MOSTLY CLASSIC(モーストリー・クラシック) 発売日・バックナンバー

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表紙 パーヴォ・ヤルヴォイ指揮 NHK交響楽団

特集
一歩先の学び直し 管弦楽曲

 9月号の「一歩先の学び直し 交響曲」に続く、「一歩先の学び直し」シリーズ第2弾は、「管弦楽曲」です。「18世紀後半の古典派では管弦楽の王道は交響曲であったが、19世紀中葉から管弦楽曲の多様化が始まる」と西原稔・桐朋学園大学教授。管弦楽のジャンルは多岐にわたる。特集では交響詩、変奏曲、組曲、ラプソディー(狂詩曲)、オペラの序曲・間奏曲、ワルツなどに分類して、作曲家や作品を紹介している。
 「『交響詩』というのは、管弦楽によって物語や風景を描いた楽曲のことである」と音楽評論家の佐伯茂樹氏。その表現を突き詰めたのはリヒャルト・シュトラウス。彼の交響詩には「英雄の生涯」「ツアラトゥトラはかく語りき」などがあり、「アルプス交響曲」「家庭交響曲」とタイトル的には交響曲と銘打っていても実質的には交響詩。「彼の手にかかれば、人間の細かい行動はもちろん、自然界のあらゆる事象を管弦楽の音で描かれてしまう。R.シュトラウスの交響詩を聴くことで、ハリウッドの総天然色の映画を観ているような体験ができるのである」と佐伯氏は記している。
 また、ラヴェルやストラヴィンスキーは交響曲でなく優れた管弦楽作品を多く残した。実はストラヴィンスキーの作品1は、チャイコフスキーやグラズノフの影響がうかがえる4楽章の正統派の交響曲だった。しかし、「20世紀の作曲家は旧ソ連を除き、様式至上主義で権威主義的な交響曲を軽んじる傾向もあったが、ストラヴィンスキーは主題を対比して展開させ、頂点に至る形式が自分に向かないことをわかっていた」と元チャイコフスキー博物館学芸員のマリーナ・チュルチェワ氏。
 そして、ディアギレフが率いるバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)のために書かれた「火の鳥」、ロシア民話の不運なキャラクター「ペトルージュカ」、古代異教の宗教儀礼を扱った「春の祭典」という3大傑作が生まれた。バレエ音楽として誕生したが、管弦楽作品としても今日まで演奏され続けている。
 管弦楽曲の演奏を得意とし多くの録音を残した指揮者も取り上げている。スイス・ロマンド管を創設したアンセルメ、フィラデルフィア・サウンドを作り上げたオーマンディ、カラヤン、N響首席パーヴォの父ネーメ・ヤルヴィの4人。それぞれ個性ある音楽を作り上げた。
 他に、◎「ロメオとジュリエット」に付けられた音楽◎エキゾチシズム溢れる音楽 スペイン趣味の音楽とスペインの作曲家◎クラシックと映画の架け橋となった「ファンタジア」◎バッハの管弦楽編曲作品の魅力◎オーケストラ・プレイヤーに聞く演奏が大変な曲は?◎最速のグリンカ「ルスランとリュドミラ」序曲聴き比べ、などです。

◎宮本文昭の気軽に話そう ゲスト 向山佳絵子 チェロ
 6月までNHK交響楽団首席チェロ奏者を務めていた。来年4月には京都市立芸術大学准教授に就任する。同じチェロ仲間の長谷川陽子とプロデュースした「チェロ・コレクション~バッハへのオマージュ」が、11月8日、Hakujuホールで公演される。若手のチェリストとともに出演する。「いつまでも若手の気分でいたけれど、気がついたら下の世代にたくさん素晴らしいチェリストがいますし、先輩からいただいたご恩を、今度は私が若手に伝えたいと思ったのです」と話した。

◎BIGが語る パーヴォ・ヤルヴィ 指揮
 NHK交響楽団首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィは、N響と3シーズン目に入った。今年2,3月にはヨーロッパ・ツアーを成功させ、リヒャルト・シュトラウスの交響詩チクルスのCDも好評だ。今シーズンのプログラムにはシベリウスが入り、来年はバーンスタインの「ウエスト・サイド・ストーリー」を演奏するなどオーケストラのレパートリーを広げている。「ロシア音楽、フランス音楽、そして世界初演を含めた新しい音楽などバラエティー豊かにしていくことが大切だと思っています。これまでのドイツ・ロマン派の流れを続けつつ、レパートリーを広げていきたいと思っています」と話している。

このほか
◎青島広志の「ブルー・アイランド版音楽辞典」
◎外山雄三の「オーケストラと暮らして60年」
◎小山実稚恵の「ピアノと私」
◎「鍵盤の血脈 井口基成」中丸美繪
など、おもしろい連載、記事が満載です。
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表紙 レナード・バーンスタイン

特集
移民文化とアメリカの音楽

 人種のるつぼといわれるアメリカ。さまざまな国からの移民で成り立っている。彼らが持ち込んだ文化を自国流に育んできた。クラシック音楽もその1つ。当初はヨーロッパからの移民が主流だったため、アメリカにおいてもクラシックを聴きたいという欲求は当然のことだ。ニューヨーク・フィルの設立は1842年。ウィーン・フィルが最初の演奏会を行った年と同じである。
 ロシア革命を契機に多くのロシア人がアメリカに渡り、亡命した。ホロヴィッツ、ハイフェッツらはアメリカに移り住み、世界的に活躍することになる。20世紀を代表するピアニスト、ホロヴィッツは1903年、ウクライナ生まれ。28年にアメリカ・デビューをし、40年には定住する。ハイフェッツは1901年、リトアニア生まれ。17年にカーネギーホールにてデビュー。25年にはアメリカの市民権を獲得した。1873年生まれの作曲家ラフマニノフは1918年にアメリカに渡ったが、作曲意欲は減退し、あまり作品を残さなかった。それでも大ピアニストとして活躍した。また、ルービンシュタインは1887年生まれのポーランド人。1906年にアメリカにデビューした。「ルービンシュタインの気さくにファンに接するオープンな人柄、明るく前向きな演奏、幅広いレパートリー、美しいステージでの姿などがアメリカ人の心をとらえた」と音楽評論家の伊熊よし子氏。
 先にあげたニューヨーク・フィルをはじめ、実力と伝統を誇るトップ5のオーケストラを「ビッグ5」と称する。ほかにボストン交響楽団、倒産から立ち直ったフィラデルフィア管弦楽団、ショルティの印象が強いシカゴ交響楽団、セルが鍛え上げたクリ-ヴランド管弦楽団がビッグ5。ボストン響は11月に音楽監督、アンドリス・ネルソンスとともに来日する。来日プログラムはマーラーの交響曲第1番、ショスタコーヴィチの交響曲第11番など。「マーラーは私がボストン響と初めて出会った際に指揮した作曲家です(2011年、第9番を指揮)。バーンスタインが言ったと思うのですが、マーラーは1つ1つの音を演奏するために、100%力を尽くさなくてはいけません」と話している。
 ビッグ5以外、アメリカ50州の主なオーケストラの名前(知名度の高い団体は音楽監督の名前も)を地図とともに掲載している。
 他に、◎アメリカの音楽を豊かにした歌い手たち◎パデレフスキとアメリカ◎ロシアとアメリカ音楽◎アメリカの巨人バーンスタイン◎アメリカで遊飛した小澤征爾◎アメリカのオーケストラの経営・財政、などです。

◎宮本文昭の気軽に話そう ゲスト 中嶋彰子 ソプラノ
 ウィーン・フォルクスオーパーなどで活躍してきた中嶋彰子。いま両親が移住した群馬県で「農楽(のうら)塾」というアカデミーを開いている。歌のレッスンはもちろんだが、合宿をしながら畑や田んぼで農業を行っている、「最初はミミズを見ただけで、帰りたい、なんて泣いちゃう子もいますけれど、何日かいて畑仕事などもしているうち、殻を破れるときが来るのです。人もきっと野菜などと同じで、いい土を作り、耕し、種を蒔き、水や太陽のバランスを考えながら育ててあげることが大事です」と話した。

