消化器内科 発売日・バックナンバー

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4,400円
特集●B型肝炎患者の長期予後とC型肝炎の残された課題
企画編集/茶山一彰(広島大学大学院医系科学研究科 消化器・代謝内科学 教授)

<特集にあたって>

 B型,C型肝炎ウイルス感染は,肝硬変,肝細胞癌につながる重要な感染症である.しかし,患者の高齢化,新しい治療の開発により,疫学的な状況は顕著に変化してきている.これらのウイルスによる肝疾患に関する治療は,ここ数年間で劇的に変化した.とくにC型肝炎では,治療薬の改良により高率にウイルスの排除が可能となってきている.
 抗ウイルス活性が高い薬剤にはprotease inhibitor,NS5A inhibitor,polymerase inhibitorの3種類があり,いずれも複数の薬剤のコンビネーションにより治療される.これはRNAウイルスの特徴として変異を起こしやすく,耐性を生じやすいC型肝炎ウイルスの薬剤耐性獲得に対する対策である.最近の薬剤は耐性が極めて生じにくく,しかもすべてのgenotypeに使用可能であり,治療期間も慢性肝炎では8週間まで短縮されてきている.さらに,腎疾患など合併症のある症例や非代償性肝硬変でも,ウイルスを排除することが可能になった.
 このような治療により,少数の例外的な症例を除いて,日本ではほぼすべての治療例でウイルスの排除が得られるようになった.C型肝炎ウイルスが排除されれば,肝外症状として表れていた疾患も改善する症例があることも明らかになってきた.しかし,一度ウイルスが排除されても,麻薬系薬剤の不正使用による再感染,再々感染はまだ起きる可能性もあり,海外では患者がむしろ増加している国もある.また,とくにアジア,アフリカなどの後進国ではまれなgenotypeが存在し,抗ウイルス薬による治療の効果が十分に評価されていないものがあり,国際的には今後の課題であると考えられている.近い将来,地域によってはeliminationが達成されると考えられるが,海外との交流の活発化によるウイルスの流入にも注意を払っておく必要がある.さらに,ウイルス排除後に肝細胞癌を発症する症例もあるので,癌の発症を見落とさないようにする必要がある.
 B型肝炎に対しては,peg-interferonの注射による治療と,核酸アナログによる治療が行われている.前者による治療は週1回の注射を48週行い,肝炎の沈静化とウイルスの増殖抑制がみられるが,良好な効果がみられる症例は20%程度であり,発熱,関節痛,鬱症状といった副作用もある.一方,核酸アナログ製剤の内服によりウイルスの増殖を抑制し,肝炎の沈静化を得ることはほぼ確実にできるようになった.最近の薬剤は耐性が生じにくく,副作用も軽減されたものが発売されている.しかし,まれにみられる耐性ウイルスの出現,副作用による腎障害,骨軟化症などに対する注意が必要である.患者の不用意な薬剤の中断による急性増悪の可能性もあるので,治療に当たっては十分説明し,良好なコンプライアンスの重要性に対する理解を得ておく必要がある.また,ウイルスが減少し,肝炎が沈静化しても,肝細胞癌発癌のリスクは消えるわけではないので,油断せずに画像診断などを定期的に実施する必要がある.AFP,PIVKA IIといった腫瘍マーカーも診療のモニターには有用であるが,早期発見には画像診断のほうが明らかに優れている.
 今回の特集では,これらウイルス性肝炎の治療について最新の情報を提供しており,この特集を読めばB型,C型肝炎の治療の概略が理解でき,どのような視点で患者を診療すればよいかが理解できる.本特集が一般医科の日常診療に役立つことを期待している.

