判例時報 発売日・バックナンバー

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◆記 事◆

海外判例研究──第19回──

◆憲法

公共の場所で寝泊まりすることを禁止する条例はホームレスという存在を罰するがゆえに残虐な刑罰を禁止する修正8条を侵害するか
──グランツパス市対ジョンソン判決……大林 啓吾

大統領の行為が刑事免責を受けるかどうかが争われた事件──トランプ対合衆国判決……大林 啓吾

コンテンツ内容を規制するプラットフォーマーの基準が憲法修正1条に違反するかどうかを判断するためには、「プラットフォーマーが独自の言論を行っているのか」という判断基準が必要であり、さらに事実審理が必要であるとして差し戻された事例……ダン ローゼン・西口 元

◆民法

建設工事の未払い代金に関する請負人の優先弁済権が認められた事件……胡 光輝

◆消費者法

EUでの欠陥製造物に関する責任追及において、表示製造者への該当性について、消費者保護の必要性から、積極的な表示行為を要することなく結果として自己の名前が製造物上に表示されているだけでも足りるとされた事例……カライスコス アントニオス

◆刑法

不作為による危険傷害罪……山下 裕樹

ステルシング(Stealthing)の可罰性……菊地 一樹

マネー・ローンダリング罪の主観的要件と公正な裁判……澁谷 洋平


◆判決録細目◆

民 事

◯建設業等を営む会社が、業務委託先の会社の従業員に自社の車両を運転させていたところ、当該従業員が自損事故を起こしたとして、当該従業員に不法行為に基づく損害賠償請求をした事案において、賠償を請求することができる範囲を信義則に基づいて制限した事例
(東京高判令6・5・22〈参考原審:東京地立川支判令5・6・27〉)


▽1 希少性の高いクラシック・カーの通常の損害としての必要かつ相当な修理方法として、損傷部位の部分塗装の範囲で修理費用を認めた事例
 2 損傷部位と非損傷部位の塗装状態に生じ得る差も踏まえ評価損として修理費用の5割相当を認めた事例
(東京地判令5・2・14)

▽町立病院の医師が、児童相談所長から児童虐待に関する情報提供を求められて回答したところ、保護者の精神疾患に関する診断等の記載について名誉感情侵害が成立するとされ、医師の不法行為責任及び町の使用者責任の成立が認められた事例
(東京地判令5・5・23)

▽特定適格消費者団体が原告となって提起した共通義務確認訴訟において、米国ニューヨーク市で開催予定の合唱フェスティバルが新型コロナウイルス感染症の影響により延期されたことで、同フェスティバルの主催者の演奏参加費を支払った対象消費者に対する債務が履行不能となり、同主催者が演奏参加費相当額を法律上の原因なく利得したと判断した事例
(東京地判令6・8・23)


▽一棟の建物として登記された建物のある専有部分の所有者による当該専有部分の取壊しが、当該建物が建物の区分所有等に関する法律1条にいう一棟の建物に当たり、その工事の対象に共用部分が含まれるとして、許されないとされた事例
(東京地判令6・2・28)

▽妻である被告との離婚を実現させるために婚姻費用分担金の支払をすることなく兵糧攻めともいうべき振る舞いを続けた原告が有責配偶者に当たるとして、原告の離婚請求を棄却した事例
(東京家判令4・4・28)

▽別荘地の分譲を受けるに当たり締結が義務付けられた、分譲地所有者を委任者とし、管理者を受任者とする分譲地の管理等を目的とする管理契約につき、受任者の利益のための契約とはいえないとして、委任者からの解除の効力を肯定した事例
(静岡地沼津支判令7・1・9)

▽映像等の証拠から養護学校の教員による生徒に対する暴行を認定するとともに、他の教員らが同暴行を制止しなかったことによる安全配慮義務違反及び校長の安全配慮義務違反を認めた事例
(名古屋地判令6・1・30)


商 事

▽弁護士資格を有する取締役が、重過失により買収対象会社の財務状況の調査等を怠ったとして、対象会社の債務を連帯保証し代位弁済を余儀なくされた者(買収会社の代表取締役)に対して、会社法429条1項に基づき損害賠償責任を負うとされた事例
(東京地判令6・4・9)


刑 事

◎強要未遂罪の成立を認めた第1審判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるとした原判決に、刑事訴訟法382条の解釈適用を誤った違法があるとされた事例
(最一判令5・9・11)


◆判例評論◆

9 全部勝訴した原告が直接主義違反を理由とする控訴を提起することの許否
(最二判令5・3・24)……伊東 俊明

10 当事者間の合意に基づく養育費の支払を求める場合には、民事訴訟によるべきであるとした事例
(東京高決令5・5・25)……浦谷 知絵
◆記 事◆

裁判員裁判と控訴審
――裁判員裁判による第1審判決に対する事実審査の在り方と事実誤認事例の取扱いを中心に――…山田 耕司


◆書評◆

仲谷栄一郎『本と出会う本』(弘文堂、2024)
評者…加藤新太郎


◆判決録細目◆

民 事

〇当時3歳2か月の児童のホットドッグの誤嚥事故に関し市立保育所の管理職員の職務上の注意義務違反が認められた事例
(東京高判令6・9・26〈参考原審:東京地判令4・10・26本誌2592・77〉)

〇雇用主(会社)が全役員及び従業員を被保険者として加入した傷害総合保険契約に基づき、従業員に保険事故が発生したことによって雇用主が保険会社から受領した保険金は、当該従業員に引き渡さなければならないとされた事例
(大阪高判令5・4・14〈参考原審:神戸地社支判令4・10・11〉)

▽児童相談所長のした一時保護中の児童と同児童の父母の面会及び通信を全て制限した処分、同児童に対する児童相談所の職員らの措置等に関し、国家賠償法上の違法は認められないとした事例
(東京地判令6・4・19)

▽労働組合が行ったビラ配布及び街宣活動が、原告の名誉権、肖像権及び私生活上の平穏を侵害し、正当な組合活動として違法性が阻却されないなどとして、原告の損害賠償請求を一部認容した事例
(東京地判令5・6・14)