◎BIGが語る アンドリス・ネルソンス 指揮
 11月に来日公演を行うボストン交響楽団の音楽監督。ボストン響が音楽監督と来日するのは小澤征爾以来18年ぶり。ボストン響は毎夏、タングルウッドでタングルウッド音楽祭を開催している。ネルソンスのインタビューは音楽祭最後の第九公演の翌日行われた。ラトビア生まれで、バーミンガム市立交響楽団音楽監督などを経て、2014年、現在のポストに就いた。また今シーズンからライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の音楽監督も兼務する。「指揮者が要求することのみやればいい、とオーケストラに思わせることは、音楽にはよいことではありません」と話している。

このほか
◎青島広志の「ブルー・アイランド版音楽辞典」
◎外山雄三の「オーケストラと暮らして60年」
◎小山実稚恵の「ピアノと私」
◎「鍵盤の血脈 井口基成」中丸美繪
など、おもしろい連載、記事が満載です。
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表紙 少年時代のモーツァルト

特集
クラシック神童伝説

 将棋の藤井聡太四段は、プロデューから公式戦負けなしで29連勝という最多連勝記録を打ち立てました。まだ中学3年生の15歳(記録当時は14歳)で、「藤井ブーム」を巻き起こしました。彼は将棋界の神童の一人でしょう。
クラシック音楽界にも神童はたくさんいます。世の中は「神童も二十歳過ぎればただの人」という人がほとんどですが、天才ゆえに神童だったという作曲家を代表するのはやはりモーツァルト。驚くべき才能の逸話は多く残されています。3歳で鍵盤から和音を探し当て、5歳で作曲。6歳で皇帝の御前演奏をし、習ったことのないヴァイオリンで弦楽四重奏に参加、つかえずに演奏した、などなど。実際に5歳のときの作品は5曲あります。かつて最初の作品とされていたメヌエット ト長調は8歳のときの作品ですが、バッハ研究家の磯山雅氏は「統一と多様のバランスに風格され漂っている」と評します。モーツァルトにまつわる伝説の数々は、父レオポルドがモーツァルトを姉ナンネルとともにヨーロッパ中を連れ回って宣伝に努めたことでより広まりました。
 ベートーヴェンは一般には大器晩成型の作曲家としてとらえられているのではないでしょうか。1770年生まれのベートーヴェンがピアニストとしてデビューしたのは78年、7歳のときで(演奏会ポスターには6歳となっているが)、やはり神童だったのです。13歳のときにピアノ協奏曲を作曲するなど、10代でいくつかの作品を書いていますが、92年にウィーンに移り、その後7年間は、もっぱら優れたピアニストとして活躍しました。交響曲第1番を書いたのは1800年です。その後、数多くの傑作が生まれます。
 演奏家では、指揮・ピアニストのダニエル・バレンボイム。1954年、ザルツブルクでフルトヴェングラーと出会い、ベルリン・フィルへの出演を依頼されました。このときバレンボイムは11歳。フルトヴェングラーは「11歳のバレンボイムは驚異の才能を持つ」とコメント。瞬く間にその名前は広まりました。先頃なくなったロリン・マゼールも早熟でした。5歳でヴァイオリンを始め、7歳で指揮に取り組んでいます。そして8歳のとき、ニューヨーク・フィルを指揮してデビュー。11歳のときには、トスカニーニに招かれ、NBC交響楽団を指揮。「マゼールが幼い頃から指揮者として成功した理由も、オーケストラを完璧にコントロールできてしまう能力だった」と鈴木淳史氏
 特集では「神童でなくても巨匠になった演奏家」としてカラヤンや朝比奈隆を取り上げています。
 他に、◎神童だった作曲家シューベルト、パガニーニ、ショパン、リスト、メンデルスゾーン◎神童から巨匠になった演奏家、ルービンシュタイン、ハイフェッツ、ホロヴィッツ、アルゲリッチ◎神童を生み出したソ連時代の音楽教育◎「子供のための音楽教室」を作った斎藤秀雄、などです。

◎宮本文昭の気軽に話そう ゲスト 三浦文彰 ヴァイオリン
 ヴァイオリンの若手のホープ。両親ともヴァイオリニストの音楽一家に生まれた。2009年、ハノーファー国際コンクールにて史上最年少で優勝。ウィーンで勉強を続けた。「ウィーンは音楽を勉強するには素晴らしい環境です。なにしろシュターツ・オーパーへオペラを観に行けば、毎日ウィーン・フィル(ウィーン国立歌劇場管弦楽団)を聴けるようなものですし、楽友協会のホールやコンツェルトハウス、アン・デア・ウィーン劇場などでは毎日のように、一流音楽家たちがコンサートをしていましたから」と話す。来年は全国12公演のコンサート・ツアーを行う。

◎BIGが語る 準・メルクル 指揮
 今年のパシフィック・ミュージック・フェスティバル2017(PMF)の首席指揮者を務めたドイツ出身の指揮者。PMFには5回目の登場になった。父はドイツ人、母は日本人のピアニスト。日本人の血が流れているから日本での仕事を大切にしている、という。NHK交響楽団や水戸室内管弦楽団など日本のオーケストラとの共演も多く、国立音楽大学の招聘教授を務めている。「音楽はこれからの世の中で重要な役割を果たすと思います。PMFにはいろいろな国の人たちが来ています。技術を学ぶことに加えて、国際的なことを学ぶ場なのです。参加者が自宅に帰って、日本がどんなに良かったか家族に話すでしょう。それは日本にとっても良いことだと思います」と話している。

このほか
◎青島広志の「ブルー・アイランド版音楽辞典」
◎外山雄三の「オーケストラと暮らして60年」
◎小山実稚恵の「ピアノと私」
◎「鍵盤の血脈 井口基成」中丸美繪
など、おもしろい連載、記事が満載です。
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表紙 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

特集
 「一歩先の学び直し 交響曲&指揮者」

 交響曲はオペラの序曲から独立して発生した。「序曲の自立が可能になる背景にオーケストラ・コンサートの成立があり、18世紀における経済活動の活発化、啓蒙された市民の台頭がそれを支えたことは言うまでもない」とバッハ研究家の磯山雅氏は記している。18世紀の交響曲の主題カタログには1万6000曲以上も収録されており、今日まで演奏されている作品はほんのわずかしかない。多くの作品は1回切りの演奏で終わっているだろう。
 特集は古典派、ロマン派、20世紀と時代を分けて、「名曲が名曲である訳」を解説している。“交響曲に父”ハイドンは交響曲第94番「驚愕」を取り上げた。「渾身の自作を披露している演奏会なのに、着飾った貴婦人たちが客席できまって居眠りするのに、作曲家は辟易していた。そこで一計を案じ、緩徐楽章を静かに始めて、突然、フォルティッシモの全奏で叩き起こす交響曲を上演した。その策は奏功し、以後、彼の演奏会で居眠りする者はいなくなった」。音楽ジャーナリストの寺西肇氏はこの曲に関する有名なエピソードを紹介している。そして、この逸話は「ハイドンのウィットに富んだ人柄や音楽の特徴を、うまく捉えている」という。
 ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」の演奏の変遷を、桐朋学園大の西原稔教授が追っている。「『英雄』は、第5番とともに指揮者の思想や哲学はとくに前面に出てくる作品である。指揮者の作品との取り組みを知るうえで、この『英雄』ほど格好の作品はないのではないだろうか」と書く。フルトヴェングラーが1952年にウィーン・フィルを指揮した録音は、「雄渾の一言に尽きる」。対してトスカニーニが1939年にNBC交響楽団を指揮した「英雄」は、「感傷的な思い入れを払しょくするかのように爽快」。アバドはベルリン・フィルの伝統を強く意識し、「やや速めにテンポを取り、流動性豊かな『英雄』に仕上げている」。アーノンクールについては「古典奏法や演奏解釈に立ち返った彼の演奏は改めてベートーヴェンとは何かを問いかけた」という。指揮者の数だけ演奏解釈があり、それは時代とともに変わっていく。
 他に、◎モーツァルト:交響曲第25、41番「ジュピター」◎ベートーヴェン:交響曲第5、9番「合唱」◎マーラー:交響曲第6番「悲劇的」◎ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」◎名指揮者再発見 ムラヴィンスキー、バーンスタイン◎交響曲「田園(パストラル)」の「田園」とは何か◎私の交響曲遍歴 佐伯一麦◎交響曲を聴くならこのオーケストラ、などです。