茶山一彰
広島大学大学院医系科学研究科 消化器・代謝内科学 教授


<目次>

1. わが国における肝炎ウイルス感染の実態と今後の見通し/田中純子,永島慎太郎,山本周子
2-1. 初回治療 C型慢性肝炎に対する薬物治療/髭 修平,中島知明
2-2. 初回治療 genotype1,2以外に対する薬物治療/宮瀬志保,藤山重俊
2-3. 初回治療 代償性肝硬変に対する治療/早川優香,黒崎雅之
3. DAA再治療によるC型慢性肝炎,代償性肝硬変の治療/高口浩一
4. 薬剤耐性変異と難治例の治療/内田義人,持田 智
5. 合併症のある症例に対する治療選択―肝不全,腎不全を有する症例の治療について―/厚川正則
6. ウイルスの排除と肝外病変の変化/森 奈美
7. C型肝炎ウイルス排除後の肝発癌/長沖祐子,今村道雄,相方 浩,茶山一彰
8. C型肝炎による発癌のリスク因子/三木大樹,茶山一彰
9. B型肝炎のインターフェロン治療/鈴木文孝
10. B型肝炎の核酸アナログによる治療/保坂哲也
11. B型肝炎のAdd on therapy,switching therapy/松本晶博
4,400円
特集●消化器領域におけるIgG4関連疾患
企画編集/神澤輝実(がん・感染症センター都立駒込病院 院長)


<特集にあたって>

 自己免疫性膵炎は,ステロイドが奏効し発症機序に何らかの自己免疫現象の関与が示唆される膵炎として,1995年に日本から世界に発信された.その膵臓は,リンパ球と形質細胞の密な浸潤と線維化(花筵状線維化)および閉塞性静脈炎を示すlymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis(LPSP)と呼ばれる特徴的な病理組織像を呈した.その後2001年には,自己免疫性膵炎患者では高率に血中IgG4値が上昇することが報告された.我々は自己免疫性膵炎患者にしばしば見られる胆管狭窄,涙腺・唾液腺腫大や後腹膜腫瘤などの病理組織像が膵臓と同じであり,さらに自己免疫性膵炎患者の全身諸臓器に多数のIgG4陽性形質細胞浸潤を認めたことなどから,IgG4が関連した全身性疾患(IgG4関連疾患)という新しい疾患概念を2003年に提唱した.
 自己免疫性膵炎は,現在IgG4関連疾患の膵病変と考えられている.高齢の男性に多く発症し,他のIgG4関連疾患をしばしば合併する.2018年には自己免疫性膵炎患者の血清から分離したIgG4やIgG1に膵組織障害性があり,対応抗原は自身の膵臓に存在するlaminin 511という細胞外マトリックスであること,自己免疫性膵炎患者の51%で抗laminin 511抗体が陽性であったことが報告された.しかし,自然免疫の関与も含め病因・病態はいまだ十分には解明されていない.自己免疫性膵炎は腫瘤を形成することより診療当初は膵臓癌を疑われることが多く,鑑別が必要である.
 診断は,CTやMRI等による膵腫大と,内視鏡的逆行性膵管造影(ERP)による主膵管の不整狭細像,高IgG4血症,膵臓の病理所見,膵外病変(硬化性胆管炎,涙腺・唾液腺炎,後腹膜線維症,腎病変)とステロイド治療の効果の組み合わせで行われる.診断基準は,2018年に4回目の改訂が行われた.近年は,超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診(EUS-FNA)による病理学的鑑別診断の役割が大きくなっている.治療はステロイドが奏効し,経口プレドニゾロンが第1選択薬である.しかし,ステロイド減量中や中止後に30~40%の例が再燃するので,再燃予防にプレドニゾロン 5 mg/日程度の維持療法を1~3年程行うことが多い.再燃例では,ステロイドの増量や再投与が行われるが,欧米では免疫抑制剤やリツキシマブの投与がなされ好成績が報告されている.再燃を繰り返す例では膵石の形成が起こることがあり,また膵臓癌の合併も報告され,長期予後は不明である.
 IgG関連硬化性胆管炎は,高率に自己免疫性膵炎に合併し,IgG4関連疾患の胆管病変と考えられている.下部胆管狭窄を呈する例が多いが,肝門部胆管や肝内胆管狭窄例では胆管癌や原発性硬化性胆管炎との鑑別が問題となる.胆管癌との鑑別のために胆管生検や細胞診は必要であるが,IgG4関連硬化性胆管炎の病変は胆管上皮下に存在するため,胆管生検による確定診断は困難なことが多い.IgG4関連硬化性胆管炎では,対称性で平滑な内側縁の胆管壁肥厚像を胆管狭窄部のみだけではなく胆管非狭窄部においても広範囲に認めることが特徴である.この所見は,超音波内視鏡検査(EUS)や管腔内超音波検査(IDUS)により詳細に観察でき,胆管癌との鑑別診断に有用である.自己免疫性膵炎を合併しないIgG4関連硬化性胆管炎単独例は,胆管癌との鑑別が特に難しく,ステロイドトライアルによるステロイドの効果判定により診断する例もある.これらをまとめたIgG4関連硬化性胆管炎診療ガイドラインが2019年に世界で初めて作成された.
 その他の消化器領域のIgG4関連疾患としては,IgG4関連自己免疫性肝炎,IgG4関連胆嚢炎,IgG4関連消化管病変が挙げられる.本号では,これらの5つの消化器領域のIgG4関連疾患について特集する.

