要性,Barrettの長さに関する規定,食道・胃接合部の取り決めに関して,世界的に統一されていないことがある.この現状を踏まえ,本企画ではBarrett食道診断の国際比較と日本での定義,それらの問題点,発癌率の比較について概説する.
 最後に,実際のBarrett腺癌診断,治療に関して,通常内視鏡検査によるBarrett食道からの早期Barrett腺癌拾い上げのポイント,早期癌発見後の精密検査としての拡大内視鏡検査のポイント,内視鏡的治療の現状と成績について概説する.さらに,Barrett食道に対する化学発癌予防の現況についても概説する.
 胃癌の多い日本においては,現在,胃癌の早期発見を目指して,2年に1回の胃の内視鏡検診が50歳以上の全国民を対象に行われており,それはBarrett腺癌の早期診断にも役立っている.そうした状況では,あえてBarrett腺癌の早期発見を目指したBarrett食道患者に対する定期的な内視鏡検査の必要性,その方法(検査間隔など)について論じる必要がない.しかし,今後10~20年では,日本の胃癌は急激に減少することが予測されており,胃癌に対する内視鏡検診自体の必要性が議論されるころまでには,日本のBarrett食道に対するしっかりとした対応策を決めていく必要がある.今回の企画を通して,日本におけるBarrett食道,腺癌に対する理解,研究がさらに盛り上がることを期待したい.

飯島克則
秋田大学大学院医学系研究科 消化器内科・神経内科学講座 教授


<目次>

1. わが国におけるBarrett食道・Barrett腺癌の動向/小泉重仁
2. Barrett食道の成因/高橋 壮,飯島克則
3. Barrett食道・Barrett腺癌の性差/淺沼清孝,正宗 淳
4. Barrett食道・Barrett腺癌とピロリ菌感染/阿部靖彦,佐々木 悠,八木 周,水本尚子,上野義之
5. Barrett食道・Barrett腺癌と肥満/松橋信行
6. Barrett食道診断基準の国際比較/石村典久
7. Barrett食道の内視鏡診断/天野祐二,岩城智之,勝山泰志,原田英明
8. Barrett食道の発癌リスクとサーベイランス/小池智幸,齊藤真弘,正宗 淳
9. 早期Barrett腺癌(表在型)拾い上げのポイント/藤崎順子,山﨑 明,池之山洋平,十倉淳紀,並河 健
10. Barrett食道表在腺癌の拡大内視鏡観察のポイント/郷田憲一,金森 瑛,河内 洋,石田和之,入澤篤志
11. Barrett腺癌の内視鏡的治療と治療成績/櫻井裕久,石原 立
12. Barrett食道の化学発癌予防/栗林志行,田中寛人,保坂浩子,浦岡俊夫
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特集●食道胃接合部癌の診断と治療
企画編集/瀬戸泰之(東京大学医学部附属病院 病院長)

<特集にあたって>

 食道胃接合部癌,特に腺癌が世界的に増加していると推測されているが,その診断や治療については,いまだ議論が多いところである.そもそも食道胃接合部とは,解剖学的には,粘膜が扁平上皮から円柱上皮に変わるところであり,また環境も胸部(陰圧)から腹部(陽圧)と大きく変わる部位に位置しており,その意義からして興味深いところである.おそらくは,胃酸逆流を防ぐような生物学的にも重要な意味がある部位と考えている.
 日本では,西分類にもとづき食道胃接合部の上下2cm以内を食道胃接合部領域とし,その領域に中心をもつ癌腫を食道胃接合部癌と呼んでいる.しかしながら,名称が食道胃接合部癌としてまとまったのは比較的最近のことである.癌取扱い規約において,食道癌取扱い規約第2版(1972)では「食道噴門接合部癌」,胃癌取扱い規約第12版(1993)では「食道胃境界部領域癌」と呼称されていた.「食道胃接合部癌」となったのは,食道癌取扱い規約では第5版(1976),胃癌取扱い規約では第14版(2010)である.ことさら,食道癌でもなく,胃癌でもなく呼称しようとしたのは,この領域に発生した癌が独特の生物学的特性を有するのではないか,とすれば独立した疾患単位として考えるべきではないかとの議論があったからである.ちなみに,胃癌取扱い規約第13版(1999)では,種々の検討を重ねた結果,「噴門部領域の癌を特定の領域癌とする見解は否定しないものの,規約上の取扱いとしては癌の占拠部位の1つとして独立させない」ことにした,と記述されている.残念ながら,世界的に食道胃接合部に特化した疫学的数値が乏しく,その動向の詳細は不明であるが,世界が関心を抱いていることも間違いない.
 PubMedでkey word検索すると,論文数としてesophago-gastric junction(EGJ) cancerでは,4,066本,一方,gastro-esophageal junction(GEJ)Cancerでは5,138本で,意外に後者のほうが多いのである.世界的には「胃食道接合部癌」とするのが趨勢のようである.いずれにしても名称からして世界的にも統一されていないことがわかる.
 本特集では,歴史,疫学,分類,解剖から,診断,病理,治療,予防までひろく取り上げている.この領域に関する読者の方々の理解が一段と深まり,かつ日常診療の一助となれば望外の喜びである.

瀬戸泰之
東京大学医学部附属病院 病院長


<目次>

1. 食道胃接合部をめぐる歴史/三隅厚信,瀬戸泰之
2. 食道胃接合部癌の疫学/山下裕玄,瀬戸泰之
3. 食道胃接合部癌の分類/菅野健太郎
4. 食道胃接合部の解剖/隈本 力,中村達郎,倉橋康典,石田善敬,篠原 尚
5. 食道胃接合部の内視鏡診断基準/吉永繁高,小田一郎
6. 食道胃接合部癌の生物学的特性 ―病理の立場から―/浦辺雅之,牛久哲男
7. 食道胃接合部癌に対する内視鏡治療/井上貴裕,石原 立
8. 食道胃接合部癌に対する外科治療 ―食道外科の立場から―/野間和広
9. 食道胃接合部癌に対する外科治療 ―胃外科の立場から―/黒川幸典,江口英利,土岐祐一郎
10. 食道胃接合部癌に対する薬物治療/中山厳馬,陳 剄松
11. 食道胃接合部癌に対する放射線治療/秋元哲夫
12. 食道胃接合部癌の予防・早期発見/栗林志行,草野元康,浦岡俊夫
4,400円
特集●IBDの診断と治療
企画編集/渡邉 守(東京医科歯科大学 学術顧問・副学長(特命担当)/高等研究院 特別栄誉教授)