◎宮本文昭の気軽に話そう ゲスト 朴葵姫(パク・キュヒ) ギター
 韓国・仁川生まれで、荘村清志や福田進一に師事、日本で活躍する人気ギタリスト、朴葵姫。ソロやタレガ・ギター・カルテットでの活動、オーケストラとの共演も多い。ただ、「オーケストラの楽員の皆さんや指揮者の方に迷惑をかけてはいけないという気持ちが強くなり、とても緊張します。最初のリハーサルで、楽員さんに紹介していただく瞬間まで緊張が続いています」と緊張ぶりを話す。そして、演奏を失敗しないように、「うまくいった日のことを思い出し、できるだけ同じことをしてみます。あのときは何を食べたっけ、事前にどのくらい練習をして、コンサートが始まる何分前には練習を終わらせて」と決まった行動を取ることを説明する。

◎戦没学生のメッセージ~戦時下の東京音楽学校・東京美術学校
 東京芸術大学は7月30日、「戦没学生のメッセージ~戦時下の東京音楽学校・東京美術学校」と題したシンポジウムとコンサートを東京・上野の同大奏楽堂などで行う。今年、同大が130周年を迎えることをきっかけに、第2次世界大戦で亡くなった学生の作品にスポットを当てようと企画された。
 コンサートで取り上げる戦没学生は4人。歌曲「犬と雲」などが演奏される葛原守さんは、昭和15年4月、東京音楽学校予科に入学。繰り上げ卒業し、20年4月、台湾で戦病死した。鬼頭恭一さんは18年11月、本科作曲部を仮卒業し、学徒出陣。霞ヶ浦航空隊で訓練中に事故により殉職。「アレグレット」、歌曲「雨」などが演奏される。「ピアノソナタ第1番」などを残した草川宏さんは本科作曲部を繰り上げ卒業し研究科に進学。20年6月2日、フィリピン・ルソン島バギオで戦死した。オペラ「白狐」より「こはるの独唱」などが演奏される村野弘二さんは17年に予科に入学、本科作曲部を仮卒業し、学徒出陣。20年8月21日、フィリピン・ルソン島ブンヒヤンで自決した。
 同大演奏芸術センターの大石泰教授は「志半ばで戦地に赴き、命を落とした音楽学生らの作品を、実際の音として蘇らせようというコンサートです。彼らが残した作品は未熟かもしれませんが、その1つ1つが遺言ともいえるもので、強いメッセージを訴えかけてきます」と話す。

このほか
◎青島広志の「ブルー・アイランド版音楽辞典」
◎外山雄三の「オーケストラと暮らして60年」
◎小山実稚恵の「ピアノと私」
◎「鍵盤の血脈 井口基成」中丸美繪
など、おもしろい連載、記事が満載です。
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表紙 ベートーヴェン

特集
 「天才作曲家 最後の作品」

 作曲家の最後の作品には、自ら死期を悟って作曲した作品と、病気、思わぬアクシデントなどで亡くなり結果的に最後の作品になってしまったものがある。多くの作曲家に未完の作品が残されている。それは亡くなるまで作曲を続けざるを得なかった作曲家の性もあるだろう。
 さまざまな作曲家の最後の作品で、もっとも知られているエピソードの1つが、モーツァルトの「レクイエム」。病気に冒され、借金で生活が困窮しているモーツァルトのところへ、黒ずくめの男が「匿名でレクイエムを作曲してほしい」と依頼に来た。しかし、病状の進んだモーツァルトは「レクイエム」を完成させることは出来なかった。作曲途中で、「自分のためのレクイエム」と思ったのでは、という話も伝えられている。
 もう1つ、チャイコフスキーが交響曲第6番「悲愴」を作曲し終えたのは1893年8月。「悲愴」というタイトルも自身で付けている。初演は自らの指揮で10月16日にサンクトペテルブルクで行われた。しかし、9日後の10月25日、肺水腫で急死した。自殺だったという噂は今も絶えない。自殺説は「悲愴」というタイトルも影響している。しかし、「悲愴」と同時にほかの曲の作曲も続けていた。元チャイコフスキー博物館学芸員のマリーナ・チュルチェワ氏は「死の直前まで多忙を極めていた。『悲愴』は究極の世界でも辞世の句でもない、まだまだ、途上だったのである」と記している。
 シューベルトとマーラーの人生は、いつも死の意識に捕らわれていた。シューベルトは14人兄弟だったが、成人できたのは5人だけ。死は身近だった。また、1823年、梅毒に感染したことを知った。当時、それは死の病だった。歌曲「死と乙女」、「美しき水車小屋の娘」「冬の旅」など著名な歌曲集は、死のテーマから逃れられない。また、50歳という働き盛りで亡くなったマーラーも死をモチーフにした作品が多い。交響曲第10番は未完に終わっており、今日まで多くの補筆版が作られた。「この曲は、きらびやかな『大地の歌』や緻密な第9番とはまったく異なって、死が作曲家を破壊しつつある様子をまざまざとうかがわせる」と音楽評論家の許光俊氏。
 特集では、名演奏家の最後の録音も取り上げている。リパッティの「告別リサイタル」、ホロヴィッツの「ザ・ラスト・レコーディング」、グールドの「ゴルトベルク変奏曲」、ヴァントのブルックナー「ロマンティック」など今日まで聴かれるCDを紹介している。
 他に、◎バッハ 数々の傑作と幾つもの謎◎ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第16番◎ブルックナー 交響曲第9番とフィナーレ◎R.シュトラウス「4つの最後の歌」◎夭折の作曲家たち◎ケッヘル番号を作った愛好家ケッヘル、楽譜を整理し作曲家の全体像を作り上げた人々、などです。

◎BIGが語る 
小川典子 ピアノ・浜松国際ピアノコンクール審査委員長
 イギリスと日本を本拠に活動するピアニスト、小川典子が、浜松国際ピアノコンクールの審査委員長に就任。このほど開催概要を発表する記者会見が行われた。浜松国際ピアノコンクールは、一昨年2015年のショパン・コンクールで優勝したチョ・ソンジンが15歳のとき、2009年の浜松コンクールで優勝していることから音楽界では一挙に知名度がアップ。また、今年の直木賞、本屋大賞をダブル受賞した恩田陸の「蜜蜂と遠雷」が、浜松コンクールを題材にした小説で、一般にも名前が浸透した。そうした状況で審査委員長に就任した小川。「若いピアニストの離陸のお手伝いをするつもりで、大きな野心を持って全力で臨みたい。まずは浜松のコンクールを受けて、ではなく浜松が最後のコンクールになってほしい。それが私の野心です」と話している。

◎宮本文昭の気軽に話そう ゲスト ヴィタリ・ユシュマノフ バリトン
 ロシア・サンクトペテルブルク生まれで、現在は日本で活動を続けるバリトン歌手、ヴィタリ・ユシュマノフ。なぜ日本に住んでいるかというと、2008年に初めて来日し、成田空港に降り立った際、「日本についての知識もありませんし、日本語も話せませんし。でも空気を感じただけで『ここに住みたい』と思ったのです」と話す。歌手になった経緯も人と少し違う。18歳まで音楽にはまったく興味がなかった。テレビでドミンゴとカレーラスのクリスマス・コンサートを見て、突然「歌手になりたい」と思ったのだという。「日本が好きすぎる、変なロシア人」ユシュマノフの話が楽しい。

このほか
◎青島広志の「ブルー・アイランド版音楽辞典」
◎外山雄三の「オーケストラと暮らして60年」
◎小山実稚恵の「ピアノと私」
◎「鍵盤の血脈 井口基成」中丸美繪
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表紙 ベルリン・フィルを指揮するサイモン・ラトル