神澤輝実
がん・感染症センター都立駒込病院 院長


<目次>

1. IgG4関連疾患と血中IgG4値/濱野英明
2. 自己免疫性膵炎の疫学/菊田和宏,菅野 敦,正宗 淳
3. 自己免疫性膵炎の病因と病態/岡崎和一,池浦 司,内田一茂
4. 自己免疫性膵炎とIgG4関連硬化性胆管炎の病理/福嶋敬宜
5. 自己免疫性膵炎臨床診断基準の改訂―自己免疫性膵炎臨床診断基準2018の解説―/川 茂幸
6. 自己免疫性膵炎の画像診断/井上 大,戸島史仁,小森隆弘,出雲崎 晃,蒲田敏文
7. IgG4関連硬化性胆管炎診療ガイドライン/神澤輝実,中沢貴宏
8. IgG4関連硬化性胆管炎の診断/内藤 格,中沢貴宏,大原弘隆
9. 自己免疫性膵炎とIgG4関連硬化性胆管炎の治療/窪田賢輔,栗田裕介,高木由理
10. 自己免疫性膵炎とIgG4関連硬化性胆管炎の長期予後/田原純子,清水京子
11. IgG4関連自己免疫性肝炎/梅村武司
12. IgG4関連疾患における胆嚢病変―IgG4関連胆嚢炎―/西野隆義,濱野徹也
13. IgG4関連消化管病変/能登原憲司
4,400円
特集●ピロリ菌除菌後胃がん
企画編集/上村直実(国立国際医療研究センター国府台病院 名誉院長/東京医科大学消化器内視鏡学講座 兼任教授)