<特集にあたって>

 潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される炎症性腸疾患(IBD)は,日本における患者数増加が著しく,現在では潰瘍性大腸炎22万人,クローン病7万人と,炎症性腸疾患全体で30万人を超える患者数と推定されている.したがって,IBDはこれを専門としない消化器医も診療する機会が増え,すべての消化器医が診断,治療についてよく理解しなくてはならない疾患となっている.
 IBDにおいては,TNF-α阻害薬治療の登場により,治療目標に大きな変化が起こった.これまでの治療目標であった「短期間の臨床症状の改善」は過去のものとなり,「粘膜治癒」,すなわち内視鏡などでの寛解が,慢性疾患の経過を変えられるという考え方が出て,治療目標は劇的に変わった.その結果,次々に登場するIBDに対する新薬の治療目標も「粘膜治癒」に大きくシフトした.
 この時代にあって,たとえば,ますます選択肢が増えた内科治療,特に生物学的製剤に代表される新規薬物治療,新規IBD薬物治療を理解する上で必要な病態の理解,診断基準などの診断の基礎,疾患活動性評価のためのバイオマーカー,小腸内視鏡検査など新規画像診断の理解など,知っておくべきことは多くなっている.さらに,IBDでは,一度薬物治療が開始された場合でも,適切な時期に適切なモダリティを用いて疾患活動性を評価し,その結果によっては,現在の治療の最適化や他剤への切替を行う必要がある.また,治療については,高齢患者や小児例では特別な注意点があり,妊娠例についても妊娠転帰への影響を考え,場合によってはより積極的な治療が必要となってくる.さらに,長期経過例が増えることにより,今後ますます問題となると思われるがんサーベイランスについても知識が必要である.
 IBDほど,病気を起こす仕組みがわかってきて,ごく一部の治りにくい患者に対しても,新規治療法が次々に開発されている疾患は少ない.患者に対しては,難病といって落ち込むことなく,逆に調子が良いからといって油断して薬を飲まなくなることなく,正確な情報に基づく正しい病気と治療への理解により,まったく普通の生活を送っていただきたいと願っている.そのためには,この病気を専門とする臨床の医師,新しい治療を開発している研究の医師には,新しい時代を作ってほしいと期待している.
 本特集は,日本のIBDのトップランナーの先生に執筆をお願いした.その内容を理解することで,現在および将来のIBD診断や治療を理解できるようになり,特に難治例については,適切なタイミングで専門施設へ紹介されるようになることを期待したい.すべてのIBD患者において適切な診断,疾患活動性評価,および積極的で適切な治療選択が行われ,予後が改善されることに本特集が寄与することを期待したい.その上で,次世代の臨床医には,日本における細やかな臨床,卓越した内視鏡技術,「クリニカル・サイエンス(臨床医が主導する基礎研究)」を融合させ,日本から世界をリードする研究を発展させていってほしいと切望する.

渡邉 守
東京医科歯科大学 学術顧問・副学長(特命担当)/高等研究院 特別栄誉教授


<目次>

1. 炎症性腸疾患の病態/仲瀬裕志
2. 潰瘍性大腸炎の診断基準と鑑別診断/三好 潤,松浦 稔,久松理一
3. クローン病の診断基準と鑑別疾患/平井郁仁
4. クローン病における小腸画像診断/渡辺憲治
5. 炎症性腸疾患の活動性モニタリング/飯島英樹
6. 潰瘍性大腸炎の内科治療の原則/猿田雅之
7. クローン病の内科治療原則/松岡克善
8. 炎症性腸疾患の既存治療 ―5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA製剤),ステロイド製剤,チオプリン製剤―/田中敏宏,長沼 誠
9. 炎症性腸疾患の新規薬物治療 ―生物学的製剤およびJAK阻害薬―/清水寛路,長堀正和
10. 炎症性腸疾患の外科治療とがんサーベイランス/堀尾勇規,池内浩基,内野 基
11. 炎症性腸疾患患者における妊娠・出産/渡辺知佳子
12. 小児・高齢者における炎症性腸疾患治療/穂苅量太,東山正明,成松和幸,秋田義博,染村 祥,高本俊介
4,400円
特集●消化器領域のがん薬物療法―最近の動向―
企画編集/古瀬純司(杏林大学医学部腫瘍内科学教室 教授)

<特集にあたって>

 今回の特集では,消化器領域におけるがん薬物療法の最近の動向を取り上げます.
 わが国のがんの統計によると,新規の年間がん罹患数は約100万人であり,毎年2万人弱増え続けています.その内,大腸,胃,肝・胆・膵,食道がんの罹患数は約42万人と40%以上が消化器がんです.つまり,患者数だけをみても消化器がんの重要さがわかります.
 消化器がんの予後は,年々改善しています.がん治療は根治切除が基本ですが,薬物療法の進歩が予後の改善に大きく寄与していることは言うまでもありません.切除不能な患者だけでなく,切除可能例においても食道癌では術前補助療法,胃癌,大腸癌および膵癌では術後補助療法が標準治療として行われ,最近では膵癌に対する術前補助療法もガイドラインに記載されています.消化器癌では,疾患ごとに薬物療法の位置づけ,適応が異なり,それぞれのエビデンスを確認することが大切です.
 がん薬物療法は,分子標的治療薬,免疫チェックポイント阻害薬,がんゲノム解析に基づいた薬剤選択など,大きく変わってきています.消化器領域のがんは,食道,胃,大腸の消化管と肝・胆道・膵に加え,神経内分泌腫瘍や消化管間質腫瘍(GIST)など,それぞれのがん種に応じた治療選択が必要となります.切除不能例はもちろん,切除手術の補助療法もがん種により適応や薬剤選択が異なります.最近では,臓器にかかわらないバイオマーカーに応じた薬剤の適応も増えてきています.遺伝子パネル検査など,遺伝子解析による薬剤選択や,高齢患者に対する薬剤選択,安全管理など,臓器横断的な進歩や課題も少なくありません.
 今回,消化器がんに絞ったがん薬物療法として,臓器別の最新の進歩や今後の展望,さらに遺伝子パネル検査やcirculating tumor DNAなどの遺伝子解析に基づく治療選択,高齢がん患者の治療について,それぞれのエキスパートにご執筆いただきました.まさにタイムリーな特集になったと思っております.
 本書を通じて消化器がんの診療や研究に携わるみなさまに,消化器がん薬物療法の最新情報をキャッチいただければ幸いと存じます.

古瀬純司
杏林大学医学部腫瘍内科学教室 教授


<目次>

1. 胃がんに対する薬物療法/水上拓郎
2. 大腸癌の術後補助療法 ―最適な使い分け―/岡野尚弘,長島文夫,古瀬純司
3. 切除不能進行再発大腸癌に対する薬物療法/黒崎 隆,川上尚人
4. 食道癌に対する薬物療法/小森 梓,廣中秀一
5. 膵癌に対する薬物療法/戸髙明子
6. 胆道癌に対する薬物療法/上野 誠
7. 肝細胞癌に対する薬物療法/寺島健志
8. 消化器・膵神経内分泌腫瘍に対する薬物療法/肱岡 範
9. GISTに対する薬物療法/尾阪将人
10. 消化器癌におけるがん遺伝子パネル検査/金井雅史
11. 消化器癌におけるcirculating tumor DNA(ctDNA)の意義と今後の動向/石井貴大,中村能章
12. 高齢者のがん薬物療法/松岡 歩
4,400円
特集●胆膵内視鏡の診断・治療の基本手技
企画編集/糸井隆夫(東京医科大学病院国際診療部 部長)