特集
 「2017年版 最新! 世界のオーケストラと指揮者」

 サイモン・ラトルとベルリン・フィルが11月に来日する。2017/18シーズンをもってベルリン・フィルの首席指揮者兼芸術監督を退任するので、このコンビでの来日は、今回が最後となる。ラトルはクラウディオ・アバドの後任として今のポストに就いた。「就任すると発表されたとき、それを不可解な決定だと考えた人は、そう多くはなかったはずである。ひとことで言って、同世代にライバルがいなかった」と音楽評論家の許光俊氏は記す。
 ラトルは現代作品に強い関心を示し、オペラにも積極的だった。カラヤン時代、そしてアバドとも違う新風をベルリン・フィルに吹き込んだ。ラトルは2017/18シーズンから母国ロンドン交響楽団の音楽監督に就任する。ラトルの後任には、バイエルン州立歌劇場の音楽監督を務めるキリル・ペトレンコがつく。約1年前に発表されたが、ラトルのときと違い、大きな驚きをもって受け止められた。知名度の点で劣っていたことがその理由の1つだろう。
 ペトレンコはこの3月、首席指揮者指名後に初めてベルリン・フィルを指揮、チャイコフスキーの「悲愴」などを演奏した。ベルリン在住の音楽評論家、城所孝吉氏は、今回は客演なのだから「インタビューを見ると、オーケストラにどのように接するべきかについて、彼が何度も熟考を重ねたことがよく分かる。1回の演奏会だけで100パーセント達成しなくてもいい、という発想には清さを感じる。先は長いのだから、急ぐ必要はないのである」と寄稿した。
 特集では新たなポストを得た多くの指揮者を取り上げている。ミラノ・スカラ座の音楽監督を務めるリッカルド・シャイーは、アバドが設立したルツェルン祝祭管弦楽団の音楽監督になった。シャイーの持っていたライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の楽長にはアンドリス・ネルソンスが就任する。
 日本のオーケストラでは、好調を続ける広上淳一と京都市交響楽団、3月のヨーロッパ・ツアーを成功させたパーヴォ・ヤルヴィとNHK交響楽団、昨秋、首席指揮者に就任したインキネンと日本フィルなどを取り上げている。
 特集ページには他に、◎パリ管音楽監督に就任したハーディング◎古楽オーケストラと指揮者の現在◎ロシアのオーケストラと指揮者のいま◎メトロポリタン・オペラの禅譲 レヴァインからネゼ=セガンへ、などこの特集を読めば、現在の世界のオーケストラと指揮者地図が一目瞭然です。

◎BIGが語る 
シルヴァン・カンブルラン 指揮
 読売日本交響楽団の常任指揮者を務めるシルヴァン・カンブルラン。11月にメシアンの大作オペラ「アッシジの聖フランチェスコ」を日本初演する。世界初演は1983年、パリ・オペラ座で小澤征爾だった。カンブルランの姉が初演にハープで参加しており、初演の課程をつぶさに見ることができた。カンブルランは初演後の、ほとんどの公演を指揮している。休憩を入れて5時間半を要するため、なかなか上演の機会は少ない。それでも2004年のパリ公演は9回上演され、9回とも満席になった。
 作品についてカンブルランは「バッハの作品は技巧的に難しいところもありますが、聴き手にとってはシンプルです。『アッシジの聖フランチェスコ』も聴く人の耳から魂へ直接浸透していく音楽で、互いによく似ています」と話す。

◎宮本文昭の気軽に話そう ゲスト 小澤俊夫 口承文芸学者
 小澤俊夫氏は口承文芸学者として筑波大副楽長などを務め、現在は「小澤昔ばなし研究所」を運営している。実は小澤征爾の兄。ホストの宮本文昭の桐朋学園の高校時代のドイツ語の先生だった。小澤俊夫氏が大学院を卒業し、昔ばなしの研究を本格的に始めたことだったという。
宮本は「今でもオーボエを自分の生徒に教えるとき、小澤先生の授業のスタイルを参考にしています。何度も繰り返しながらひとつのことをマスターし、それができたら次のことを繰り返して覚える、という具合です」と話す。
小澤俊夫氏は、小澤征爾を弟に持ち、音楽に親しんだことが昔ばなしの研究にも役立つことがあるという。「僕は幸いにことに幼い頃から音楽に親しんでいたし、征爾が斎藤秀雄先生のアシスタントをしていた頃は、一緒に合宿へ行って椅子や楽譜を並べるのを手伝った」というエピソードを話している。

このほか
◎青島広志の「ブルー・アイランド版音楽辞典」
◎外山雄三の「オーケストラと暮らして60年」
◎小山実稚恵の「ピアノと私」
◎「鍵盤の血脈 井口基成」中丸美繪
など、おもしろい連載、記事が満載です。
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表紙 新国立劇場「アイーダ」(ゼッフィレッリ演出、2013年)撮影:三枝近志

特集
 「モーストリー・クラシック創刊20周年 祝祭の音楽」

 「モーストリー・クラシック」は今月、創刊20周年を迎えた。読者の皆様と一緒にお祝いしていただこうと特集したのは「祝祭の音楽」。祝祭といってもたくさんの種類がある。特集は、宗教、戦争、民族的な祭り・儀式、宮廷の式典・祝典などに分けて企画した。キリスト教の暦はキリストの誕生を待つ待降節で始まる。キリストの復活を祝う復活祭は、春分の日の後の最初の満月の次の日曜日。「復活祭と音楽」を寄稿した音楽学者で指揮者の樋口隆一氏は、冒頭にドイツ留学時代の思い出をつづっている。
 「長い冬も終わり、野山にも春の兆しが現れる頃だから、誰もが復活祭を待ちわびている。プロテスタントの教会ではバッハの『マタイ受難曲』や『ヨハネ受難曲』が上演され、カトリックの教会でもハイドンやモーツァルトのミサ曲が管弦楽伴奏で上演される。それ典礼に従って、司祭の司式に従って歌われることが多いので、より深い祈りの気持ちが込められる」
 ナポレオン戦争との関係では、ベートーヴェン生存当時最大のヒット曲となった「ウェリントンの勝利」と、チャイコフスキーの曲中に大砲の音を入れた序曲「1812年」を取り上げている。また、ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」も式典などのお祝いの場で演奏されることが多い、第2次世界大戦後のバイロイト音楽祭の復活の際に演奏され、また、ベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツの統一を祝うため、1989年のクリスマスにバーンスタインがベルリンで国際的なメンバーを集め第九を演奏した。
 特集には、今年開館20周年を迎えた新国立劇場、すみだトリフォニーホール、滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール、札幌コンサートホールKitaraを取り上げた。巻頭で日本文学研究家のドナルド・キーン氏から「こんな時代だからこそモーストリー・クラシックを続けてもらわないと困るのです!」という激励をいただいた。
 特集ページには、◎ショスタコーヴィチの交響曲は祝祭か鎮魂か◎モーツァルトが「戴冠ミサ」を作った訳◎「フィデリオ」ななぜ祝祭で演奏されるのか◎シュトラウス3兄弟のワルツ、ポルカ、など盛りだくさん。

◎BIGが語る 
アンドレア・バッティストーニ 指揮
 イタリア出身の若手指揮者バッティストーニの日本での活躍が目立つ。現在、東京フィル首席指揮者を務め、ヴェルディのオペラ「オテロ」を東フィルで指揮することを発表した。公演は9月8、10日、Bunkamuraオーチャードホール。演奏会形式だが、メディアアーティストの真鍋大度氏が率いるライゾマティクスリサーチが映像演出を担う。バッティストーニと東フィルはこれまで、オペラを「トゥーランドット」と「イリス」の2本上演している。バッティストーニは「オペラと演奏会形式の中間を目指します。視覚的な重要度は増すことになるでしょう。最新のテクノロジーで聴衆を感情的に巻き込みます。視覚的な部分が音楽の中の感情表現を大きくしてくれることを期待します」と話す。

◎宮本文昭の気軽に話そう ゲスト 河野克典 バリトン
 河野克典は東京芸大を卒業し、ミュンヘン国立音大に留学した。ミュンヘンに行ったのは1985年。「着いた初日から歌劇場に通っていました。安いチケットを求めて2時間並び、劇場に入ってからも1時間並び、ようやく手にすると上のほうにある階まで駆け上がっていました」と思い出を語る。現在、「歌の旅」と題したリサイタル・シリーズを続けている。5月28日、「歌の本」と題した第5回公演を、東京文化会館小ホールで行う。ハイネの詩にシューマンが作曲した「詩人の恋」と「リーダークライス」などを歌う。

このほか
◎青島広志の「ブルー・アイランド版音楽辞典」
◎外山雄三の「オーケストラと暮らして60年」
◎小山実稚恵の「ピアノと私」
◎「鍵盤の血脈 井口基成」中丸美繪
など、おもしろい連載、記事が満載です。
1,049円
表紙 浜松市楽器博物館