<特集にあたって>

 1983年にHelicobacter pylori(ピロリ菌)が発見されて以来,世界中でピロリ菌感染と胃がんの関連について研究された結果,ピロリ菌感染による胃粘膜の炎症が胃がんの最大要因であることが明らかとなり,ピロリ菌未感染の胃粘膜に胃がんが発生することは極めて稀であることも判明している.実際,若年者における感染率の急激な低下に伴って,ピロリ菌感染が深く関与する胃潰瘍や十二指腸潰瘍およびスキルスのような若年者胃がんが著明に減少する反面,ピロリ未感染者に多くみられる胃食道逆流症(gastro esophageal refl ux disease:GERD)が増加するといった,疾病構造の変化が顕著になっている.このような状況から,一般臨床の現場でも上部消化管疾患を診療する際には,ピロリ菌感染の有無を考慮することが必須となっている.
 一方,除菌治療に関しては,保険適用になった2000年からピロリ菌感染に対する関心が急速に高まったことと併行して「除菌による胃がんの予防効果」が注目されるようになった.しかし,除菌後の胃粘膜は未感染胃とは異なり胃がんのリスクが残っており,除菌による胃がん予防効果が不完全であることが明らかとなったことから,感染率が高く留まっている高齢者の胃がんと除菌成功後にみられる除菌後胃がんに対する対策が喫緊の課題となっている.
 とくに除菌後胃がんは医療機関において除菌に成功した患者であり,臨床現場で極めて重要な問題と思われる.一般の消化器診療において,迷ったり困ったりしている除菌後胃がんに関する素朴な疑問に対してわかりやすく応えることができればという気持ちで,今回の特集『ピロリ菌除菌後胃がん』を企画した.すなわち,次に示している質問や要望に対して,適切に回答いただける方に執筆をお願いした次第である.
・除菌に成功した胃粘膜に胃がんが発生する頻度は減るものと期待しているが,どの程度減るのか? 疫学のエビデンスがあるのか知りたい.
・除菌後の短期予後だけでなく長期的な予後はどの程度判明しているのか? どのくらい経過すれば安心できる?
・除菌後は除菌前と比較して胃粘膜が別人のようになるといわれているが,除菌後に新たにみられる具体的な病変ないしは内視鏡所見を知りたい.
・除菌後の経過観察中に胃がんを早く発見するための注意点を教えてもらいたい.
・NBIやFICEなどの画像強調内視鏡は,除菌後胃がんを早期発見するために有用なのか? どのように使うのかを教えてほしい.
・除菌後胃がんの発生しやすい胃粘膜の特徴はあるのか? 具体的に教えてほしい.
・除菌後では,胃粘膜上皮の変化で早期胃がんが周囲の健常粘膜と比べて目立たなくなるというのは本当か? 詳細な機序を知りたい.
・除菌の最大の目的は胃がん死を予防することであるが,進行がんで発見される症例も散見される.その多くは分化型胃がんではなく未分化型胃がんであるようだが,浸潤傾向を有する早期胃がん,未分化型胃がん,進行がん症例の臨床的経過および内視鏡的な特徴を知りたい.さらに実際の症例を教えてほしい.
・胃がん検診受診者にも除菌後の方が多くなっていると思うが,検診における除菌後症例に対する取り扱いや除菌後胃がんに対する取り組みを教えてほしい.
・胃がんに関する遺伝子変異と除菌後胃がんの関連は? 胃がんの発生に深く関わるメチル化の異常などの遺伝子変異と除菌後胃がんの関連について教えていただきたい.
 以上,各領域におけるエキスパートに執筆をお願いした本特集が,除菌胃がん死を撲滅するために明日から臨床の場でお役に立てるものになることを祈念しています.

上村直実
国立国際医療研究センター国府台病院 名誉院長/東京医科大学消化器内視鏡学講座 兼任教授


<目次>

1. ピロリ菌除菌後胃がんの疫学/菊地正悟
2. 胃がん発症に関する除菌後の長期予後/福田昌英,村上和成
3. 除菌後に新たに出現する胃粘膜所見について/鎌田智有
4. 除菌後胃がん発見のための注意点/加藤元嗣,松田宗一郎,津田桃子,久保公利
5. 除菌後胃がんの通常内視鏡およびNBI内視鏡での診断のコツ/八木一芳,寺井崇二
6. 除菌後新たに出現する胃粘膜凹凸不整変化は,胃がん拾い上げ内視鏡診断を困難にする―腺窩上皮過形成変化について―/山﨑琢士,千葉井基泰
7. 除菌後胃がんの表層粘膜の特徴と内視鏡所見/伊藤公訓,田中信治,茶山一彰
8. 除菌後の未分化型胃がんの特徴と内視鏡所見/兒玉雅明,沖本忠義,水上一弘,安部高志,村上和成
9. 除菌後に発見される胃浸潤がんの特徴/小林正明,盛田景介,青栁智也,栗田 聡,塩路和彦
10. 除菌後進行胃がんに関する注意点/藤崎順子,並河 健,中野 薫
11. 除菌後に発見される進行胃がんの特徴/矢田智之
12. 対策型胃がん検診におけるピロリ菌除菌後胃がんに対する対策と課題/加藤勝章,千葉隆士,只野敏浩,渋谷大助
13. 除菌後胃がん発生と遺伝子異常/牛島俊和,山下 聡,竹内千尋
4,400円
特集●食道疾患を見落とすな!―内視鏡検査時に食道疾患を見落とさないために―
企画編集/木下芳一(社会医療法人 製鉄記念広畑病院 病院長/地域医療連携推進法人 はりま姫路総合医療センター整備推進機構 理事長)