<特集にあたって>

 胆膵内視鏡手技はERCP関連手技とEUS関連手技に大別され,それぞれの手技には数多くの診断・治療手技が含まれる.しばしば,“胆膵内視鏡手技は消化器内視鏡手技の中でも最も困難な手技である”と言われるが,その大きな理由は“胆道や膵臓は他の消化管病変のように簡単にアプローチができない”からである.たとえばERCP関連手技に関しては,さまざまな診断・治療手技を行うにあたり,胆道や膵管の出口である,十二指腸乳頭にアプローチする必要がある.具体的には,直径1~2mm程度の胆管・膵管開口部から逆行性に胆管内あるいは膵管内に深部挿管を行わなければ何もできないのである.しかも,ERCP後膵炎という時に致死的な偶発症を起こす可能性がある.このいわゆる“針の穴を通す”ような手技は,物理的に考えても繊細な手技であり,短期間に習得できるものではない.
 本特集では,こうしたカニュレーションのコツ,すなわち“初めの一歩”をエキスパートにご教示していただいた.またERCPによる診断面においては,胆道・膵管造影像はもとよりIDUSや経口胆道・膵管鏡は胆膵内視鏡医にとっては重要なモダリティーであり,手技の理解とともに代表的な画像所見を習得することが肝要である.もちろん近年,良悪性の鑑別のみならず術前化学療法のための病理学的エビデンス獲得は必須であり,経乳頭的組織診・細胞診のコツからサンプルの処理までを解説していただいた.治療的ERCPに関しては,その基本であり日常診療で大きな役割を果たしてきた,胆管・膵管ドレナージや胆管・膵管結石除去術をエキスパートから“微に入り,細にわたって”詳説していただいた.
 一方,近年その進歩が著しいEUS関連手技は胆膵内視鏡医にとってはもはや“修得すべき”モダリティーとなっている.特に診断的EUSに関しては,胆膵疾患のスクリーニングから精査までが可能であり,EUSスコープの操作法と超音波画像の理解が大切である.また,ERCP診断と同様に,現在では単なる画像診断のみならずEUSガイド下針生検(EUS-FNA)による病理学的エビデンス獲得は,消化管疾患における内視鏡生検と同じルーティン手技となっている.これらの診断的EUSの基本とコツを各エキスパートらから伝授してもらった.
 さて,胆膵内視鏡の診断・治療の基本手技としてよいのか迷うのが,“治療的EUS”,いわゆる“Interventional EUS”である.消化管を介して消化管外の病変や臓器に対して治療を行う本手技は,一歩間違うと深刻な結果(偶発症)を起こし得る.ところが,本手技はすでに日本でも広く普及しており,むしろこうしたリスクの高い治療をするにあたっては,胆膵内視鏡医の方々にその手技の基本を熟知してもらうことが重要であると思っている.ところでInterventionalEUSにはさまざまな手技が含まれるが,本特集では保険収載されている膵周囲液体貯留に対するドレナージと胆管ドレナージに焦点を当てて,熟練内視鏡医からその基本を解説していただいた.
 本特集では,明日から役立つ“胆膵内視鏡の診断・治療”の基本手技とコツを学んでいただければ幸いある.最後にイチロー氏の言葉を贈り,私の特集にあたる言葉としたい.
― 特別なことをするために特別なことをするのではない,特別なことをするために普段どおりの当たり前のことをするのである.イチロー ―

糸井隆夫
東京医科大学病院国際診療部 部長


<目次>

1. 胆膵疾患のEUS ―スクリーニングから精査まで―/嘉島 賢,入澤篤志,星 恒輝
2. 胆膵疾患のEUS-FNAの基本手技とコツ/塩見英之,中野遼太,児玉裕三
3. ERCP ―選択的胆管・膵管挿管のコツ―/今津博雄
4. ERCP下病理検体採取のコツ ―胆管・膵管―/岡部義信,内藤嘉紀
5. 胆道疾患のERCP診断 ―造影像,IDUS,POCS―/林  毅,潟沼朗生
6. 膵疾患のERCP診断 ―造影像,IDUS,POPSの基本手技とコツ―/橋本千樹,宮原良二,川部直人,葛谷貞二,廣岡芳樹
7. ERCPによる胆管結石除去術/谷坂優樹,良沢昭銘,水出雅文
8. ERCPによる膵石除去術/岩田圭介,丸田明範,吉田健作,安田一朗
9. ERCPによる遠位胆管閉塞に対する胆管ドレナージ/北村勝哉
10. ERCPによる肝門部領域胆管閉塞に対する胆管ドレナージ/向井 強,奥野 充,手塚隆一,岩田翔太
11. 超音波内視鏡下膵液体貯留ドレナージ/向井俊太郎
12. 超音波内視鏡下胆管ドレナージ/中井陽介
4,400円
特集●ここまで治る 早期大腸がんの内視鏡治療
企画編集/田中信治(広島大学病院 内視鏡診療科 教授)

<特集にあたって>

 高齢化社会を迎え,日本のがん死亡者数は年々増加傾向にある.ちなみに,がん死亡者数は,男性で,①肺がん,②胃がん,③大腸がん,④肝臓がん,女性では,①大腸がん,②肺がん,③胃がん,④膵がんの順に多く,消化器がん,特に消化管のがんが多数を占めている.男女合わせると,大腸がんはがん全体の中で死亡率2位,罹患率は1位に位置する.そして,外科医が根治的手術を相当数行い,内視鏡医が相当数の早期大腸がんに対する内視鏡治療を行っているにもかかわらず,毎年約5万人の患者が大腸がんで死亡している.肝がんの主たる背景疾患であるC型慢性肝炎が薬物療法で治癒する時代になり,また,胃がんの原因であるピロリ菌感染率も著明に減少し,胃がんや肝臓がんの死亡率が低下しつつある中,大腸がん検診対策は欧米先進諸国と比べて遅れている.一方で,大腸がんは早期に発見し内視鏡で完全切除すれば根治が得られる疾患であり,消化管内視鏡技術が世界のトップである日本の診断学や治療内視鏡学をもっと有効に活用しなくてはならない.
 近年の内視鏡機器やデバイスの進歩などによって,早期大腸がんに対する内視鏡治療手技は著しい進歩を遂げ,今や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の一般化も進みつつある.さらに,腸管の内視鏡的全層切除術や縫合技術も開発されつつある.早期大腸がんが内視鏡治療で根治できる条件は,完全一括切除でき,転移のリスクを認めない,あるいは,極めて転移リスクが低いことである.早期大腸がんはSM浸潤のpotentialを有するため,粘膜内病変しか切除できないポリペクトミーは使用すべきでなく,粘膜下層が十分切除できる内視鏡的粘膜切除術(EMR)またはESDで切除すべきである.分割切除や深部断端陽性などの不完全切除は,内視鏡切除後の根治度の判定に支障をきたすため断じて避けなくてはならない.そのためにも,術前診断としての深達度診断は重要であり,また,腺腫内がんにおけるがん部と腺腫部分の判別は,計画的分割切除の適応決定に必須である.また,大腸Mがんには転移を認めないが,SMがんは約10%にリンパ節転移を認めるため,内視鏡切除後のリンパ節転移リスクの層別化や分子マーカーなどを用いたリンパ節転移予測が,根治度の判定や患者背景を考慮した治療方針決定に重要である.
 本号では,①早期大腸がんに対する内視鏡切除手技としてのEMRとESDの適応,コツやピットフォール,技術的な限界,②内視鏡切除の適応を決定するためのさまざまな術前診断学,③内視鏡切除病変の取り扱い,病理組織診断・分子病理診断などによる根治度判定,④SMがんの取り扱いや予後から見た内視鏡切除後の経過観察の方法,⑤近い将来臨床導入されるであろう現在開発中の先端技術などについて,この領域のトップランナーの先生に執筆いただいた.現時点での早期大腸がんに対する内視鏡診断,病理診断,内視鏡治療の最先端知見を含め,早期大腸がんが内視鏡治療でどこまで治せるかについての最新情報を読者にお届けしたい.