▽生産物賠償責任保険の保険者らが、エアバッグ・インフレータの不具合に起因する事故の被害者に対する損害賠償責任に係る保険金の支払義務を負うものとは認められないとされた事例
(東京地判令6・4・25)

▽小学生の女児が当時の担任教諭から給食を完食するように強要されて精神的苦痛を被ったとして国家賠償法に基づく損害賠償請求を一部認容した事例
(さいたま地判令5・10・25)


労 働

▽従業員が過重な業務に従事したことにより心停止(心臓性突然死)を発症して死亡したことにつき、会社の安全配慮義務違反を認め、素因減額及び損益相殺により会社が賠償すべき損害額を算定し、請求を一部認容した事例
(宮崎地判令6・5・15)


刑 事

◎公訴事実記載の事実の存在を認定した上で、被告事件が罪とならないときに当たるとして無罪とした第1審判決を法令適用の誤りを理由に破棄し、事実の取調べをすることなく公訴事実と同旨の犯罪事実を認定して有罪の自判をした原判決が、刑事訴訟法400条ただし書に違反しないとされた事例
(最一決令5・6・20)
◆記 事◆

再審請求事件の審理…今井 輝幸


◆判決録細目◆

民 事

〇同僚や上司からパワーハラスメントやセクシャルハラスメントを受け、うつ病を発症し、自殺未遂をした刑務所職員が、国に対し損害賠償を請求した事案につき、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求及び債務不履行(安全配慮義務違反)による損害賠償請求が一部認容された事例
(高松高判令4・8・30〈参考原審:徳島地判令2・4・5〉)

▽子と同居する妻が単独で行った子ども・子育て支援法に基づく教育・保育給付認定申請に対し、子と別居する夫が「保護者」に該当しないとの判断を前提に市が教育・保育給付認定をしたことに違法性はないとして、夫の市に対する国家賠償請求を棄却した事例
(東京地判令5・9・29)

▽子を胎児認知していた者が子は自分とは別の男性の嫡出子であることが明らかになった旨を主張して胎児認知無効確認請求をしたことが権利の濫用に当たるとされた事例
(東京家判令5・3・23)

▽被相続人の養子を申立人とし被相続人の配偶者と実子を相手方とする遺産分割の事件において、配偶者が遺産に属する建物への配偶者居住権の取得を希望したところ、その生活を維持するために特に必要があるとして、配偶者による上記配偶者居住権の取得が認められた事例
(福岡家審令5・6・14)


知的財産権

▽将棋の指し手の表示を含む動画についての動画配信プラットフォーム運営事業者に対する著作権侵害の申告行為が、不正競争防止法2条1項21号にいう不正競争にあたるとした事例
(大阪地判令6・1・16)

▽同一特許及び同一製品に係る特許権侵害差止等請求事件及び仮処分命令申立事件が並行審理された場合において、いわゆるレビュー期日における侵害論の心証開示後に、仮処分認容決定が発令された事例
(東京地決令6・9・20)


商 事

◎1 株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡の譲渡当事者間における効力
 2  株券発行会社の株式の譲受人が民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)423条1項本文により譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使することの可否
(最二判令6・4・19)


労 働

▽長期間にわたる自宅待機命令が実質的な退職勧奨であるとして不法行為の成立が認められた一方、その後の懲戒解雇が有効とされた事例
(東京地判令6・4・24)

▽正社員に対しては寒冷地手当を支給する一方で時給制契約社員に対してはこれを支給しないという労働条件の相違が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされた事例
(東京地判令5・7・20)


刑 事

◎いわゆるキャッシュカードすり替え型の窃盗罪につき実行の着手があるとされた事例
(最三決令4・2・14)

▽特定少年である少年が薬物を移動させるなどして共犯者による薬物の営利目的所持を幇助した覚醒剤取締法違反幇助、大麻取締法違反幇助保護事件において、刑事処分を相当と認めて検察官送致とした事例
(さいたま家決令6・4・19)

▽覚醒剤使用の故意が認められないとして不処分決定がされた少年本人に対する少年補償事件において、少年自身の行為によって覚醒剤を摂取したこと等を踏まえると、非行事実につき身体拘束を受けた帰責事由は専ら少年にあり、補償の必要性を失わせる特別の事情がある場合に該当するとして、補償を認めなかった事例
(大阪家決令6・2・13)


◆最新判例批評◆

6 会社法144条2項に基づく譲渡制限株式の売買価格決定手続においてDCF法によって算定された評価額から非流動性ディスカウントを行うことができるとされた事例
(最三決令5・5・24)…星  明男

7 他人の物の非占有者が業務上占有者と共謀して横領した場合における非占有者に対する公訴時効の期間
(最一判令4・6・9)…金子  博

8 倉庫火災原因者に対する倉庫所有者による損害賠償請求事件──倉庫所有者の法令違反による「因果関係の中断」は、なぜ認められなかったのか
(東京高判令6・2・8)…加藤 雅信
◆記 事◆

行政裁量論再訪(『争訟制度と行政法学』余滴)
―過程の統制・審査の強度と密度、裁判所の「社会観念」…高橋  滋


◆判決録◆

行 政

▽生活扶助に関する基準の引下げ等を内容とする「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号)の改定が生活保護法3条、8条2項の規定に違反して違法であるとされた事例
(東京地判令6・6・13)


民 事

▽日本の裁判所が管轄権を有する外国法人に対する請求と主観的併合の関係にある請求のうち、当該法人の法人格の否認を主張する請求に係る訴えについて、民事訴訟法3条の6により日本の裁判所の管轄権を認めた一方、同法3条の9により却下した事例
(東京地判令6・3・25)


知的財産権

▽一話完結形式の連載小説に登場するキャラクターは著作権法2条1項1号にいう著作物に当たらないとされた事例
(東京地判令5・12・7)


労 働

▽私立大学において専門業務型裁量労働制を採用する就業規則の改正をしたことについて、その前提となる労使協定を締結した労働者が適格性を有する過半数代表者とは認められないことから同改正は無効となり、専門業務型裁量労働制及びこれを前提とした休日及び深夜勤務の許可制を適用することが違法となるなどとした事例
(松山地判令5・12・20)