<特集にあたって>

 ヘリコバクター・ピロリ感染率の急速な減少に伴い,胃十二指腸潰瘍は激減し,胃癌も減少する兆しが明確となってきた.従来,上部消化管の内視鏡検査は胃カメラ検査と呼びならわされていたように,胃や十二指腸疾患を主な対象として行われてきた.ところが,近年食道癌の増加に加えて,逆流性食道炎の増加とこれに伴うBarrett食道とBarrett食道癌の増加が明確となり,上部消化管の内視鏡検査における食道観察の重要性が高まっている.
 食道には形成異常,炎症,腫瘍,機能障害に分類されるcervical inlet patch,憩室症,逆流性食道炎,好酸球性食道炎,真菌性・細菌性・ウイルス性感染症,種々の良性腫瘍,癌,肉腫,アカラシアなどの運動異常,天疱瘡などの全身性疾患に伴う異常などが起こりうる.これらの疾患は自覚症状を伴わないこともあるが,胸焼け,嚥下障害,胸痛,咽喉頭部異常感などの食道病変に起因すると考えられる症状を伴うことも多い.このため,自覚症状を有する患者の内視鏡検査時はもちろん,自覚症状がない患者でも食道病変の存在には十分な注意を払い,内視鏡検査を行うことが必要である.
 従来から食道扁平上皮癌と逆流性食道炎に関しては多くの情報提供が行われ,食道内をNBIモードなどの画像強調モードでも観察したり,食道胃移行部の観察に注意をすることの重要性が内視鏡医に広く認識されている.ところが,好酸球性食道炎やアカラシアの内視鏡像の特徴はそれほどは知られてはいない.また,嚥下障害の原因となりやすいesophageal intramural pseudo-diverticulosisの内視鏡像に精通した消化器科医は少ない.天疱瘡,ベーチェット病,顆粒細胞腫,サイトメガロウイルス感染症などの特徴も広く知られているとは言い難い.
 病変の特徴を知っていないと,内視鏡検査時に特徴が見えていても診断をすることができないだけではなく,病変の存在すら認識することができないこともめずらしくない.現在,私達のところでは2週間に1人程度の好酸球性食道炎の新たな患者さんが見つかるが,内視鏡担当医が好酸球性食道炎の内視鏡所見に精通するまでは,発見される好酸球性食道炎は5,000件の内視鏡検査にわずか1件であった.存在しうる病変の特徴を認識し,そのような異常が食道内に存在するかもしれないことを予見しつつ内視鏡検査を行うことが正確な診断へと結びつく.
 そこで,本特集では癌や逆流性食道炎の特徴を解説していただくことに加えて,確定診断は生検組織診断で行われる好酸球性食道炎を疑う内視鏡所見,確定診断は食道内圧検査で行われるアカラシアを疑う内視鏡所見,さらに普段の診療では見る頻度が低い各種の食道疾患,全身疾患の食道病変の特徴をつぶさに解説していただいた.また,cervical inlet patchは従来臨床的意義が低いと無視されることが多かったが,咽喉頭部異常感・球症状と関連しうることが最近報告されており,内視鏡治療の対象とする報告もみられている.このため,自覚症状がある患者の内視鏡検査ではcervical inlet patchにも注意を払うことが必要であるが,これについても解説をしていただいた.
 食道の内視鏡検査の安全性は高く,経鼻内視鏡検査で行えば検査に伴う苦痛も軽減すると考えられる.ところが,高齢化社会となった現在では循環器,呼吸器疾患を中心にさまざまな疾患を有しながら内視鏡検査を受検する患者が多く,その多くは多種の薬剤を常用している.このような患者に対しても安全に内視鏡検査が行えるように配慮をすることの重要性がますます大きくなっている.
 本特集では食道に病変を作りうる疾患の発症高リスク患者を知り,自覚症状の特徴から存在する可能性のある病変を予測して内視鏡検査を安全に快適に行い,食道癌や逆流性食道炎に加えて,好酸球性食道炎などの最近増加の著しい疾患,臨床的意義が明確になりつつあり無視することができなくなった疾患,比較的まれであるが早期に診断すれば治療方針が変わってくる疾患の,内視鏡診断を適切に行うためのコツをまとめていただいた.
 本書を内視鏡室に永く置いていただき,何度も読み返していただければ幸いである.