田中信治
広島大学病院 内視鏡診療科 教授


<目次>

1. 治療法選択のための術前診断学/井上史洋,平田大善,岩館峰雄,佐野 寧
2. 治療法選択のための術前診断学 ―超音波内視鏡検査―/斉藤裕輔,稲場勇平
3. 治療法選択のための術前診断学 ―注腸造影・CT/MR colonoscopy―/久部高司
4. EMR,分割EMR,ESDの棲み分け/山野泰穂,吉井新二,山川 司,仲瀬裕志
5. ESD時代におけるEMR/樫田博史
6. ESDにおける各種ナイフの特徴と使い分け,補助デバイス/田中寛人,栗林志行,浦岡俊夫
7. ESDのコツとピットフォール,偶発症対策/江郷茉衣,斎藤 豊
8. 高周波手術装置のEndoscopic applicationモードの特徴と出力調整/中繁忠夫,豊永高史
9. 病理所見によるpT1(SM)癌のリンパ節転移予測/味岡洋一,大内彬弘,杉野英明
10. 粘膜下層浸潤癌におけるバイオマーカー/菅井 有
11. 内視鏡切除T1(SM)癌の転移・再発とサーベイランス/山下 賢,岡 志郎,田中信治,二宮悠樹,茶山一彰
12. 大腸腫瘍に対する内視鏡的全層切除術,縫合術の今後の展開/後藤 修,矢作直久
4,400円
特集●GERD診療を考える ―内視鏡専門医が教える軽症から重症例に対する検査と薬剤の使い方―
企画編集/河合 隆(東京医科大学病院 消化器内視鏡学 主任教授)

<特集にあたって>

 1970年代には70%以上あったHelicobacter pylori(ピロリ菌)感染率が,2000年には30%以下に低下するとともに,2013年に内視鏡検査にて胃炎があればピロリ菌検査・除菌が保険診療にて可能になり,年間150万人以上の患者さんに除菌治療が行われています.現在,ピロリ菌未感染および既感染の患者さんが増加して80%を占め,ピロリ菌現感染患者はわずかに20%前後であると報告されております.日本人のピロリ菌感染胃炎は,ご存じのように多くの症例で体部優位型胃炎を生じています.体部には胃酸分泌を行う壁細胞があり,炎症に伴い細胞の障害・破壊が起こり,低酸分泌状態となっています.しかし,一旦ピロリ菌が除菌されると急速に胃酸分泌が回復します.言い換えると,胃酸分泌が盛んな患者さんが増加しています.
 先生方の外来診療の現場において,胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者が激減し,胃食道逆流症(GERD)の患者さんが急増していると思います.上部消化管疾患構造に,大きな変化が生じています.そこで本特集は,「GERD診療を考える ―内視鏡専門医が教える軽症から重症例に対する検査と薬剤の使い方―」といたしました.
 GERDの原因として,食道への胃酸逆流,特に嚥下と関係なく食道胃接合部が弛緩する現象である「一過性下部食道括約筋弛緩(TLESR)」があります.胃酸の逆流に関し,最近“acid pocket”の存在も注目されています.食道蠕動運動に関連する食道クリアランス,食道裂孔ヘルニア,さらには食道知覚過敏(機能性胸やけ)など,多くの因子が関与しています.原因究明のために必要な検査として,上部消化管内視鏡検査にはじまり,食道pHモニタリング,食道インピーダンスなどがあります.この検査を組み合わせて,GERDの診断を行っています.
 GERD治療として,GERD診療ガイドラインにあるように第一選択はProton pump inhibitor(PPI)です.また,GERD治療のエンドポイントの1つにはQOLの向上があります.近年発売されたPotassium competitive acid blocker(P-CAB)は,PPIよりも早く・強く・長く胃酸分泌を抑制することが可能であり,GERD診療においてパラダイムシフトを起こすと考えられています.PPI抵抗性GERDがどこまで治せるか,漢方薬,消化管運動機能改善薬の併用効果も重要です.また,先に述べたGERDの1つの検査法としてP-CABテストが注目されています.保険適用はないものの,QOL向上を考えた酸分泌抑制薬のオンデマンド療法も,ガイドラインでは推奨されています.
 GERDに伴う症状・合併症としては,特に高齢者に多く生じる出血,狭窄,さらにはバレット食道・食道腺癌,咽喉頭異常感症があります.
 本特集では,最新のGERD発症の機序から,診断に関する各種検査方法のポイント,P-CABを含めた最新の治療方法,さらに最近考案されたGERDの内視鏡的治療である内視鏡的噴門切除術(ARMS),および内視鏡的噴門粘膜焼灼術(ARMA)まで取り上げています.読者の皆様の,診療のお役に立てれば幸いです.

河合 隆
東京医科大学病院 消化器内視鏡学 主任教授


<目次>

1. 新しいGERD発症の機序に基づいた薬物療法/近藤 隆,三輪洋人
2. PPI抵抗性GERDは,P-CABの登場ですべて解決されるのか?/川見典之,岩切勝彦
3. 高齢者のGERD診療は,通常のGERD診療とどこが異なるか/金森厚志,田中史生,藤原靖弘
4. GERDの症状と内視鏡所見は一致しているか?/小池智幸,齊藤真弘,中川健一郎,正宗 淳
5. GERDではどのような患者にどの検査を行うのが適切か?/栗林志行,保坂浩子,草野元康,浦岡俊夫
6. GERD治療は,ステップダウンからトップダウンへ/原田 智,竹内利寿,樋口和秀
7. オンデマンド療法とは何か,効果は,保険適用は?/鈴木秀和
8. ピロリ菌総除菌時代におけるGERD診療の実際/杉本光繁,永田尚義,岩田英里,糸井隆夫,河合 隆
9. バレット食道腺癌予防を考えたGERD治療/阿部圭一朗,郷田憲一,金森 瑛,鈴木統裕,入澤篤志
10. 食道裂孔ヘルニアとGERD/岸川暢介,伊藤公訓
11. 咽喉頭異常感症は本当にGERD?/浅岡大介,永原章仁
12. 薬剤抵抗性GERDに対する外科治療と最新の内視鏡治療/井上晴洋,鬼丸 学,島村勇人,年森明子,田邊万葉,西川洋平,藤吉祐輔
13. 機能性胸やけなどの食道機能性疾患は増加しているのか/二神生爾,阿川周平,山脇博士
4,400円
特集●内視鏡で見える病気,診る病気 ―背景を考える―
企画編集/春間 賢(川崎医科大学 総合医療センター 総合内科学2 特任教授)