刑 事

▽弁護人が提出した主に2つの新証拠のうち、1つはそれと対応する旧証拠の信用性を減殺せず、他の1つを踏まえても確定審の認定には合理的な疑いを生じないとして、再審請求を棄却した事例──飯塚事件第2次再審請求第1審決定
(福岡地決令6・6・5)

▽特定少年である少年が、16歳未満であり、かつ、少年より5歳以上年少である被害者と性交した不同意性交等保護事件等において、刑事処分以外の措置を相当と認め、少年を第1種少年院に送致し、収容期間を2年間とした事例
(東京家決令6・9・4)
◆判決録細目◆

行 政

◎1 「被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う厚生年金保険の保険給付等に関する経過措置に関する政令」(平成27年政令第343号)50条にいう「施行日前から引き続き当該被保険者の資格を有するもの」の意義
 2 被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成24年法律第63号)〔令和2年法律第40号による改正前のもの〕附則17条2項において準用される同附則15条3項(「被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律及び地方公務員等共済組合法及び被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律の一部を改正する法律の施行に伴う地方公務員等共済組合法による長期給付等に関する経過措置に関する政令」(平成27年政令第347号)〔令和3年政令第229号による改正前のもの〕36条1項による読替え後のもの)にいう「施行日前から引き続き改正後厚生年金保険法第27条に規定する被保険者…であるもの」の意義
(最二判令6・9・13)

◎国民年金法等の一部を改正する法律等の一部を改正する法律(平成24年法律第99号)1条の規定のうち、国民年金法による年金たる給付等の額の計算に関する経過措置、平成25年度及び平成26年度における国民年金法による年金たる給付等の額の計算に関する経過措置の特例並びに平成25年度における厚生年金保険法による年金たる保険給付の額の計算に関する経過措置の特例について定める部分と憲法25条、29条
(最二判令5・12・15)


民 事

◎地方住宅供給公社が賃貸する住宅の使用関係と借地借家法32条1項の適用の有無
(最一判令6・6・24)

〇1 刑務所長が、自弁物品の直接購入を制限したことについて、合理的な理由がないにもかかわらず漫然と違法な購入制限を設けたとして、国家賠償法上違法であるとした事例
 2 刑務所長が、書籍及び雑誌類の差入冊数について、差入人1人当たり1日1回まで、1回につき3冊以内であった従前の取扱いを変更して、差入人1人当たり1月1回まで、1回につき3冊以内としたことが、合理的な理由がないにもかかわらず漫然と数量制限を設けたとして、国家賠償法上違法であるとした事例
(東京高判令6・2・15〈参考原審:宇都宮地栃木支判令5・3・29〉)


知的財産権

▽ファイル共有ソフトにおけるネットワークに参加しているピアがファイルの一部を所持していることを確認するUNCHOKEの通信は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律5条1項にいう権利の侵害を構成するものとはいえないとされた事例
(東京地判令6・3・14)

▽先発医薬品に係る特許権者等がパテントリンケージにおいて先発医薬品に係る特許と後発医薬品との特許抵触がある旨の虚偽の回答をする行為は、パテントリンケージの趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものと認められる特段の事情がある場合には、競争関係にある後発医薬品の製造販売承認を申請する者の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知するものとして、不正競争防止法2条1項21号に掲げる不正競争に該当するとした事例
(東京地決令6・10・28)


刑 事

▽特定少年である少年が、カッターナイフを示して現金を強取した事案において、刑事処分以外の措置を相当と認め、少年を第1種少年院に送致し、収容期間を3年間とした事例
(東京家決令6・5・16)


◆最新判例批評◆

3 少年保護事件を題材として家庭裁判所調査官が執筆した論文を雑誌及び書籍において公表した行為がプライバシーの侵害として不法行為法上違法とはいえないとされた事例
(最二判令2・10・9)…根本 尚徳

4 マンション建築工事の注文者がその敷地を譲渡する行為は、請負人の注文者に対する請負代金債権を侵害する不法行為に当たらないとされた事例
(最一判令5・10・23)…森田 修

5 捜査機関による押収処分を受けた者の還付請求が権利の濫用として許されないとされた事例
(最一決令4・7・27)…滝沢 誠
◆記 事◆

判例時報誌の判例紹介雑誌としての今日的役割等…田山 輝明


判例時報誌への期待…神田 秀樹


◆判決録◆

民 事

〇間接交流を認めた原審判を取り消し、試行的面会交流の実施を積極的に検討し、その結果をも踏まえて直接交流の可否等を検討させるべく、事件を原審に差し戻した事例
(東京高決令5・11・30〈参考原審:さいたま家川越支審令4・4・28〉)

▽同一の当事者間で基本契約を締結せずになされた複数回の金銭授受につき、当該取引が金銭消費貸借取引に当たり、利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金を、その後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるとした事例
(東京地判令5・8・18)

▽独立行政法人が設置運営する船員養成学校の航海実習中に、生徒が船上で体調不良を訴えた後に急変して死亡したことについて、船上で治療に当たった看護長ら及び当該独立行政法人の過失が否定され、国家賠償責任はないとされた事例
(横浜地判令6・2・14)

▽労働者災害補償保険の認定に関して、労働基準監督署の担当者が作成した給付調査復命書のうち関係者からの聴取内容が引用された部分等について、「その提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」(民事訴訟法220条4号ロ)とはいえないとして、文書提出命令申立てが一部認容された事例
(大阪地決令5・9・27)

▽被告が運営する施設を利用していた当時7歳の重度知的障害を有する児童の死亡事故に関し、被告の使用者責任を認め、児童の基礎収入を賃金センサスの全労働者平均賃金の5割相当額として死亡逸失利益を算定し、児童の両親の損害賠償請求を一部認容した事例
(山口地判令5・12・20)

▽性別変更に「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」を求める性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号の規定が憲法13条に反し違憲無効とされ、性別の取扱いの変更申立てが認容された事例
(岡山家津山支審令6・2・7)