木下芳一
社会医療法人 製鉄記念広畑病院 病院長/地域医療連携推進法人 はりま姫路総合医療センター整備推進機構 理事長


<目次>

特集にあたって/木下芳一
1. 内視鏡検査を始める前に ―内視鏡検査だってリスクはある―/大内佐智子
2. 経鼻内視鏡を行う場合 ―鼻腔,咽頭,食道―/駒澤慶憲,結城美佳
3. 逆流性食道炎 ―軽症逆流性食道炎を見逃すな―/山口 隼,河合 隆,内田久美子,福澤誠克,糸井隆夫
4. 逆流性食道炎の裏に隠れた疾患 ―逆流性食道炎はこの疾患のサイン―/竹田 努,浅岡大介,永原章仁
5. 頸部食道inlet patch ―咽喉頭部不快感,球症状の隠れた原因?―/石村典久,柴垣広太郎
6. Barrett食道,食道癌 ―発癌リスクの高いBarrett食道の見分け方―/小泉重仁,飯島克則
7. 好酸球性食道炎 ―意外に多い疾患.ここに注意をすればよい―/足立経一,野津 巧,三代知子
8. アカラシア ―内視鏡検査時にここに注意すれば軽症を見逃さない―/星川吉正,星野慎太朗,川見典之,岩切勝彦
9. 食道憩室症 ―憩室だって見逃されている―/相見正史
10. 食道扁平上皮癌 ―高リスクグループの判定から微細診断まで―/有馬美和子,都宮美華,剛崎有加
11. 食道感染症 ―食道の感染症はここに注目すればわかる―/林 克平,永見康明,丸山紘嗣,藤原靖弘
12. 食道のまれな腫瘍性疾患 ―食道にできる腫瘍にはこんな特徴がある―/吉田 亮,藤井政至,池淵雄一郎,村脇義之,河口剛一郎,八島一夫,磯本 一
13. 全身性疾患の現れとしての食道疾患 ―こんな異常を見たらこの全身性疾患を疑う―/小笠原尚高,春日井邦夫
4,400円
特集●慢性便秘症診療ガイドライン時代の便秘診療
企画編集/中島 淳(横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授)