<特集にあたって>

 この度の特集号のタイトルは,「内視鏡で見える病気,診る病気 ―背景を考える―」とさせていただきました.“見える”は形態の病気,“診る”は機能の病気を,この特集号では意味します.最近,上部消化管の分野は非常に多くの疾患が登場し,エキサイティングになっています.私は,常日頃,消化管の内視鏡検査をしながら,なぜこのような病気ができるのか,そしてその背景はどうなっているのかを考えながら検査を行っています.
 最近の内視鏡は,粘膜の表面がよく見えるようになってきました.従って,Helicobacter pylori(ピロリ菌)未感染胃でも,稜線状発赤やびらんなど詳細に観察され,病変なしとは言えない症例が増えてきました.しかしながら,内視鏡所見からは自覚症状が説明できない症例に出会うこともよくあります.上部消化管であれば,食道の運動機能異常や機能性ディスペプシア(Functional dyspepsia:FD)が代表的な疾患で,機能性消化管障害と呼ばれています.
 さて,ピロリ菌は萎縮性胃炎,消化性潰瘍,さらには胃癌の原因であることは周知の事実です.ピロリ菌感染率の低下,またピロリ菌除菌の普及は,上部消化管の疾患に大きな革命を起こしました.日々の内視鏡検査では萎縮のない胃が増加し,以前は胃角部や胃体部の多かった消化性潰瘍も激減しております.胃癌もピロリ菌除菌で解決すると思われましたが,ピロリ除菌後の胃癌,ピロリ未感染の胃癌も増加しているようです.逆流性食道炎はもとより,バレット腺癌,あるいは食道と胃の接合部に発生する胃癌の増加は,ピロリ菌感染陰性の症例が多くなり,以前であれば萎縮性胃炎のために胃酸が低下していたものが,ピロリ菌未感染,あるいはピロリ菌除菌で胃酸が食道へ逆流することが増えたためと考えられます.十二指腸についても,恐らく同じことが言えます.萎縮性胃炎のため十二指腸へ胃酸が流れにくくなっていたところに,ピロリ菌未感染例が増加し,あるいはピロリ菌除菌で低下していた胃酸が復活し,以前よりも十二指腸に胃酸が流れることが多くなっていると思われます.この現象が,十二指腸の腫瘍発生に影響しているとも考えられます.アレルギー性疾患である好酸球性食道炎や好酸球性胃腸症も,ピロリ菌感染とは逆相関にあり,ピロリ菌感染率が低下するほど,アレルギー性疾患が増加していく可能性があります.
 タイトルに「内視鏡で見える病気,診る病気」とさせていただいたのは,日頃から,消化管の形態と機能の両者に私が興味を持っているからです.消化管の機能異常は咽喉頭から始まり,食道,胃,十二指腸,さらに小腸,そして大腸へと病態は進んでおります.CACS(celiac artery compression syndrome)やACNES(anterior cutaneous nerve entrapment syndrome)は,消化管以外の原因で発生する病気ですが,消化器病医を必ず受診しますので,知っておくべき重要な疾患です.自己免疫性胃炎や胃NET(neuroendocrine cell tumor),プロトンポンプ阻害薬の使用により発生するGAP(gastropathy associated with PPI),さらに,壁細胞の機能不全も,考えてみれば消化管の機能異常により発生する,また,背景に機能異常を伴った疾患です.特発性胃前庭部難治性潰瘍も,意外と前庭部の収縮運動の過収縮によるものかもしれませんし,また,PHG(portal hypertensive gastropathy)も肝臓へ行くはずの血流が胃で停滞する,すなわち,機能異常を背景にした疾患です.
 こうやって上部消化管の疾患を眺めてみると,上部消化管疾患が変貌していく背景には形態と機能の異常が確実にあり,その頻度は確実に増加しています.

春間 賢
川崎医科大学 総合医療センター 総合内科学2 特任教授


<目次>

【1 食道胃接合部と十二指腸に注意しよう】
1-1. バレット食道腺癌・胃食道接合部癌 ―胃食道逆流関連接合部腺癌の初期病変に迫る―/貝瀬 満
1-2. 非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍の発症リスクと好発部位/大野和也,黒上貴史,増井雄一,中谷英仁

【2 機能を考える疾患】
2-1. 食道運動機能異常/栗林志行,保坂浩子,草野元康,浦岡俊夫
2-2. 好酸球性食道炎,好酸球性胃腸症/藤原靖弘
2-3. 自己免疫性胃炎と胃NET/佐藤祐一,佐藤明人,富所 隆,寺井崇二
2-4. プロトンポンプ阻害薬に関連した胃粘膜変化 ―GAP(Gastropathy Associated with PPI)―/鎌田智有,春間 賢,砂金 彩,眞部紀明,永井 宏
2-5. 壁細胞機能不全症(parietal cell dysfunction)/石岡充彬,平澤俊明,河内 洋
2-6. 逆流性食道炎/綾木麻紀,眞部紀明,春間 賢
2-7. 特発性(ピロリ菌陰性NSAID 陰性)胃前庭部難治性潰瘍/寺井智宏,丸山保彦
2-8. 門脈圧亢進症性胃症/西野 謙,川中美和,河本博文,眞部紀明,鎌田智有,春間 賢

【3 胃外(意外)な疾患】
3-1. 機能性ディスペプシア/二神生爾,阿川周平,山脇博士
3-2. CACS,ACNES/楠 裕明,畠 二郎,春間 賢
4,400円
特集●ピロリ菌未感染および除菌後の早期胃癌の診断
企画編集/藤崎順子(がん研有明病院消化器内科上部消化管内科 部長)

<特集にあたって>

 胃癌の原因は,99%がHelicobacter pylori(ピロリ菌)感染といわれている.これからの胃癌は,背景にピロリ菌が存在しない,未感染,もしくは除菌後の背景からできる胃癌である.2013年にピロリ菌感染の保険収載後,除菌後胃癌の頻度が高まり,さらにピロリ菌感染率も低下している.ピロリ菌未感染背景から発症する胃癌は,胃癌全体の1%以下といわれている.ピロリ菌陰性時代に入ると胃癌は高齢者の癌になり,徐々に減少傾向となることが予想される.ピロリ菌陰性時代(未感染,除菌後)の早期胃癌の特徴は多くの報告があり,未感染では印環細胞癌,胃底腺型胃癌,低異型度腺窩上皮型胃癌,腸型胃腸混合型分化型腺癌が報告されている.しかし頻度は少なく,未感染胃癌はslow growingな病変が多いことが報告されている.除菌後では,地図状発赤など腸上皮化生の胃癌リスク因子が挙げられている.一方で,未感染,除菌後の未分化型癌やSMに浸潤する胃癌,進行胃癌の報告が最近散見されている.
 今回の特集では,ピロリ菌未感染,除菌後に発見された早期胃癌の特徴について,豊富な経験と知識の先生方に執筆をお願いした.まず未感染の項目では,未感染の定義について虎の門の田中先生にお願いした.最近では20代に除菌し,除菌後の胃粘膜からは未感染なのか除菌後かを迷う場合もあり,定義が重要となってくる.定義が曖昧になると,そこから生まれるデータの信憑性が低下し,重要な部分である.そして定義がはっきりしたところで,未感染に出てくる早期胃癌をそれぞれ,印環細胞癌,胃底腺型胃癌,胃底腺粘膜型腺癌,ラズベリー様腺窩上皮型胃癌,低異型度胃型腫瘍,前庭部腸型胃癌について,多数の症例を経験している吉村先生,上山先生,,柴垣先生,城間先生,丸山先生に書いていただいた.日本で最もこれらのrare casesを経験された先生方にお願いしたので,読者にとって,説得力のある内容であることは間違いないと考えられた.
 次にさらに問題の多い除菌後胃癌であるが,こちらも私自身が知りたかった内容を役得とばかりに選び,これもその道のエキスパートの先生方にお願いした.除菌後胃癌のシンポジウムやパネルディスカッションなどはいつも学会で満席のセッションであり,内視鏡医の第一の関心領域である.除菌後は,内視鏡検査をいつまで,どの間隔でうけるのかは,現状では明確な答えなしである.除菌後長期観察後に発見された胃癌や長期経過観察した場合の胃癌の傾向を鎌田先生と武先生,除菌後浸潤癌について小林先生,除菌後胃癌発見のコツを八木先生,除菌後の表層上皮の変化を小刀先生,除菌後胃癌発見におけるLCIの有用性を北川先生と,各項目とも大変興味深く,この号を読むことで3回分ぐらいの除菌後胃癌の学会セッションを網羅するぐらいの重みがあると信じている.
 今後の内視鏡診療を行っていくにあたり,読者の先生方の日々の臨床に役立てたい.