商 事

◎1 退任取締役の退職慰労金について内規に従って決定することを取締役会に一任する旨の株主総会決議がされた場合に、上記退任取締役に対し上記内規の定める基準額から減額した退職慰労金を支給する旨の取締役会決議に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとはいえないとされた事例(①事件)
 2 民事事件の訴訟記録に係る閲覧等の制限の申立てについての却下決定に補足意見が付された事例(②事件)
(①最一判令6・7・8、②最一決令6・7・8)


労 働

〇1 入社1年目のAが自殺したことについて、その母である控訴人に対し労働者災害補償保険法に基づく遺族補償一時金を不支給とした処分行政庁の処分を適法として控訴人の請求を棄却した1審判決を取り消し、同不支給処分を違法として取り消した事例
 2 上司のパワーハラスメントによる心理的負荷が「中」に該当することをベースとして、前記Aが主担当とされた業務の1つで新入社員にとって難易度が高く、適切な指導や助言等がされていなかった業務による心理的負荷が「強」に、他の業務による心理的負荷が「中」に該当することを総合考慮すると、Aが業務により受けた心理的負荷の程度は全体的評価としても「強」に該当するから、Aの精神障害の発病及びこれによる自殺には業務起因性が認められるとした事例
(名古屋高判令5・4・25〈参考原審:名古屋地判令3・10・11〉)

▽前訴において業務起因性が認められず請求を棄却された原告が、同一の事故により別の傷病を発症したとして労働者災害補償保険法上の療養補償給付を再度請求し、その不支給決定の取消しを求めた事案で、前訴と同様の理由により請求が棄却された事例
(さいたま地判令5・9・6)


刑 事

〇少年が物の損壊や暴力等を行ったことから将来罪を犯すおそれがあるとされたぐ犯保護事件において、少年の問題性の根深さ等を指摘し、家裁継続歴がないことを考慮しても第1種少年院送致が相当とした原決定について、抗告を棄却した事例
(東京高決令5・1・19)

▽2年の保護観察を受けた本人が傷害事件を起こしたこと及び届出住居に居住しなかったことについて、遵守事項違反の程度が重く、このまま保護観察を継続しても本人の改善更生を図ることができないと認めて、本人を第5種少年院に収容した事例
(静岡家決令6・4・4)
◆記 事◆

公共財としての判例の役割と検証
―新時代の判例紹介誌に何が求められるか―……伊藤  眞

『判例時報』の大改訂に寄せて……野坂 泰司


◆判決録◆

行 政

▽旅券法13条1項1号に該当することを理由としてされた外務大臣の一般旅券の発給拒否処分が、外務大臣の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してしたものとして違法であるとされた事例
(東京地判令6・1・25)


民 事

〇中国に居住する元妻(原審申立人)が日本に住所を有する元夫(原審相手方)に対し、当事者間の子の養育費の支払を求め、原審判が、準拠法である中国法において法的効力が認められている最高人民法院による司法解釈に関する意見書に基づいて養育費を算定することは相当でないとして、日本における算定方法を参考にして養育費を算定したのに対し、上記意見書に基づいて養育費を算定するのが相当であるとした上で、結論において原審判は相当であるとして抗告を棄却した事例
(東京高決令4・9・8〈参考原審:横浜家小田原支審令4・4・28〉)

▽1 二重瞼形成手術について術後の左右瞼の外観の非対称性が問題となった損害賠償請求において、手技上の注意義務違反又は債務不履行があったと認められるためには、少なくとも、同手術によって形成された左右瞼の外観が、一般人から見て、対称性について違和感をもつ程度に至っていると認められることが必要であるとされた事例
 2 二重瞼形成手術の手技上の注意義務違反及び説明義務違反が否定された事例
(東京地判令5・10・2) 

▽インターネット上のニュースサイトが報じたニュース記事等のコメント投稿欄に投稿されたコメントが、当該ニュース記事等において報道対象となった者の名誉感情を侵害するものであるとして、慰謝料、発信者情報開示手続費用等の損害賠償責任を認めた事例
(名古屋地判令5・3・30)

▽1 閉塞性細気管支炎を示す病変は発見されなかったが、その原因となる爆発事故の際に発生した有毒ガスの吸引、病状や診療経過等の間接事実から同疾患の発症を認定し、同事故と原告の同疾患との因果関係を肯定した事例
 2 国立大学法人の教員について、国家賠償法が適用されるとして、民法上の責任を負わないとされた事例
(旭川地判令6・3・1)


労 働

〇東海道新幹線の運転士による年次有給休暇の請求に対する使用者がした時季変更権の行使が適法とされた事例
(東京高判令6・2・28〈参考原審:東京地判令5・3・27〉)

▽1 組合員らが組合活動を行う目的で有給休暇を取得し、その後欠勤に変更する処理を扱っていたことを理由としてされた労働組合の書記長に対する懲戒解雇処分につき、懲戒解雇事由該当性を否定し、無効とした事例
 2 労働組合の書記長に対する懲戒解雇処分が不当労働行為に該当するとして、使用者である株式会社及びその代表取締役に対する損害賠償責任を認めた事例
(函館地判令5・10・24)


知的財産権

▽1 芸能プロダクションが所属タレントの肖像写真をホームページに掲載した行為がパブリシティ権を侵害しないとされた事例
 2 人の肖像を無断で使用する行為が肖像権を侵害するものとして不法行為法上違法となる場合
(東京地判令5・12・11)


刑 事

〇原審公判廷で宣告された判決主文と異なる主文を記載した判決書を作成した原審の訴訟手続が、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反を構成するとされた事例
(福岡高判令6・9・3)

▽被害者が自死を企図して被告人が自動車で走行する車線に飛び出してきた可能性を否定できない事案において、過失運転致死罪を否定し、被告人に無罪を言い渡した事例
(札幌地判令6・1・23)