特集
楽器の発展と作曲家 フォルテピアノからピアノへ

 多くの作曲家はピアノで作曲する。楽器が持つ音色やタッチなどの特徴は、作曲家にたくさんのインスピレーションを与える。楽器の発展とともにさまざまな名曲が生まれ、一方で、消えていった楽器や作品もある。
 最初のピアノは、18世紀初め、イタリア・フィレンツェのメディチ家お抱えの楽器製作者、クリスとフォリが作った。名前は、「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」で、つまり「弱音も強音も出せるチェンバロ」である。18世紀から19世紀は、さまざまなフォルテピアノが表れた。新たな機能が付けられ、そして改良され、次々と進歩を遂げた“ピアノの時代”である。ピアノはバッハの時代には登場したが、バッハは興味を示すことなく、チェンバロで作品を作り続けた。しかし、フォルテピアノはチェンバロに代わって普及していく。ベートーヴェン(1770―1827)は、次々と新しいピアノを使い替えていった。使ったピアノは、シュタイン、エラール、シュトライヒャー、ブロードウッド、グラーフなど約10種類のメーカーがあげられる。作品の作曲年代によって使うピアノが違い、作品にはその特徴の痕跡が残る。「ベートーヴェンがおよそ40年かにわたって作曲し続けたピアノ・ソナタは、まさにピアノという楽器の発展を記した歴史絵巻という側面を持っている」と音楽学者の平野昭氏は記す。
 ピアノの歴史に大きく刻まれるのは19世紀前半の鉄のフレームの開発。多くの弦を強い力で引っ張ることができるため、音量が大きくなり、広いホールでの演奏に対応でき、音色も輝かしいものになった。「鉄のフレームを必要悪ではなく、新しい音響の可能性として捉えたのはスタインウェイである。技術革新を行い、今日のピアノの1つの理想を実現する」と桐朋学園大の西原稔教授。
 特集ではピアノとピアノ作品だけでなく、弦楽器や管楽器の発展も取り上げている。シューベルトの「アルペジョーネ・ソナタ」は現在もチェリストのレパートリーとして人気だ。しかし、本来は、アルペジョーネという名前の弦楽器のために書かれた。6弦でギターのようなフレットがあり、重音を出すことが可能な楽器。このアルペジョーネをはじめ、ヴィオラ・ダ・ガンバやヴィオラ・ダモーレらさまざまな弦楽器がいったんは歴史から消えている。しかし、20世紀の古楽復興によって、現在では復元された楽器も多い。
 特集ページには、◎バッハ「ゴルトベルク変奏曲」聴き比べ◎日本のピアノの歴史と現状◎ショパンの解釈今昔◎旬のフォルテピアノ奏者◎ヴァイオリンの変遷◎フルートの改良とフルートのための作品、など盛りだくさん。

◎BIGが語る 
オルガ・ペレチャッコ=マリオッティ ソプラノ
 現在、新国立劇場で上演されているドニゼッティのオペラ「ルチア」のタイトルロールを歌っている。ロシア・サンクトペテルブルク生まれ。マリインスキー劇場の児童合唱団で歌っており、合唱指揮者を目指していたが、ベルリンのハンス・アイスラー音楽院で本格的に声楽を学んだ。イタリア・ペーザロのロッシーニ・アカデミーでベルカント・オペラのレッスンを積んだ。今では、ベルカント・オペラになくてはならない存在として引っ張りだこ。ルチアの役柄について「ルチアは自分の愛を守ろうとした意志の強い女性です。演じ手として歌い手としてのポテンシャルを全て表現できる。逆に言うと、自分の持っているもの全てを出さなければならない、ということです」と話す。

◎宮本文昭の気軽に話そう ゲスト 山崎伸子 チェリスト
 日本の女性チェリストの草分けの一人で、斎藤秀雄の愛弟子。東京芸大や桐朋学園大で教え、多くの後進を育ててきた。2007年にスタートしたチェロ・ソナタ・シリーズが、5月25日の紀尾井ホールで最終回を迎える。バッハの無伴奏チェロ・ソナタ第6番やマルティヌー、ラフマニノフを演奏する。ピアノは小菅優。実はバッハの曲は今でも苦手だという。「それを克服するためにもっと勉強したいのです。死ぬまでに理想の演奏が見つかるのかなと思いながらも、地道に追求していくしかない作曲家です」という。

このほか
◎青島広志の「ブルー・アイランド版音楽辞典」
◎外山雄三の「オーケストラと暮らして60年」
◎小山実稚恵の「ピアノと私」
◎「鍵盤の血脈 井口基成」中丸美繪
など、おもしろい連載、記事が満載です。
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表紙 プラシド・ドミンゴ。ⓒKaori Suzuki

特集
オペラの虜 イタリア・オペラVSドイツ・オペラ

 オペラはイタリアで生まれたものだが、その後、イタリア・オペラとドイツ・オペラの2つの潮流が生まれた。特集ではオペラの魅力とともに、イタリア・オペラとドイツ・オペラの個性の違いを取り上げている。
 ドイツの作曲家はイタリアの先進的な音楽を学び、イタリア出身の指揮者はドイツ音楽を巧みに指揮する。イタリアとドイツの相互の関係は、長く続いてきた。桐朋学園大の西原稔教授は「異なる伝統にあるからこそイタリア人はドイツ音楽をドイツ人以上に禁欲的に肉薄しようと努めているように思われ、それがドイツ音楽に間違いなく新たな活性化をもたらしている。そしてドイツの楽団と聴衆は、イタリア人指揮者のもたらすこの活性化をおそらく待望しているのである」と両国の関係を解説する。
 オペラ史上の最初の作品はモンテヴェルディの「オルフェオ」。イタリア伝統の即興演劇コンメディ・デラルテの持つ喜劇性を取り込み、18世紀にはオペラ・ブッファが生まれた。その後、ロッシーニらのベルカント・オペラ、ドラマティックな発声技術を必要とするヴェルディ、そして写実的なヴェリズモ・オペラを生み出す。こうしたイタリアのオペラの歴史を記した水谷彰良氏は「フランス・オペラが象徴主義に至り、ワグネリズムがドイツ・オペラを交響楽的な音楽へ歌を溶解させたのに対し、イタリア・オペラは歌の芸術、感情のドラマとしてその命脈を保ってきた」という。
 特集の1つに、「オペラのキャラクターさまざま」というコーナーを作った。「イケメン」「悪党」「悲劇のヒロイン」「三枚目」という4つのキャラクターに典型的な役柄を音楽評論家にあげてもらっている。加藤浩子氏があげた「イケメン」は、ドン・ジョヴァンニ、「トスカ」のカヴァラドッシ、ローエングリン、「ドン・カルロ」のロドリーゴ、そしてお気に入りは「フィガロの結婚」のフィガロ。彼女にとってはフィガロとスザンナがベスト・カップルだそう。
 ほかには、◎ヴェルディVSワーグナー◎プッチーニVSR.シュトラウス◎オペラの名指揮者◎ミラノ・スカラ座とバイエルン州立歌劇場◎オペラの往年の名歌手と現役歌手◎バロック・オペラの復活と隆盛、などがある。

◎BIGが語る 
プラシド・ドミンゴ テノール/バリトン
 “3大テノール”の1人、プラシド・ドミンゴが3月13日、東京国際フォーラムでコンサートを行う。しかも、現代の“ディーヴァ”ルネ・フレミングとのデュオ・コンサートで、聴衆の期待は高まっている。ドミンゴの声種はテノールだったが、近年はバリトンに拡大した。「昔からバリトンの役柄に魅せられてきました。テノールはヒーローであり、王子や若き恋人やロマンティックな役が多いのですが、バリトンはより深い歌声が要求されます」と話す。6年前にバリトンに転向し、現在ではオテロやシモン・ボッカネグラなど9役をレパートリーにしている。「ミルンズ、ライモンディ、カップッチルリら素晴らしい歌手たちと共演してきたことがいま、役に立っています。私は今でも毎日勉強しています。いろんな歌を聴き、新たな作品と対峙する。それが血となり肉となります。それを聴衆に届けたいのです」と話した。

◎宮本文昭の気軽に話そう ゲスト 江崎友淑 オクタヴィア・レコード社長
 オクタヴィア・レコードのオーナーとして、また制作プロデューサー、録音エンジニアとして活躍している。ポニーキャニオンの制作ディレクターから独立、会社を立ち上げた。「音楽家にはコンサートと同じくらい録音が大切だということを知っていただきたいですし、最高の音楽を作りたいという気持ちは演奏家と同じですから、仕事をする上では意見をぶつか会ってでも後悔しないものを残したいですね」と話す。