藤崎順子
がん研有明病院消化器内科上部消化管内科 部長


<目次>

1. ピロリ菌未感染の定義と未感染胃癌の典型例/田中匡実,菊池大輔,布袋屋 修
2-1. 印環細胞癌/吉村大輔,吉村理江
2-2. 胃底腺型胃癌/上山浩也,八尾隆史,永原章仁
2-3. ラズベリー様腺窩上皮型胃癌/柴垣広太郎,三代 剛,川島耕作,荒木亜寿香,丸山理留敬,石原俊治
2-4. 前庭部腸型胃癌/城間 翔,堀内裕介,藤崎順子
2-5. 低異型度胃型腫瘍/丸山保彦
3-1. ピロリ菌除菌後長期(10年以上)経過観察後に発生した胃癌の特徴/鎌田智有
3-2. 除菌後未分化型胃癌/武 進,石木邦治,水野元夫
3-3. 除菌後浸潤胃癌を早期発見するためのコツ/小林正明,盛田景介,菅野智之,青栁智也,栗田 聡,塩路和彦,小方則夫
3-4. 除菌後胃癌発見のコツ/八木一芳,寺井崇二
3-5. 除菌後の組織学的変化(低異型度上皮)が内視鏡診断,治療に及ぼす影響/小刀崇弘,伊藤公訓,田中信治,茶山一彰
3-6. 除菌後胃癌の見落とし率低減に向けたLCIの有用性について/北川善康,鈴木拓人
4,400円
特集●慢性便秘の考え方―治療目標と新規下剤の位置づけを含めて―
企画編集/三輪洋人(兵庫医科大学 副学長/兵庫医科大学 消化器内科学 主任教授)

<特集にあたって>

 最近,新しい便秘薬の発売ラッシュである.新薬の登場により,われわれは便秘に対してほとんど関心を持っていなかったことに気づく.皮肉なものであるが現実である.そういえば,医学部の授業で便秘について学んだことはほとんどないし,便秘治療に情熱を傾けてきた医師もそれほど多くないはずである.これは便秘が簡単な疾患であるからではなく,われわれが便秘に対して真剣に対応してこなかったからである.
 しかし,便秘患者は日々医療機関を訪れる.待ったなしに下剤を処方する必要性にかられている.そんな状況下では何も考えずに,以前先輩から教わり,これまで使い慣れた下剤を画一的に処方するのが一番である.使い慣れたいつもの処方を漫然と用いるのである.日本における便秘薬の処方が,欧米諸国とはまったく違ったものになっているのはこのせいなのかもしれない.以前,日本で胃潰瘍の治療薬の市場が欧米のそれとはまったく違ったものであった状況を思い出す.欧米では効果なしとしてほとんど使用されなかった防御因子増強薬が,日本では頻用されていた.日本の便秘薬の使用法は明らかに諸外国のものと異なっているが,われわれは間違っていたのだろうか? 結論から述べると決して間違った治療をしていたわけではないが,それに関する検証がなされてこなかった.日本では,便秘治療薬の効果や副作用に関する臨床研究がほとんどなされてこなかったからである.
 やはり初心に戻って,正しく便秘を理解し,その治療法を新しく考え直したい.当然の思いである.しかし,これらを自分で整理して学ぼうとしても,それがそれほど簡単ではないことにすぐに気づく.まず,「便秘ってなに」という命題からつまずいてしまう.便秘を自覚する人は多いが,その人たちは本当に便秘という疾患を持つ患者なのであろうか? 研究用の複雑なRome診断基準は存在しても,日常的に使用できる簡単な基準はなく,便秘という疾患名が独り歩きしているのがわかる.ましてや治療にあたっては「なぜ治療する必要があるのか」から始めなければならない.「どう治療するのか」はそのあとの問題である.便秘治療の必要性やその目標を述べることは簡単ではないし,便秘がなぜ起こるのかという病態生理を理解していなければどう治療するかには答えられない.ましてや,次々と発売される便秘薬の作用機序を理解し,それをどう位置づけるかは,さらに困難な命題であろう.
 2017年に日本消化器病学会付置研究会から「慢性便秘症診療ガイドライン」が発刊された.消化器系のガイドラインの売り上げは通常数千部であるが,便秘のガイドラインはあっという間に25,000部を売り上げ,ベストセラーとなった.これは「便秘をもう一度勉強し直してみたい」「便秘治療の新しい考え方を知りたい」という思いを多くの医師が持っていたからではないかと思う.
 本書では日本における便秘研究のトップランナーの先生たちに,便秘についてわかりやすく,しかも詳しく解説していただいた.本特集号では治療に重点を置いた構成になってはいるが,疫学から定義,診断,病態生理についてもわかりやすく解説していただいた.治療に関しては,その意義,目標,生活習慣の重要性を述べていただいたうえで治療薬の各論を解説していただいた.作用機序,効果,注意すべき副作用はもちろんのこと,多くの治療薬の中での各薬剤の位置づけについて先生方の考えを交えて論じていただいた.結果として,とても読みごたえのある特集になったと感じている.ご多忙の中,執筆を快諾していただいた執筆者に御礼を申し上げるとともに,本特集号が読者に便秘診療の新しい考え方を学んでいただく一助となれば幸甚である.

三輪洋人
兵庫医科大学 副学長/兵庫医科大学 消化器内科学 主任教授


<目次>

〔特集〕
1. 日本の慢性便秘患者の疫学/北條麻理子,永原章仁
2. 慢性便秘症の定義と診断/大島忠之,三輪洋人
3. 便秘の分類と病態生理/金澤 素,福土 審
4. 便秘治療の意義と必要性/上田 孝,森 英毅,鈴木秀和
5. 生活習慣改善による便秘治療の有用性と効果/穗苅量太,杉原奈央
6. 便秘治療薬としてのプロバイオティクス/内藤裕二
7. 浸透圧性下剤の効果と使い方/小笠原尚高,春日井邦夫
8. 刺激性便秘薬の効果と使い方/富田寿彦,三輪洋人
9. 漢方による便秘治療とその位置づけ/眞部紀明,綾木麻紀,中村 純,藤田 穣,春間 賢
10. 上皮機能変容薬の種類と効果/福土 審
11. IBAT阻害薬の有用性とその位置づけ/中島 淳
12. 小児の便秘の現状と対策/宮本卓哉,鏑木陽一郎,永田 智

〔特別寄稿〕
推薦のことば(第9号 特集 大腸腫瘍に対する拡大内視鏡診断)/藤井隆広
4,400円
特集●大腸腫瘍に対する拡大内視鏡診断
企画編集/斎藤 豊(国立がん研究センター中央病院 内視鏡科長・内視鏡センター長)