<特集にあたって>

 わが国は未曽有の高齢化社会を迎えており,高齢化に伴い便秘患者も増加の一途をたどっている.これまで便秘=QOL低下の病気と捉えられてきたが,近年のエビデンスで便秘患者は明らかに生命予後が悪いことが明らかになってきた.とくに排便時の怒責はイベントトリガーと呼ばれ,心血管イベントの引き金になることが周知されるようになった.また,慢性呼吸器疾患では排便時の低酸素発作が問題となり,慢性腎臓病では便秘がその進展増悪のリスク因子であることが明らかにされ,腸腎連関として注目されている.
 便秘はあらゆる診療科の医師が診なければならず,その対処に苦慮することも少なくない.パーキンソン病や精神疾患,妊婦などでは便秘は必発といってよいだろう.また高齢化を背景に,これまであまり注目されることのなかった直腸肛門障害の患者も増加してきている.このように全診療科横断的な疾患である便秘の難治例を,一手に引き受けなければならないのが消化器内科医である.
 現状では,大腸内視鏡をすることで器質性疾患の除外までは,世界先端レベルの医療レベルが担保されているといってよい.ただし,内視鏡で異常がなかった場合,次にどう鑑別して治療すべきかは甚だ心配な状況である.これまでは治療薬も乏しく放置されておかれたことが多かったが,近年エビデンスレベルの高い新薬が続々わが国で発売になり,状況は一変した.消化器内科医は,便秘の診療に精通すべき状況になったわけである.
 慢性便秘患者の診たては複雑で難しく,治療は一筋縄ではいかない.しかし,便秘診療は奥が深い.まずどうやって診断するかも,検査方法としての武器が少ない.治療薬は豊富になったが,その長所短所はまだわからない部分が多い.たかが便秘されど便秘といった状況だろうか.
 本企画はこのような状況を鑑み,消化器内科専門医として最低限知っておきたい最新の知識をピックアップして,第一線の執筆者による解説を試みたものである.必ずや,明日からの消化器内診療に資するものと確信している.

中島 淳
横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授


<目次>

特集にあたって/中島 淳
1. なぜ,便秘症を治療するのか-慢性便秘の治療の意義-/千葉俊美
2. 便秘症の病態-正常の排便生理から異常病態まで-/眞部紀明,春間 賢
3. 便秘症診断のポイントと便秘症の分類/秋穂裕唯
4. 慢性便秘症における生活習慣の改善/山本貴嗣
5. 慢性便秘症の既存治療とその問題点-酸化マグネシウムと刺激性下剤-/水上 健
6-1. 慢性便秘症の治療 ルビプロストン/江口考明
6-2. 慢性便秘症の治療 エロビキシバット/尾髙健夫
6-3. 慢性便秘症の治療 リナクロチド/山本さゆり,舟木 康,小笠原尚高,佐々木誠人,春日井邦夫
7. 緩和領域における便秘治療-ナルデメジンの効果を中心に-/川崎 俊,東口髙志
8. 難治性便秘の診断と治療-STC,megacolon,CIPOなど-/三澤 昇,大久保秀則,中島 淳
9. 便排出障害の治療-バイオフィードバック療法など-/安部達也
10. 便秘治療のアルゴリズム/中島 淳,結束貴臣,大久保秀則
4,400円
特集●『胃炎の京都分類』の使い方
企画編集/春間 賢(川崎医科大学総合医療センター 総合内科学2 特任教授)