このほか
◎青島広志の「ブルー・アイランド版音楽辞典」
◎外山雄三の「オーケストラと暮らして60年」
◎小山実稚恵の「ピアノと私」
◎「鍵盤の血脈 井口基成」中丸美繪
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表紙 ロシア・クリンにあるチャイコフスキー博物館。チャイコフスキー晩年の住まいが博物館になっている。

特集
名旋律の誘惑 メロディー・メーカーの作曲家

 ドヴォルザークは天才的なメロディー・メーカーだった。交響曲第9番「新世界より」、「スラヴ舞曲集」、「ユーモレスク」、「わが母に教え給いし歌」など誰の耳に残る美しいメロディーをたくさん書いた。
ブラームスはドヴォルザークの才能を絶賛。「あの男は私たちの仲間の誰よりも発想が豊かだ。彼の捨てた素材をかき集めるだけで主題をつなげていける」と語ったという。音楽評論家の高久暁氏は「ドヴォルザークのメロディー、それはどんな聴き手の心にも確実に働きかけて前向きな気持ちにさせる、クラシック音楽最高の財産のひとつなのだ」と記している。
 もう一人、メロディー・メーカーあげるとすればチャイコフスキー。「くるみ割り人形」や「白鳥の湖」などの3大バレエ、ピアノ協奏曲第1番、「弦楽セレナード」、オペラ「エフゲニー・オネーギン」、交響曲第6番「悲愴」など思いつくままにあげても美しい旋律の作品がすぐに浮かぶ。実はこれらのメロディーの多くはチャイコフスキーのオリジナルではなく、元ネタがある。ロシア民謡だけでなく、ウクライナやポーランドの民謡はもちろん、フランスの歌、そしてバッハやワーグナーでさえどん欲に取り入れた。
元チャイコフスキー博物館学芸員のマリーン・チュルチェワ氏は「しかし、他の作曲家がチャイコフスキーの手法や短調的雰囲気で同じことを試みても、全く論外な結果に終わる。チャイコフスキーのメロディーは一見真似できそうながら、限りなく不可能だ。彼は素材を抽象的でなく、独自の音世界と深い呼吸を基礎に展開させる術をしっていた」と指摘した。
特集は他に、モーツァルトやべートーヴェン、ドビュッシーやラヴェル、グリーグやシベリウスなど著名な作曲家の作品を取り上げている。
ほかには、◎宗教音楽の「美メロディー」◎時代を超えて使われる旋律「怒りの日」◎「ボレロ」の魅力とは?◎子守歌の名旋律、などがある。

◎BIGが語る 
マレク・ヤノフスキ 指揮
 昨秋のウィーン国立歌劇場の来日公演ではR.シュトラウスの「ナクソス島のアリアドネ」を指揮。4月に再び来日、東京・春・音楽祭でワーグナーの「神々の黄昏」を指揮する。4年かけて公演された「ニーベルングの指環」チクルスの最後になる。舞台上演ではなく演奏会形式。「安定的な3つの要素が、公演を成功に導いたと思います。第1はオーケストラですが、NHK交響楽団は汁の高い音楽を演奏してくれました。第2に各場面に応じたプロジェクションの映像が音楽を邪魔することなく、美しく、観客にオペラの各場面をわかりやすく解説しました。第3は音楽祭サイドの要望であまり大きくない役に日本人の歌い手をキャスティングしたこと。私は歌手のクオリティーに懐疑的だったのですが、オーディションで素晴らしい歌手が選ばれました。いずれも日本の地力を示すものだと思います」と話している。

◎宮本文昭の気軽に話そう ゲスト 宮本英世 喫茶「ショパン」経営
 今月のゲストは東京・豊島区の住宅街で名曲喫茶を経営する宮本英世さん。日本コロムビアなどに務めた後、脱サラして喫茶店を開いた。宮本英世さんは「クラシックよ永遠に」などの著書もあり、音楽評論家としても活動している。実は宮本文昭さんの父親も歌手を引退してから喫茶店を開いたので、喫茶店には思い入れがある。宮本英世さんの原点は学生時代。当時、アルバイトの日給が300円。月の授業料とアパート代が2500円という時代。「友達が国分寺にある『でんえん』という名曲喫茶に連れて行ってくれたんです。コーヒー一杯60円という時代でした。僕にとっては贅沢でしたが、世の中にはこんなに幸せな時間を過ごせる場所があるのかと感激しました」と語っている。

このほか
◎青島広志の「ブルー・アイランド版音楽辞典」
◎外山雄三の「オーケストラと暮らして60年」
◎小山実稚恵の「ピアノと私」
◎「鍵盤の血脈 井口基成」中丸美繪
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表紙 レ・ヴァン・フランセ

特集
名曲名盤 室内楽、カルテットの面白さ

 ハイドンは「交響曲の父」であると同時に「弦楽四重奏曲」の父と言われる。交響曲を約100曲作曲したのも驚くが、室内楽曲の数はこれを大きく上回る。弦楽四重奏は60曲以上、ピアノ三重奏は約40曲、バリトン三重奏曲は120曲以上になる。バリトンはチェロに似た楽器で、ハイドンの雇い主、エステルハージ侯が弾いていたため、ハイドンはご主人のためにせっせと作曲に励んだ。左手の指で弦を押さえ、親指で共鳴弦を弾くなどの演奏や調律が難しく、廃れてしまったが、20世紀の古楽復興に伴い、復元されている。
 ハイドンが「弦楽四重奏の父」と言われた理由を、音楽ジャーナリストの寺西肇氏は「キャリアのごく初期から弦楽器による四重奏曲という形態に着目、生涯を通じて、その可能性を追求し続け、創意工夫をこらすことで、ひとつのプロトタイプを確立。幼いモーツァルトに影響を与え、やがてベートーヴェンの広大な宇宙へと至らしめたのみならず、後進の作曲家の創作意欲に強烈な刺激を与え続けた」と指摘している。
 ハイドンに学んだモーツァルトは「ハイドン弦楽四重奏曲(ハイドン・セット)」を作曲し、ハイドンに献呈した。弦楽四重奏曲第14番から第19番までの6曲で、第17番「狩」、第19番「不協和音」などを含む。1785年1月、ハイドンを自宅に招き、披露、モーツァルトは自らヴィオラを弾いたという。「ハイドン四重奏曲集は傑作ぞろいで、それぞれまったく性格の違うところに、モーツァルトがこの曲種の可能性を多角的に探ろうとしていることがうかがえる」と音楽評論家の寺西基之氏は記している。
 室内楽曲はカルテットばかりではない。表紙のレ・ヴァン・フランセは、今、人気の木管アンサンブル。クラリネットのポール・メイエを中心に結成され、ベルリン・フィルの首席フルート奏者エマニュエル・パユ、オーボエのフランソワ・ルルー、ホルンのラドヴァン・ヴラトコヴィチらヴィルトゥオーゾ集団で、スターがそろっている。編成は作品によりフレキシブルで、ピアノのエリック・ル・サージュが加わることも多い。
 特集は他に、◎初めての室内楽、究極の弦楽四重奏◎往年の名楽団、アルバン・ベルク四重奏団/東京クヮルテット◎ホルンのラデク・バボラク・インタビュー◎世界の国際室内楽コンクール、などを取り上げている。

◎BIGが語る 
クシシュトフ・ウルバンスキ 指揮
 来年3月、東芝グランドコンサート2017として、首席客演指揮者を務めるNDRエルプフィルハーモニーと来日する。1982年、ポーランド生まれで、第62回プラハの春国際音楽コンクール指揮部門で優勝した俊英。エルプフィルに初めて客演したのは2000年。15/16年シーズンから、アラン・ギルバートの後任として首席客演指揮者に就任した。「とてもまじめな楽員たちなので、むしろこちらが刺激を受けます。多くのことを教えられます。休憩になると指揮台まできて、解釈の理由などを質問してくるのです。会話をしているうちにこちらもインスパイアされる」などとオーケストラとの関係を話した。