<特集にあたって>

 本号では消化器内科領域の臨床に直結する『大腸腫瘍の拡大内視鏡診断の基礎』を徹底解説いたします.
 従来の教科書や解説書では十分に解説しきれない大腸腫瘍・早期癌の内視鏡写真の撮影・読影の基本とPit fallを,初学者にもわかりやすく解説することを目的としています.そのため執筆陣は,第一線で活躍する若手~中堅の大腸内視鏡医の精鋭にお願いしております.
 Narrow Band Imaging(NBI)および Blue Laser Imaging(BLI)画像や拡大NBIおよびBLI画像,Pitパターン所見の病理組織との1:1の対応による正しい読み方だけでなく,“それ以前”の重要な問題としてFocusやPintのあった美麗な写真の撮り方,病変を出血させない洗浄のコツ,通常所見でどの部位に注目し,Focusを絞って拡大観察していくか,NBI/BLIに加えて,どのような病変ではインジゴカルミン,さらにはクリスタルバイオレット染色まで必要か,などについて詳細に解説し,その後,症例の読影のポイントについて,実際の基本的な症例で組織との対比で解説するという,懇切丁寧な切り口で初学者のための解説書,また,初学者のみならず中級から上級の先生が読まれても得るところの大きい内容を目指しております.したがって超拡大内視鏡診断のコツまで詳細に解説されています.
 本書を通読することで,あたかも読者が,大学病院や,基幹施設の内視鏡センターで最高の指導医(本書の執筆者となります)について大腸内視鏡(診断)学の研修をしているようなイメージを具現したいというのが我々の願いです.
 胃癌は,ピロリ菌の除菌や胃癌検診の効果などにより今後20年で確実に減少していきます.これからの若い世代の消化器内視鏡医は,大腸腫瘍・早期癌の診断学が必須となる時代となっています.
 また大腸内視鏡検査の最初のハードルは回盲部挿入にありますが,それで終わりではなくその後の観察・診断と,同時に病変を発見した場合に,その場で生検することなしに治療方針まで決定することが求められます.2cm以下の病変なら外来EMRという選択肢もあるからです.
 患者さんの立場になれば,やはり何度も下剤を飲んで,再検査されるのは,できれば避けたいところと思います.
 コラムとして,現時点で,大腸内視鏡学における最も重要なトピックである①大腸がん検診と,②AI診断,さらには③JNET分類についてもわかりやすく紹介してもらっています.①大腸がん検診に関しては元厚労相課長補佐の堀松から,ナッジ理論(行動経済学)を利用した検診受診率向上の取り組みや,Personal Health Recordの導入など新しい取り組みが紹介されています.②AI診断では樺,玉井が,日本の内視鏡AIの紹介にとどまらず世界の潮流とAIの利点に加え,利用する上での注意喚起まで明快に説明がなされています.将来的には,AIと会話しながら大腸内視鏡検査をする時代がすぐそこまで来ていることを予感させてくれる内容です.③JNET分類についてはJNETメンバーの斎藤彰一とその同僚松野が,分類の成り立ちから臨床的な注意点まで概説しています.あわせてお楽しみ下さい.
 是非,消化器内視鏡専門医を目指す先生に限らず,消化器内視鏡をこれから始めてみようという若い先生や,現在大腸内視鏡をトレーニングしているけれども中々綺麗な写真が撮れない,あるいは綺麗な写真は撮影できるが,読影や治療方針の決定に自信がないといった先生方に,一人でも多く手に取ってみていただきたいと願います.

斎藤 豊
国立がん研究センター中央病院 内視鏡科長・内視鏡センター長


<目次>

1. Pit patternとは?/和田祥城,福田将義,大塚和朗
2. 腫瘍非腫瘍のpit pattern診断の基礎と実践/保田和毅,岡 志郎,田中信治,二宮悠樹,茶山一彰
3. 鋸歯状病変のpit pattern診断の基礎と実践/水口康彦,斎藤 豊
4. 癌の深達度診断におけるpit pattern診断の基礎と実践/砂川弘憲,池松弘朗
5. 狭帯域光観察(NBI/BLI)とは?/吉田直久,井上 健,廣瀬亮平,土肥 統,伊藤義人
6. 腫瘍非腫瘍のNBI/BLI診断の基礎と実践/今井健一郎,堀田欣一
7. 鋸歯状病変(SSL/TSA/SuSA)の内視鏡的特徴(NBI/BLIを中心に)/村上 敬,坂本直人,福嶋浩文,八尾隆史,永原章仁
8. 癌の深達度診断におけるNBI/BLI診断の基礎と実践/平田大善,井上史洋,岩館峰雄,佐野 寧
9. 超拡大内視鏡診断の基礎と実践/三澤将史,工藤進英
10. 非腫瘍における拡大診断/小西 潤,小林 望,今野真己
コラム1 大腸がん検診を考える ―厚生労働省の立場から/堀松高博
コラム2 いま大腸内視鏡AIができること/樺 俊介,玉井尚人
コラム3 JNET分類の紹介/松野高久,斎藤彰一
4,400円
特集●上部消化管の偽陰性癌―その癌見逃していませんか?―
企画編集/平澤俊明(がん研有明病院上部消化管内科 副部長)

<特集にあたって>

 胃内視鏡検診に対策型検診としての有効性が認められたことから,内視鏡による検診は多くの自治体で導入されるようになった.その中での現在の課題は「偽陰性癌」,つまり“見逃し癌”をいかに減らすか,ということである.内視鏡診断は経験に左右されることが多く,腫瘍の発見率は内視鏡医によって違う.以前から問題となっているスキルス胃癌の他に,最近増加傾向にあるBarrett食道腺癌も,毎年内視鏡を行っているにもかかわらず進行した状態で発見されることが少なくない.このように,内視鏡検査による「偽陰性癌」は古くから議論されてきている問題であるが,未だに解決できていない,そして初学者から熟練医まで多くの内視鏡医が興味を持っている領域でもある.
 なぜ,見つけられないのか? 見逃さないコツは? 偽陰性の法的解釈は? 胃内視鏡検診の精度管理対策は? そのような臨床現場の疑問に答えるために,今回の特集を企画した.
 口腔咽頭領域に関しては,以前ならば消化器の医師は管轄外という認識であり,反射を誘発することもあって,ほとんど観察されることはなかった.しかし,近年では消化器内視鏡で発見される咽頭癌も増加し,high volume centerを中心に,ESDにより咽頭喉頭を温存できる低侵襲治療が行われている.消化器内視鏡医による咽頭観察が必須の時代となり,自分の専門外と言って逃げることはできない状況である.
 食道癌も,手術と内視鏡治療の侵襲度は大きく違う.食道癌は内視鏡治療で根治できる段階で発見すべきであるが,逐年の内視鏡検査にもかかわらず,発見時には内視鏡治療の適応外という症例も経験する.また,咽頭癌,食道癌は問診によりハイリスク群の囲い込みが可能であり,リスクに応じて観察のメリハリをつけることが望ましい.
 食生活の欧米化とHelicobacter pylori(ピロリ菌)感染率の大きな低下により,近年GERDが増えてきており,このような変化に伴いBarrett食道腺癌が増加傾向にある.Barrett食道腺癌は足が速い症例も多く,ちょっとした発赤に気が付かないと,翌年には粘膜下層浸潤癌,ということもめずらしくはない.
 胃癌に関しても,ここ数年で大きな変化がある.ピロリ菌除菌が保険適応となったことに伴い,発見がより困難な除菌後胃癌に遭遇するようになったからである.また,ピロリ菌未感染胃癌は背景に炎症がない分,その特徴さえ知っていれば容易に発見できるが,そもそもの頻度が低いため,実際に経験したことがない医師も多いであろう.このように胃癌診断学は以前のピロリ菌現感染に発生する胃癌と相違が生じているため,新しい胃癌診断学にブラッシュアップしなくてはならない.
 十二指腸に関しても,球部のNETや下行部の腺腫は比較的見かけるようになってきた.病変によっては安易な生検が,後の内視鏡治療の大きな障害になる点も注意喚起が必要である.
 本特集はエキスパートの内視鏡医を中心に執筆を依頼し,偽陰性癌の頻度,法的問題,咽頭から十二指腸まで癌の拾い上げのコツについて,具体的かつ実践的な内容で書いていただいた.見逃しが致死的な状況につながるスキルス胃癌や,最近のトピックスであるBarrett食道腺癌,ピロリ菌未感染胃癌,除菌後胃癌,自己免疫性胃炎,十二指腸腫瘍についても項を割いた.また,内視鏡による対策型胃がん検診での偽陰性癌に対する取り組みについても取り上げた.まさに臨床医が知りたい事項を網羅したと考えている.
 月刊誌の特集号であるが,単行本として出版しても内容に遜色はない.本特集を読めば,明日からの内視鏡診療が変わる! そのようなインパクトのある特集号である.ぜひご一読いただきたい.