◆最新判例批評◆

1 番号利用法に基づく個人情報の収集・保管・利用又は提供には、憲法13条との関係で問題がないとされた事例
(最一判令5・3・9)……實原 隆志

2 いわゆる弁済受領文書の提出による強制執行の停止の期間中にされた執行処分の効力
(最一判令5・3・2)……今津 綾子
◆第7回判例時報賞 奨励賞受賞論文◆
連帯債務と債務発生原因……西内 康人


◆判例特報◆

〇確定判決が請求人の犯人性を認める根拠とした関係者らの供述について、新旧証拠の総合評価によれば、関係者の1人が、本件に関する情報提供をすることで自らの刑事事件における量刑の軽減等の不当な利益を得ようと、請求人が犯人であるとの虚偽の供述をし、捜査に行き詰まった捜査機関において、他の関係者らに対して前記虚偽の供述に基づく誘導等の不当な働きかけを行い、他の関係者らも迎合した結果、前記虚偽の供述に沿う関係者らの供述が形成された疑いが払拭できないとして、関係者らの供述の信用性を否定し、確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じたとして、再審開始を認めた事例
──福井女子中学生殺人事件第2次再審請求事件・再審開始決定
(名古屋高裁金沢支決令6・10・23)

◎参考論文
 福井女子中学生殺人事件・第2次再審請求における主張立証と再審開始決定の概要
 (証拠開示が再審開始の決め手となった事例)……福井女子中学生殺人事件弁護団

 福井女子中学生殺人事件第2次再審請求事件の再審開始決定の意義……村岡 啓一


◆判決録◆

行 政

◎租税特別措置法施行令(平成28年政令第159号による改正前のもの)39条の117第8項5号括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険」の意義
(最一判令6・7・18)

◎労働保険の保険料の徴収等に関する法律(令和2年法律第14号による改正前のもの)12条3項所定の事業についてされた業務災害に関する保険給付の支給決定の取消訴訟と事業主の原告適格
(最一判令6・7・4)


民 事

◎1 宗教法人とその信者との間において締結された不起訴の合意が公序良俗に反し無効であるとされた事例
 2 宗教法人の信者らによる献金の勧誘が不法行為法上違法であるとはいえないとした原審の判断に違法があるとされた事例
(最一判令6・7・11)

▽宗教法人が、その運営する墓地を使用する檀徒に対して行った墓地使用許可の取消処分につき、墓地使用規則上の取消事由が認められないとして、墓地使用権を有することの確認を求める檀徒からの請求が認められた事例
(東京地判令5・6・12)

▽マンションの敷地の一部が崩落し、直下の市道を通行していた者が崩落に巻き込まれ死亡した事故について、通行人との関係で、マンションの管理会社及び同会社の従業員に本件事故の発生を防止する義務の違反があるとして不法行為責任を認めた事例
(横浜地判令5・12・15)


知的財産権

▽「エンリケ」という名称等の使用がパブリシティ権を侵害するとされた事例
(東京地判令5・11・30)


労 働

▽1 配転命令の要件として事前の労使間協議を定めた労働協約の成立を認め、労使間協議を経ていない配転命令を無効とした事例
 2 組合員らに対する配転命令が不当労働行為に該当するとして、使用者である株式会社及びその代表取締役に対する損害賠償責任を認めた事例
(函館地判令5・10・24)


刑 事

〇特定少年である少年が友人に大麻を譲渡したという大麻取締法違反保護事件において、少年を第1種少年院に送致し、収容期間を2年間と定めた原決定について、処分の著しい不当を理由とする抗告を棄却した事例
(東京高決令5・7・4)

〇特定少年である少年が、共犯者と共謀の上、大麻を所持したという大麻取締法違反保護事件において、収容期間を2年間として第1種少年院に送致した原決定について、処分が著しく不当であるとして、これを取り消した事例
(東京高決令6・2・28)

〇迷惑行為防止条例違反保護事件において、非行事実を認定する旨等を審判期日で少年らに告知した後に審判開始決定の取消決定をし、さらに、審判不開始決定(保護的措置)をしたという事案における同決定に対する抗告について、申立てが不適法であるとして抗告を棄却した事例
(福岡高決令5・8・18)
◆記 事◆

許可抗告事件の実情
─令和5年度─……岡崎 克彦・今西 和樹

裁量基準の適用違法(3)
─合理的裁量基準の不合理な適用・矯正行政の実務を踏まえて─……常岡 孝好


◆判決録細目◆

民 事

〇未成年者について一時保護が開始され、その後も未成年者が抗告人の下に戻る見通しが立っていないこと等を踏まえて、離婚判決の主文のうち、相手方の養育費支払義務を定める部分を、養育費減額審判申立日以降分について取り消した事例
(東京高決令4・12・15〈参考原審:横浜家審令4・8・26〉)

▽長時間労働等により精神疾患を発症し自殺した公立中学校教員の遺族が校長の安全配慮義務違反等を主張して学校設置者である被告に損害賠償(国家賠償)請求した事案について、遺族の請求を認容した事例
(水戸地下妻支判令6・2・14)

▽電源を入れた状態でスロットルを回し、ペダルをこぐことなく、モーターの動力のみにより走行する方法、電源を入れた状態で、スロットルを回さずにペダルをこぎ、モーターの動力による補助を受けながら走行する方法及び電源を切った状態で、モーターに頼ることなく、ペダルをこぐことで走行する方法の各走行方法による走行が可能なペダル付きの原動機付自転車(いわゆるモペット)は、原動力がもっぱら人力であるものには当たらないから、個人賠償責任保険約款の免責の対象となる「車両」に当たり、その所有、使用又は管理に起因する賠償責任の負担に係る損害については、保険金支払の対象外となるとされた事例
(大阪地判令5・12・14)


知的財産権

▽発信者が著作物にリンクするURLを送信した行為が、情報の流通によって原告の著作権の侵害を直接的にもたらしているものと認めることはできず、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律5条1項にいう権利の侵害に当たらないとされた事例
(東京地判令6・1・18)


労 働

〇職場における孤立防止義務違反を認めて損害賠償を命じた原判決に対し、原審での当事者の主張の中に孤立防止義務違反の主張はなく、仮に当審で新たに主張をしたものと解してもその内容は抽象的なものにすぎない上、事案に照らして孤立防止義務違反は認められないとした事例
(東京高判令5・6・28〈参考原審:千葉地判令4・3・29〉)