◎宮本文昭の気軽に話そう ゲスト 郷古廉 ヴァイオリン
 ウィーンに留学中の若手ヴァイオリニスト。来年1月17日(火)にHakuju Hallでリサイタルを行う。バルトークのヴァイオリン・ソナタ第1番と第2番の2曲を1時間で弾くという“通”好みのプログラム。ヴァイオリン・ソナタ第2番はCDで録音している。郷古は「2曲のソナタは同じ指揮に書かれているのに、まったく性格が違うというのも面白い。取り組みがいがあるので、ずっと引き続けていきたい」と話す。

このほか
◎青島広志の「ブルー・アイランド版音楽辞典」
◎外山雄三の「オーケストラと暮らして60年」
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表紙 ベートーヴェン

特集
神話と呪縛 ベートーヴェンの影響力

 師走に入ると、全国各地で「第九」の「歓喜の歌」が聞こえ始める。ベートーヴェンの交響曲第9番こそ交響曲の金字塔といわれる。オーケストラに独唱と合唱を加えた斬新な発想は、当時も今も聴衆を感動に導く。今月号は、クラシック音楽の革新者であり続けたベートーヴェンの作品の歩みと、シューベルト、メンデルスゾーン、シューマン、ショパン、ワーグナー、ブルックナー、ブラームスら大作曲家たちとベートーヴェンの関係を探っている。
 音楽評論家の佐伯茂樹氏は「ベートーヴェンの第九は、古典派時代に生まれた交響曲というジャンルの総決算で金字塔的存在とみなすことができる。誤解を恐れずに言えば、ベートーヴェンという作曲家は、交響曲を完成させた功労者であると同時に交響曲の破壊者でもあったのである」と記す。
 大指揮者ハン・フォン・ビューローは、ブラームスの交響曲第1番を、このベートーヴェンの第九に続く、「ベートーヴェンの交響曲第10番」と呼び、高く評価した。ブラームスは慎重な性格のためもあるが、この交響曲第1番の作曲に21年という長い年月をかけている。音楽評論家の岩下眞好氏は、楽聖ベートーヴェンのプレッシャーのために作曲の時間がかかったと指摘し、「ブラームスの作曲家としての成熟のプロセスは、ベートーヴェン・コンプレックスを克服する道でもあったのだ」と書いている。
 マーラーもベートーヴェンを強く意識した作曲家だった。ベートーヴェンの第九は、ワーグナーが「ベートーヴェンの第九をもって交響曲は終わった」といったぐらいの傑作。この第9番という曲数に呪縛された。交響曲第8番を作曲した後、番号をつけない声楽を伴う交響曲「大地の歌」を発表。その後に第9番を作曲した。マーラーは、第9番を作曲すると死んでしまうのではないか、という恐怖にとらわれていたという。結局、第10番はマーラーの死とともに未完成に終わった。
 交響曲だけではない。ベートーヴェンのピアノ協奏曲、弦楽四重奏曲、ヴァイオリン・ソナタなどすべての分野を後世の作曲家は意識した。「後世の作曲家はベートーヴェンのピアノ・ソナタをソナタ形式の生きた実例、教科書として学んだ。ピアノを表芸としなかった作曲家も、修業中に必ず弾いて勉強した」と音楽評論家の高久暁氏は書いている。 
 特集は他に、◎私の魂を揺さぶるベートーヴェン(ドナルド・キーン)◎時代の鏡に映るベートーヴェン◎ウィーンの階級社会とベートーヴェン◎「ミサ・ソレムニス」を指揮する鈴木雅明◎ベートーヴェンを礼賛するフランス人、などを取り上げている。

◎BIGが語る 
アルベルト・ゼッダ 指揮
 日本のお祝いでは米寿。88歳を迎えたイタリアの指揮者、アルベルト・ゼッダ。ちなみにイタリアでは米寿のお祝いはないそうだ。たびたびゼッダが指揮をしている藤原歌劇団は12月1日、米寿記念のコンサートをオーチャードホールで行う。プログラムはロッシーニのスペシャリストゆえ、ロッシーニの「スターバト・マーテル」とカンタータ「テーティとペレーオの結婚」。
「真の課題は、誰にでも共通する“老いること”ではなく、生き生きと元気に活動出来て。社会の役にも立ちながら歳を重ねることなのです。音楽への熱意はこれまで決して冷めたことはありません」と話す。

◎宮本文昭の気軽に話そう ゲスト 軽部真一 アナウンサー
 ヴァイオリニスト、高嶋ちさ子とのコンサート「めざましクラシックス」が来年で20周年を迎える。「まさか20年も続けることになるとは、自分たちが一番驚いています」と軽部は話す。来年7月、東京芸術劇場で20周年記念のフェスティバルが開かれ、「めざクラ流超絶技巧選手権」などを予定している。「高嶋さんがずっと温めていた企画で、楽器もプロ、アマも一切問わず、とにかく演奏で我々やお客さんを驚かせてほしい」と話している。

このほか
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表紙 レナード・バーンスタイン

特集
レパートリーとなった20世紀の名曲

 21世紀も16年過ぎて、20世紀生まれの作品が続々と演奏家やオーケストラのレパートリーになっている。20世紀前半の、ロシア・バレエ団の活動によって生まれたストラヴィンスキー「春の祭典」、シェーンベルクやベルクら新ウィーン楽派の作品、戦後前衛の時代にはセリエリズム、偶然性などさまざまな作曲潮流が生まれた。そしてブーレーズやリゲティ、デュティユーら戦後生まれの曲も最近、ひんぱんに演奏されるようになった。
 マーラーは19世紀後期ロマン派に活躍した作曲家だが、交響曲でいうと第5番以降は20世紀の作品。第5番は1901~2年、第6番は1903~4年、「大地の歌」は1908年、最後の第10番は1910年で未完成に終わった。ドイツ文学の許光俊氏は、マーラーの音楽において後の時代を予感させるものは「過剰感」だという。「世界はひとりの人間が把握するためには、過剰でありすぎるのだ。マーラーの音楽には、世界と格闘しているひとりの人間の姿がある。マーラーは過剰な世界に対応する、過剰な音楽を書いた」と記す。
 現在、映画「シン・ゴジラ」がヒットしている。今年は、歴代「ゴジラ」の音楽を作曲してきた伊福部昭の没後10年になる。伊福部は北海道に生まれ、ほとんど独学で作曲家となった。21歳のとき、「日本狂詩曲」がチェレプニン賞を受賞し、楽譜が世界で出版され、各国で演奏され、ラジオで聴いたシベリウスも賞賛したという。生誕100年の2014年、そして今年と独特の伊福部サウンドが各地の演奏会で聴かれた。
特集は他に、◎「ばらの騎士」~人生の黄昏と時代の黄昏◎ディアギレフのバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)と音楽◎クルト・ヴァイルの辿った道◎オペレッタからミュージカルへ◎レナード・バーンスタイン◎武満徹没後20年◎クレーメル、インタビュー、などを取り上げている。

◎BIGが語る 
このほか上岡敏之 指揮
 9月に新日本フィルハーモニー交響楽団の第4代音楽監督に就任した上岡敏之。就任披露演奏会は、R.シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」やブラームス「ピアノ四重奏曲第1番(管弦楽版)」などを取り上げた。「新日本フィルのオリジナリティーを追求し、そのよさを引き出すことで、今まで聴いたことのない新日本フィルの音楽に出会えるでしょう。ぜひそのクリエイティビティを体験してください」とプログラムに記した。また、3月にライヴ録音したマーラー「巨人」のCDも発売された。両者の関係は始まったばかりだ。

◎宮本文昭の気軽に話そう ゲスト 中野振一郎
 今月のゲストはチェンバロ奏者の中野振一郎。11月25日にHakujuホールで、ヴァイオリンの豊島泰嗣とデュオ・リサイタルを行う。2人は桐朋学園大学の同級生だが、共演は初めて。デビュー30周年記念でもある。「学生時代から互いに知ってはいたものの、本格的なコンサートをするのはほとんど初めてです。僕は何より彼の美しい音に惚れ込んだのです。2人ともデビュー30周年ですから新しいことを始めるにはいい機会です」と話している。

このほか
◎青島広志の「ブルー・アイランド版音楽辞典」
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表紙 ギドン・クレーメル