平澤俊明
がん研有明病院上部消化管内科 副部長


<目次>

1. 上部消化管内視鏡検査の偽陰性癌 ―癌はこんなに見落とされている―/岡村卓真,関口正宇,小田一郎,松田尚久
2. 癌偽陰性に対する法的問題 ―見逃しは法で裁かれる?―/日山 亨
3. 口腔・咽喉頭の内視鏡観察 ―消化管内視鏡でも必ずチェック!―/青山直樹,矢野友規
4. 食道の観察法 ―見逃していませんか?その食道癌―/川田研郎
5. 食道胃接合部の観察法 ―Barrett食道腺癌を見逃すな!―/田中一平,平澤 大
6. 盲点を意識した胃内視鏡観察法 ―こんなところに胃癌が!―/菓 裕貴,野中康一
7. 背景粘膜を意識した胃内観察法 ―メリハリのある内視鏡検査―/塩月一生,滝沢耕平
8. 同時性・異時性胃癌の発見のコツ ―1つ見つけたら2つ目を探す―/井上貴裕,上堂文也
9. 除菌後胃癌発見のコツ ―見つけにくい除菌後胃癌はここに注目!―/若槻俊之,万波智彦
10. スキルス胃癌を見落とさないコツ ―絶対見逃さないこの所見―/入口陽介
11. ピロリ菌未感染胃癌発見のコツ ―特徴ある所見に注目!―/平澤欣吾,佐藤知子,立石陽子
12. 自己免疫性胃炎の観察法のコツ ―意外に多い! A型胃炎―/丸山保彦
13. 十二指腸の観察 ―今,注目されている領域―/加藤元彦
14. 対策型胃内視鏡検診における見逃し対策 ―検診の質の均てん化を目指して―/辰巳嘉英
15. 見逃さない上部消化管内視鏡検査 ―内視鏡アトラスの紹介―/平澤俊明
4,400円
特集●食道疾患に対する最新の内視鏡診断と治療
企画編集/井上晴洋(昭和大学江東豊洲病院消化器センター センター長・教授)

<特集にあたって>

 この30余年を振り返ってみて,食道疾患に対する内視鏡診断と治療の発展は著しい.私が研修医のころは,門脈圧亢進症と食道静脈瘤硬化療法が学会の主題セッションの花形であった.その後,内視鏡的硬化療法が確立され,またEVL(endoscopic variceal ligation)の登場により,内視鏡治療が一般的となり,従来の外科手術(食道離断術やShunt手術)はほとんど行われなくなった.
 一方,食道がんの診断と治療においても大きな進歩があった.早期がんの概念が確立され,早期がんの拾い上げ診断もIEE(image enhanced endoscopy)の登場により容易となった.またIEEと拡大内視鏡が組み合わされることで,拡大内視鏡診断学も確立されていった.この食道扁平上皮がんに対する診断学は,咽頭病変の診断にも広がっていった.そして食道では扁平上皮癌から,Barrett食道がんの診断にも広がりをみせた.治療においては,早期がんは,内視鏡治療が当たり前となった.ここでEMR(endoscopic mucosal resection)の登場から,ESD(endoscopic submucosal dissection)の開発,保険収載の功績は大きい.ここでも従来の外科手術(食道癌根治術や食道抜去術)が,内視鏡治療へと置き換わった.
 さて食道アカラシアの治療においては,従来はバルーン拡張術か,あるいは腹腔鏡下Heller-Dor法が標準であった.2008年にPOEM(per-oral endoscopic myotomy)の第1例が日本で行われた.その後,先進医療から,保険収載となり,POEMガイドラインも発表された.そして現在では,世界的にも標準治療となった.
 このPOEMから派生したものに,POET(per-oral endoscopic tumor resection)がある.固有筋層由来の平滑筋腫などは従来は胸腔鏡下での外科的切除術が行われていたが,4cm未満であれば内視鏡での治療が可能となった.POEM中の筋層生検から,好酸球性食道“筋”炎の発見にも展開した.
 GERD(gastroesophageal reflux disease)に対する最新の内視鏡的治療として,ESD-G(endoscopic submucosal dissection for GERD)とARMS/ARMA(antireflux mucosectomy/antireflux mucosal ablation)がある.いずれの治療法も人工潰瘍の瘢痕治癒過程を応用した治療法である.またGERDに対する簡便な内視鏡による診断法として,EPSIS(endoscopic pressure study integrated system)がある.CO2送気による負荷テストであり,食道および噴門の運動機能を評価する.
 本特集では,「アカラシア関連」,「GERD関連」,「咽頭・食道がん関連」と3つの主題別に,専門家の先生方に執筆いただいた.このように内視鏡治療の進歩は,従来は外科手術として行われていた治療を,低侵襲治療へと導いている.最新の進歩についてのご理解が深まれば幸いである.

井上晴洋
昭和大学江東豊洲病院消化器センター センター長・教授


<目次>

1-1. 食道アカラシアの内視鏡診断/南 ひとみ,井上晴洋
1-2. 食道アカラシアに対する内視鏡治療 ―POEM,その全国集計およびガイドラインなどから―/塩飽洋生,岡田浩樹,林 貴臣,塩飽晃生,長谷川 傑
1-3. Submucosal endoscopy ―POET, POEM+F―/年森明子,井上晴洋
1-4. 好酸球性食道炎 ―疾患概念から治療の最前線―/佐藤裕樹,水野研一,橋本 哲,横山純二,本間 照,寺井崇二
2-1. GERDの診断 ―内視鏡と24時間pH-impedance―/星野慎太朗,川見典之,岩切勝彦
2-2. GERDに対する新しい内視鏡診断/島村勇人,井上晴洋
2-3. GERDに対する内視鏡治療 ―ESD-G(endoscopic submucosal dissection for GERD)を中心に―/太田和寛,竹内利寿
2-4. GERDに対する新しい内視鏡治療 ―ARMS/ARMA―/田邊万葉,井上晴洋
3-1. 咽頭表在癌に対する内視鏡診断/堅田親利,加納孝一,細野浩史,一戸昌明,山下 拓,田邉 聡,小泉和三郎
3-2. 咽頭表在癌に対する内視鏡治療の最先端/阿部清一郎,野中 哲,小田一郎,小林謙也,斎藤 豊
3-3. 食道表在癌の内視鏡診断 ―扁平上皮癌・Barrett腺癌―/郷田憲一
3-4. 食道表在癌に対する内視鏡治療/脇 幸太郎,石原 立

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