◆判例評論◆

27 一事不再理効の時間的範囲
(最一決令3・6・28)……関口 和徳

28 2022(令和4)年参議院議員通常選挙と違憲状態判断
(最大判令5・10・18)……淺野 博宣

29 1 職員の退職手当に関する条例(昭和28年宮城県条例第70号。令和1年宮城県条例第51号による改正前のもの)12条1項1号の規定により一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分の適否に関する裁判所の審査
  2 職員の退職手当に関する条例(昭和28年宮城県条例第70号。令和1年宮城県条例第51号による改正前のもの)12条1項1号の規定により公立学校教員を退職した者に対してされた一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分に係る県の教育委員会の判断が、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとはいえないとされた事例
(最三判令5・6・27)……弘中  章
◆判決録細目◆

行 政

▽県が保有している旧優生保護法下での優生手術に関する公文書一式に係る情報公開請求についてされた公文書一部不開示決定に違法があるとして、不開示部分の一部取消と取消部分に係る公開の義務付けなどを求めた訴えについて、優生手術対象者の職業及び就労の状況に関する情報、出生及び異性関係情報、遺伝情報、親族等の意向に関する情報及び医師個人の氏名に関する情報について非公開事由があるが、その余の情報について非公開事由が認められないと判断した事例
(大津地判令5・3・24)


民 事

◎嫡出でない子は、生物学的な女性に自己の精子で当該子を懐胎させた者に対し、その者の法令の規定の適用の前提となる性別にかかわらず、認知を求めることができるか(積極)
(最二判令6・6・21)

〇弁護士が控訴審において依頼者の意向を確認しないまま和解の意向がない旨の記載のある照会兼回答書を提出したことが委任契約上の善管義務違反に当たるとした事例
(大阪高判令5・5・25〈参考原審:大阪地判令4・9・20〉)


知的財産権

▽「牧野日本植物圖鑑」という書籍の題号が不正競争防止法2条1項1号、2号にいう「商品等表示」に該当しないとされた事例
(東京地判令6・7・8)

▽ある投稿における匿名の人物が、原告と面識がある又は原告に関する知識を有する者によって原告であると同定され、その者が特定少数であってもこれを流布するおそれがあるとして、原告の名誉を毀損するものとされた事例
(東京地判令6・7・18)
◆判決録細目◆

行 政

▽消費者庁の実施した機能性表示食品に係る検証事業の成果物である検証報告書に対する開示請求に対する一部不開示決定について、その不開示部分のうち一部につき行政機関の保有する情報の公開に関する法律上の不開示情報該当性を否定し、不開示情報に該当するとされたものについてもうち一部については部分開示義務があるとして一部を取り消し、その開示を義務付けた事例
(東京地判令4・10・4)


民 事

◎相続回復請求の相手方である表見相続人は、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、当該真正相続人が相続した財産の所有権を時効により取得することができるか(積極)
(最三判令6・3・19)

〇区分所有建物の共用部分の瑕疵を原因として生じた漏水事故に関して、区分所有者の1人が、区分所有者全員で構成される当該建物の管理組合に対し、損害賠償債務の履行を求めることはできないとされた事例
(東京高判令5・9・27〈参考原審:東京地判令4・12・27本誌2591号21頁〉)

▽親の名義で開設された普通預金口座及び定期預金口座に入金された金員の帰属を巡り、その預金者が誰かが争われた事案において、預金者は名義人と異なり、その子であると認定された事例
(東京地判令5・7・18)

▽破産者に対する配当について、破産管財人が税務署に対する照会の回答に従って源泉徴収をしなかったことが善管注意義務に違反したとはいえず、また、自然人たる破産者の所得税について確定申告義務を負うものでもないとされた事例
(東京地判令5・10・18)

▽職場の休憩室において、約4か月間に20回程度、1回当たり3時間程度、他の人に気付かれない位置に録音機を設置して無断で録音した会話が違法収集証拠として排除された事例
(大阪地判令5・12・7)

▽介護施設を利用していた高齢者が利用中に食物を誤嚥して窒息死した事件につき、当該介護施設の職員に誤嚥防止義務違反があるとして、当該介護施設の運営者の使用者責任が肯定された事例
(広島地判令5・11・6)


労 働

▽1 リモートワークで業務に従事していた従業員に対して使用者が出社を命じたところ、この出社命令には業務上の必要性が認められないとしてその有効性が否定され、出社命令後の期間について民法536条2項に基づき賃金請求が認められた事例
 2 リモートワーク期間中の所定労働時間外労働による割増賃金請求(本訴請求)及び同期間中の不就労時間に係る賃金の返還請求(反訴請求)について、労働時間、不就労時間のいずれについても立証が不十分であるとして請求が棄却された事例
(東京地判令4・11・16)

▽業務中に追突事故に遭った労働者の右肩腱板不全断裂について、業務起因性が肯定された事例
(東京地判令5・3・17)


刑 事

◎農地の売買契約が締結されたが、譲受人の委託に基づき第三者の名義を用いて農地法所定の許可が取得され、当該第三者に所有権移転登記が経由された場合において、当該第三者が当該土地を不法に領得したときの横領罪の成否
(最二判令4・4・18)

◎債権譲渡の対価としてされた金銭の交付が貸金業法2条1項と出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律5条3項にいう「貸付け」に当たるとされた事例
(最三決令5・2・20)
◆記 事◆