<特集にあたって>

 胃炎診断の歴史は剖検胃や手術胃の肉眼的,病理組織学的観察に始まり,胃鏡検査が行われるようになると,生きた胃粘膜を直接観察できるようになり,大きく進歩した.さらに,吸引生検による生きた胃粘膜の組織学的観察,内視鏡下に目的部位の胃生検が可能となると,内視鏡所見と病理所見の対比が積極的に行われるようになった.胃の内視鏡検査の最も重要な目的は胃癌の早期診断であり,多くの早期胃癌が発見されるとともに,その発生母地となる胃粘膜,すなわち,萎縮性胃炎と腸上皮化生が注目されるようになる.
 胃炎の歴史を語る場合,Schindlerの胃鏡分類,萎縮性胃炎の木村・竹本分類,さらに,Updated Sydney分類は極めて重要である.Schindlerの分類は簡潔であり,木村・竹本分類は胃体部の萎縮性胃炎を評価するうえで,欠かすことのできない項目となっている.Updated Sydney分類は,内視鏡検査で詳細な胃粘膜の観察をして詳細な胃炎分類を行っていた我々にとって,黒船の到来であった.胃炎の局在性という考え方,組織所見のスケール,さらに,内視鏡所見の分類である.世界に遅れまいと多くの施設でUpdated Sydney分類が取り入れられ,実臨床の場で,臨床研究の場で胃炎の評価に用いられた.実際に使用してみるとしっくりくる所と,日本の胃炎診断の場に則しない所が明らかになった.そこで,これまでの日本の胃炎分類を継承し,Helicobacter pylori(H. pylori)感染を考慮した,現在の胃炎診断の実診療に則するように作成されたのが「胃炎の京都分類」である.
 「胃炎の京都分類」は日常診療において,H. pylori感染の診断だけでなく,H. pylori除菌後の胃粘膜の診断,さらに,胃癌のリスク評価に重要な位置を占めるようになっている.これまで,「胃炎の京都分類」は著書として初版が作成され,さらに改訂第2版として昨年度に出版されている.「胃炎の京都分類」を内視鏡室あるいは診察室に置き,日々の診療で使用されている先生も多いと思われる.「胃炎の京都分類」ではH. pylori現感染,除菌後,未感染と3つのカテゴリーに分け,多くの内視鏡所見が記載されているが,本特集号では,正常胃粘膜の診断と胃炎を内視鏡所見から診断するコツから始まり,H. pylori感染胃炎を診断するうえで重要な所見である萎縮,発赤,粘膜腫脹,粘膜ひだの変化,結節性変化,黄色腫,腸上皮化生の7つの所見を重点的に取り上げ,豊富な内視鏡所見とともに,専門家による診断のポイントと臨床的意義を記述している.さらに,最近多くなってきた除菌後の胃粘膜の画像診断と,胃癌のリスク評価について,また,残胃胃炎の診断についても取り上げている.特集号の最後では,「胃炎の京都分類」の最も活用される胃がん検診と,多忙な実地医療の場でどこまで臨床的な意義を持って「胃炎の京都分類」を使用できるのか,実際に使用した評価と問題点を取り上げている.ぜひ,熟読頂きたい一冊である.

春間 賢
川崎医科大学総合医療センター 総合内科学2 特任教授


<目次>
特集にあたって/春間 賢
1. 内視鏡で観察される正常の胃粘膜とは?/春間 賢・末廣満彦・鎌田智有・井上和彦
2. 胃炎を診断するコツ/鎌田智有
3-1. 重要な所見「萎縮」/丸山保彦
3-2. 重要な所見「発赤」/寺尾秀一・鈴木志保
3-3. 重要な所見「粘膜腫脹」/加藤元嗣・松田宗一郎・津田桃子・久保公利・間部克裕
3-4. 重要な所見「粘膜ひだの変化」/中村 純・末廣満彦・河本博文・春間 賢
3-5. 重要な所見「結節性変化」/安田 貢
3-6. 重要な所見「胃黄色腫」/北村晋志
3-7. 重要な所見「腸上皮化生」/伊藤公訓・小刀崇弘・田中信治・茶山一彰
4. 除菌後の胃粘膜/沖本忠義・村上和成
5. 胃癌のリスク評価/井上和彦
6. 残胃胃炎の見方/野村幸世
7. 胃がん検診における胃炎の京都分類の使い方/水野元夫
8. 実地医療現場における胃炎の京都分類/田﨑修平

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近年の医療の進歩は著しく、消化器内科領域においても高度かつ専門的な診療が求められています。患者さんに最良の医療を提供するためには、最新で確かな技術と知識を用いて診断と治療を行うことが不可欠です。本誌は、消化器疾患の診断の要となる画像もフルカラーで美しく鮮明なまま多数掲載し、臨場感あふれる誌面を実現します。さらに第一線で活躍する医師や専門家による企画編集・執筆で、臨床に直結する今最も知りたい知識と情報を読者の皆さまに毎号お届けします。

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