特集
カリスマ演奏家の魅力

 インターネットなど情報技術が発達した21世紀、カリスマと呼ばれる演奏家は少なくなった。演奏家に関する情報は瞬時に世界を駆け巡り、秘密めいたカリスマ性はなくなったことが一因だろう。
 かつてはそうではなかった。元祖とも言えるのは作曲家でヴァイオリニストのニコロ・パガニーニ。作曲した「24の奇想曲(カプリース)」は、左手によるピッツィカート、さまざまな重音奏法などあらゆる超絶技巧が含まれ、現代のヴァイオリニストにとっては聖典である。パガニーニはこのように圧倒的なテクニックを誇ったため、「悪魔に魂を売り渡してテクニックを手に入れた」という伝説さえ生まれたほどだ。
 音楽評論家の岡本稔氏はカリスマ性を持った指揮者として、ムラヴィンスキー、ベーム、カラヤン、チェリビダッケ、カルロス・クライバー、アーノンクールをあげている。そして「彼らの演奏会では、客席に期待感からくる独特の緊張が支配し、マエストロの登場とともにそれが頂点に達し、演奏が始まるや否やその音楽に心から魅了させるということを幾度も体験した」と記す。
 チェリビダッケは首席指揮者を務めたミュンヘン・フィルと何度も来日、日本でも絶大な人気を誇った。非常に遅いテンポを特徴とした。音楽評論家の広瀬大介氏は「ひとつひとつのパッセージに込められた作曲家の意図を、何が何でも聴き手に伝えようとする気迫、いや、執念のようなものが、あのテンポとなって現れている」と指摘した。
 またカルロス・クライバーも日本で超のつく人気だった。そして、フルトヴェングラーと人気を二分した父エーリッヒも、残された録音がたくさんCD化され、今でも聴き続けられている。親子で優れただけでなくカリスマ性ある指揮者はクライバー親子しかいない。カルロスは、ベルリン国立歌劇場音楽監督などを務めた父と違い、劇場やオーケストラのポストは持たず、振りたい曲だけを指揮した。カリスマにしかできない仕事の仕方である。
 特集は他に、◎ドナルド・キーンの「私にとってのカリスマ演奏家とは?」◎代役のチャンスをものにしたカリスマ指揮者◎バーンスタイン◎グールド◎ミケランジェリ◎パヴァロッティ、などを取り上げている。

◎BIGが語る 
高松宮殿下記念世界文化賞音楽部門受賞
ギドン・クレーメル ヴァイオリン
 ラトビア生まれで世界を代表するヴァイオリニストの1人、ギドン・クレーメルが今年の第28回高松宮殿下記念世界文化賞を受賞した。クレーメルは両親と祖父がヴァイオリニストという音楽一家で育った。1969年パガニーニ国際、70年チャイコフスキー国際の各コンクールで1位。「私はヴァイオリン王国で生まれたようなものです。よく言うことですが、私の運命はある程度生まれる前に決まっていたのです。運命とはいっても努力が必要です。10代のころ俳優になったり、ヴァイオリン以外の楽器をやって見ようと思ったりしたことがありました。自分に何が合っているのかは自分で決めようと決心しました」と語る。10月18日、明治記念館で行われる同賞授賞式に合わせ、来日する。

◎セイジ・オザワ松本フェスティバル
 セイジ・オザワエーエム津本フェスティバル2016が、8月中旬から9月にかけて長野県松本市で開催された。総監督の小澤征爾は体調を考慮し、プログラムのブラームス「交響曲第4番」を、ベートーヴェンの交響曲第7番に変更した。「ブラームスは僕にとっては大事な曲だし、オーケストラにとっても大事なんですが、もうちょっと体が完璧の時にやりたいと思ったのです。ベートーヴェンの方が精神的には楽じゃないけど、肉体的には楽。それで変えてもらったんです。申し訳ないと思っています」と話している。

このほか
◎青島広志の「ブルー・アイランド版音楽辞典」
◎外山雄三の「オーケストラと暮らして60年」
◎小山実稚恵の「ピアノと私」
◎宮本文昭の気軽に話そう ゲスト 山宮るり子 ハープ
など、おもしろい連載、記事が満載です。
1,049円
表紙 ワーグナーの大パトロン、ルートヴィヒ2世が建てたノイシュヴァンシュタイン城

特集
続 モーストリーが選ぶクラシック音楽世界遺産

 今年3月号で、「モーストリーが選ぶクラシック音楽世界遺産50」を特集した。今月号はその続編をお届けする。
 前回は、ウィーン国立歌劇場、ムジークフェライン、バイロイト祝祭劇場など劇場やホールなど建物を中心に選んだ。今回は、ホールや劇場に加えて、モーツァルトやベートーヴェンの生家、チャイコフスキーが亡くなった際に住んでいた家(チャイコフスキー博物館)、ショパンの葬儀が行われたパリのマドレーヌ寺院などを選んだ。建物だけでなく、グラインドボーン音楽祭やBBCプロムスなどの音楽祭、ショパン国際ピアノ・コンクール、1990年にローマのカラカラ浴場跡で初めて行われた3大テノール・コンサートなども入っている。96年には東京の国立競技場でも開催された。
 音楽評論家の石戸谷結子氏は3大テノールコンサートについて「その後の音楽界に計り知れない影響からみても、音楽世界遺産に登録すべき、大イベントだったと断言したい。『以後』に大きく変わったのは、クラシックの大衆化かもしれない。オペラ歌手がミュージカルやポピュラー曲を歌っても歓迎される。クラシックの境界線が低くなったことは確かだ」と記す。
 音楽評論家、加藤浩子氏の「オペラの舞台を訪ねる」(イタリア編、ドイツ、その他の国編)は、オペラ好きには楽しい読み物。「トスカ」の舞台になったローマの聖アンジェロ城、「シチリアの晩鐘」に出てくるシチリア島パレルモのサン・スピリト教会、スペイン・セビリアを舞台にした「セビリアの理髪師」など、たくさんの名所を紹介。弊誌を持って観光してみては。
 特集は他に、◎エステルハージ家とハイドン◎ナポリ・サン・カルロ劇場◎バッハが「音楽の捧げ物」を献呈したフリードリヒ2世のサンスーシ宮殿◎バイロイト音楽祭再開記念コンサートであるフルトヴェングラーの「第九」、などを取り上げている。

◎BIGが語る 飯守泰次郎 指揮
 新国立劇場の2016/17年シーズンは、10月2日、ワーグナーの「ワルキューレ」で幕を開ける。シーズンの最後は、「ワルキューレ」に続く「ニーベルングの指環(リング)」第2日の「ジークフリート」。飯守は「『リング』を通じて、権力抗争、自然破壊、愛の葛藤が描かれますが、中でも『ワルキューレ』は愛の葛藤が一番強い。ジークムントとジークリンデによる長い愛のデュエットなど、深い音楽で見ている人の胸を打ちます」と話す。

◎追悼 中村紘子
 日本を代表するピアニストの1人、中村紘子が7月26日、大腸がんのため自宅で死去した。享年72歳で、まだまだ今後の活躍を期待されており、早すぎる死を悼む声がたくさんあがっている。今月号には青澤唯夫、伊熊よし子、高久暁の3氏の音楽評論家の追悼原稿を掲載している。青澤氏は「聴く者を幸せな気持ちにさせる音楽を奏でる名手であった。多くの日本人にとって、ピアニストと言えばまず第一に中村紘子だったのかもしれない」と記している。

このほか
◎青島広志の「ブルー・アイランド版音楽辞典」
◎外山雄三の「オーケストラと暮らして60年」
◎小山実稚恵の「ピアノと私」
◎宮本文昭の気軽に話そう ゲスト 醍醐園佳 ソプラノ
など、おもしろい連載、記事が満載です。
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「MOSTLY CLASSIC」(モーストリー・クラシック)は毎月20日発売の月刊音楽情報誌です。バッハやモーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスなど作曲家の魅力をはじめ、交響曲や協奏曲、ピアノ曲など音楽のジャンル、また世界各地のオーケストラやホール、ヴァイオリンやピアノなどバラエティーに富んだテーマを毎号特集しています。またピアニスト、小山実稚恵さんや小菅優さんの連載など読み物もたくさん。ソリストの活動やオーケストラ事情など毎月新鮮な情報を掲載しています。知識が少し増えるとクラシックを聴く楽しみが倍加します。コアなファンからクラシックは少し敷居が高いと思われている初心者まで誰でも楽しめる雑誌です。

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