裁量基準の適用違法(2)
─合理的裁量基準の不合理な適用・矯正行政の実務を踏まえて─……常岡 孝好

◆判決録細目◆

行 政

▽1 訴訟上の和解条項に基づき分割金の支払が履行されたことにより残債務が免除された場合に、その債務免除による利益が一時所得として所得税の課税対象となるとされた事例
 2 訴訟上の和解条項に基づく分割金の支払中に債務者に相続が発生した場合に、分割金の支払が履行された場合に免除される残債務について、相続税の課税においては消極財産として扱われなかった場合であっても、その後分割金の支払が履行された場合の債務免除による利益を一時所得として所得税の課税対象としたことが二重課税の排除(所得税法9条1項16号〔令和3年法律第11号による改正前のもの〕)の趣旨に反しないとされた事例
 3 訴訟上の和解に向けて支出された弁護士費用等が、同和解の条項に基づく分割金支払義務履行時の残債務の免除による利益について、「その収入を得るために支出した金額」(所得税法34条2項)に該当するものとして所得税課税において一時所得から控除することができるとされた事例
(東京地判令5・3・14)


民 事

▽換金可能と謳ったポイント商品を販売したものの、事情変更による改定を認める規約を根拠に換金停止措置をとった事業者について、前記規約による改定の効力を否定し、換金停止期間中はポイントの有効期間も進行しないとして、顧客からの換金請求を認容した事例
(東京地判令5・9・4)

▽中学生2名が同じクラスの生徒に対して悪口などのいじめを繰り返した行為につきそれぞれ不法行為に該当するとされた一方で、被害生徒の両親が加害生徒1名に対して行ったヒアリング行為が不法行為に該当するとはいえないとされた事例
(東京地判令5・10・30)


労 働

▽日本人客室乗務員とオランダの航空会社との間で日本法を準拠法として締結された有期労働契約の効力について、法の適用に関する通則法12条1項によりオランダ法の強行規定が適用された結果、無期転換が認められた事例
(東京地判令5・3・27)


知的財産権

▽1 子供用椅子「TRIPP TRAPP」の原告主張に係る商品形態が商品等表示に該当しないとされた事例
 2 被告製品の製造販売等が子供用椅子「TRIPP TRAPP」を複製又は翻案するものではないとされた事例
(東京地判令5・9・28)


◆判例評論◆

25 えい児の死体を段ボール箱に二重に入れて接着テープで封をし、自室の棚の上に置いた行為が、刑法190条にいう「遺棄」に当たらないとされた事例
(最二判令5・3・24)……萩野 貴史


26 墓地、埋葬等に関する法律10条の規定により大阪市長がした納骨堂の経営等に係る許可の取消訴訟と納骨堂の周辺住民の原告適格
(最三判令5・5・9)……田近 肇
◆記 事◆

実務と学説からみた憲法訴訟(12)
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項4号生殖腺手術要件最高裁憲法13条違反決定について…本多 広高

「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」と憲法判断の方法
―最大決令和5年10月25日を主たる検討対象として―…青井 未帆


◆判決録細目◆

行 政

〇1 児童相談所長が、児童虐待の防止等に関する法律12条1項によらずに、一時保護中の児童の保護者に対して、事実上の強制によって当該児童との面会を制限することは、児童が一時保護されていることによる内在的制約による場合(保護施設の人的・物的態勢に起因して面会の時間や場所が一定の制限を受ける等)又は面会をさせることによって児童の安全や福祉が侵害される具体的なおそれがあり、面会を求めることが権利濫用に該当する場合等を除き、国家賠償法1条1項の適用上違法となる(①事件)
 2 親権者等により一時保護に基づく児童に対する措置を不当に妨げる行為が現に行われ、又は行われると認められるために監護等の措置をとることが必要な場合には、児童相談所長は、児童虐待の防止等に関する法律12条1項によらずに、児童福祉法33条の2第2項に基づき、必要かつ相当と認められる範囲で、親権者等の意に反して、監護等の措置と一体のものとして児童との面会通信を制限することが許される(②事件)
(①大阪高判令5・8・30〈参考原審:大阪地判令4・3・24本誌2567号5頁〉、②大阪高判令5・12・15〈参考原審:大阪地判令5・4・27〉)


民 事

〇被相続人から長男に対する共同住宅及びその敷地の負担付贈与について、贈与時の価額から引受債務の額を控除した額に相当する部分につき特別受益に当たると評価するとともに、長男の同引受債務の完済による寄与分の主張を排斥し、被相続人の長女に対する援助や不動産持分の贈与について持戻免除の意思表示を推認した事案
(東京高決令5・12・7)

〇1 水産業協同組合法18条1項1号所定の要件を満たす者につき、漁業協同組合の組合員資格審査規程所定の新規加入申込者の特例は適用されないとして、組合員たる資格を有するとされた事例
 2 漁業協同組合への加入申込みに対する拒否が不法行為に当たるとして慰謝料請求が認容された事例
(福岡高那覇支判令5・1・31〈参考原審:那覇地沖縄支判令4・2・21〉)

▽インターネット上の投稿について、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律所定の不当な差別的言動に該当する人格権侵害及び名誉感情侵害を認め、不法行為に基づく損害賠償請求を認容した事例
(横浜地川崎支判令5・10・12)

▽契約当事者において契約期間内であっても合意により契約を解除することができる旨の規定は、解除権を放棄するものとはいえないとして、カップルユーチューバーに係る専属マネジメント契約の解除が認められた事例
(東京地判令6・7・8)


労 働

▽従業員の長時間労働による突然死に係る会社及び代表取締役の損害賠償責任がそれぞれ肯定された事例
(東京地判令5・3・23)
◆記 事◆

◎特別寄稿
別荘地管理の法律関係 その2……淺生 重機


◆判決録細目◆

民 事

〇位置指定道路の敷地所有者が隣接地で運送業を営む会社に対して当該位置指定道路の自動車での通行禁止を求めた請求が棄却された事例
(東京高判令4・12・13〈参考原審:東京地立川支判令4・4・22〉)

▽民事訴訟において訴訟代理人を務めた弁護士が、依頼者に対して判決の結果等を報告する義務を怠ったとして、同弁護士及び同弁護士が代表社員を務める弁護士法人の依頼者に対する各損害賠償責任を認めた事例
(東京地判令5・5・10)

▽1 団地建物所有者の団体である管理組合の規約において、区分所有者等が共用部分等において不法行為を行ったときは、管理者たる理事長が、評議員会決議を経て当該管理組合を代表して差止め・原状回復措置の請求に関する訴訟を追行することができ、当該訴訟を提起する場合に請求の相手方に対し弁護士費用等を請求することができる旨定めることは、建物の区分所有等に関する法律の趣旨に反しない
 2 建物の区分所有等に関する法律上の規約に管理組合の行う管理の本旨は居住者の共同利益の増進に努めること等とする旨の定めが存し、業務執行に当たっている管理組合の役員等に対する名誉毀損に該当する文書の配布を内容とする不法行為を対象として前記請求をする場合において、当該不法行為が単なる特定の個人に対する名誉毀損の域を超えないもので、それにより管理組合の業務の遂行や運営に支障が生ずるなどして建物の正常な管理又は使用が阻害されることもないときは、前記請求は、管理組合の管理の本旨に反するものとして許されない
 3 建物の区分所有等に関する法律上の規約に基づく原状回復措置として謝罪文の配布を命じる必要がないと判断された事例
(東京地判令5・5・25)

▽被告がインターネット上に掲載した記事の一部について、真実相当性の抗弁を認めて損害賠償を否定しつつ、同記事の掲載は違法であるとして、その削除を命じた事例
(東京地判令5・12・13)


労 働

▽公立学校教諭が配偶者の名義で開設運営する空手道場の唯一の師範として会員に対して空手の指導を行うなどの活動をしたことが地方公務員の営利企業への従事等の制限(地方公務員法38条1項)等に違反するとしてされた減給処分が適法とされた事例
(名古屋地判令4・9・7)


知的財産権

▽指定国において国内移行手続が行われずに取下擬制がされた国際特許出願に係る発明について、原告が特許を受ける権利を有することの確認を求める訴えが、確認の利益を欠くものとして却下された事例
(東京地判令6・1・22)

▽宗教上の教義である「神示」を出版物に掲載した行為が著作権法32条1項にいう引用に該当するとされた事例
(東京地判令4・12・19)


刑 事

▽1 インターネット上での情報掲示による名誉毀損では、閲覧可能な状態が継続する間は未だ犯罪は終了しないとして掲示開始後3年を経過しても公訴時効が完成せず、掲示終了直後にされた告訴を有効とした事例
 2 危険ドラッグに係る有罪判決の言渡後、短期間経過した時点でその情報を掲示しても違法ではないが、執行猶予期間が満了し、更生に向けた社会生活も進んでいた時期に当該情報の掲示を続けた時点では、その主たる動機が公益目的であったとはいえず違法であり、当該情報を掲示した被告人がその掲示を停止させる等によって情報を閲覧できない状態にする義務があるのにこれを放置した不作為による名誉毀損罪の成立を認めた事例
(さいたま地判令5・8・29)
◆記 事◆

「人質司法」について……西 愛礼

海外判例研究──第18回──
【憲法】
 ・法律が曖昧な場合には行政機関の判断に敬譲するとしたシェブロン法理を覆し、裁判所が自ら法解釈を行うことを示した事例……大林 啓吾

 ・商標制度は勝手に他人の名前を使って商標登録することを認めていないが、それは表現の自由を侵害しないとした事例……大林 啓吾

【民法】
 ・公序良俗違反により賃貸借契約が無効と認められた事件……胡 光輝

【消費者法】
 ・消費者の支払義務が発生することに関する事業者の表示義務……カライスコス アントニオス

【刑法】
 ・医療資源の配分決定における障害者の不利益取扱いの禁止──トリアージ決定……天田 悠

 ・外国政府職員等の刑事裁判権からの事項的免除と人道に対する犯罪としての奴隷化……久保田 隆


「家主による正当防衛」の成立要件……川崎 友巳


◆判決録細目◆

行 政

▽1 LINEを用いたオンラインによる住民票の写し交付請求サービスを提供していた事業者が、国に対し同サービスを適法に行い得る地位にあることの確認を求める当事者訴訟について、確認の利益が認められた例
 2 電子署名及び電子証明書の併用による本人確認以外の方法でオンラインで住民票の写しの交付請求をすることを禁ずることとなる省令改正が、その授権規定である情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律6条1項の委任の範囲を超えるものとは認められないとされた例
(東京地判令4・12・8)


民 事

◎社団たる医療法人の社員が一般社団法人及び一般財団法人に関する法律37条2項の類推適用により裁判所の許可を得て社員総会を招集することの可否
(最三決令6・3・27)

▽選任審判主文に掲げられた案文どおり遺産分割協議を成立させた特別代理人に善管注意義務違反がないとされた事例
(東京地判令5・9・22)

▽東京入国管理局長が行った外国人による在留期間更新許可申請に対する不許可処分につき、国家賠償法1条1項の違法性が認められるとされた事例
(東京地判令5・7・24)


知的財産権

▽YouTubeに投稿された動画の著作者において当該動画によって思想、意見等を伝達する利益が人格的利益として認められないとされた事例
(東京地判令6・2・26)

▽発信者情報開示仮処分命令申立事件に係る申立書類一式をiPhoneで撮影した写真の著作物性が否定された事例
(東京地判令5・7・6)

▽被告標章につき先使用権は認められず、原告の本訴請求は権利濫用にもあたらないとして、商標権に基づく差止等請求が認められた事例
(大阪地判令5・11・30)


刑 事

〇少年が特殊詐欺の受け子をしたとされる詐欺未遂保護事件において、詐欺未遂罪の成立を認定して少年を第2種少年院に送致した原決定につき、詐欺の故意を認めた判断に重大な事実の誤認があるとして、これを取り消した事例
(東京高決令5・9・15)


◆判例評論◆

23 令和2年総務省令第82号の施行前に特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(令和3年法律第27号による改正前のもの)4条1項に基づき前記施行後に発信者の電話番号の開示を請求することの可否
(最二判令5・1・30)……町村 泰貴

24 政務活動費のうちその趣旨、目的に反して支出された金額の返還を求める不当利得返還請求権は、「行政上の便宜を考慮する必要のある公法上の債権」であるとは認められないから、消滅時効期間を民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)167条1項所定の10年と解するのが相当であるとされた事例
(名古屋高金沢支判令5・2・8)……大田 直史
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